第84話 疑念払拭???

 黒い石門の足元に怪人の死体が散乱している。


 ここは東門の怪我人キャンプ。どうやら、脱出装置で無事狙った場所に着地できたようだ。


(てか、臭いキツ……)

 思わず顔をしかめる俺の隣で、


「おお、レイカちゃん。久しぶり。相変わらず綺麗だね」

大きく手を広げたライトニングが一番近くにいた女性に歩み寄って行った。


「ライトニングさん。挨拶よりも先に服を来て下さい。というか、馴れ馴れしく名前呼ばないで下さい……」

 女性が明らかに面倒くさそうな顔をするが、


「あはは、その突き放すような態度も相変わらずだなぁ。でも、そういうところも可愛いよね」

そんなのお構いなしで話しかけている。

というか、ほぼ口説きにいっている。


(なんだあの野郎、めちゃくちゃ女好きじゃねーか)


 呆れた俺が僅かに視線を横にズラすと、


バチリッ。

こちらを不思議そうに眺める少女と目が合う。


 その瞬間、口から心臓が飛び出そうになった。


(んげ! サツキ!?)


 血のように紅いバトルスーツを纏い、明らかに周囲とは異質の空気を放っている。


 何よりも目を引くのは。背中に差した3対のブレード。

 遠目からだと、まるで本物の羽が生えているかのように見える。


(くっ、我が作品ながら、なんてかっこいいデザインなんだ……)


 そのあまりの眩しさに俺が目を覆っていると、


「あの~」

いつの間にか真横まで移動してきていたサツキが声を掛けてきた。


 それに、陽気な口調で応じる。


「や! どうしたんだい、お嬢さん。もしかして、僕に何か用かな?」


 すると、サツキがギョッとしたように顔を引きつらせた。


「いや、ちょっと知り合いに声が似てたもので……」


 明らかに戸惑っている。普段の俺とは真逆の陽のオーラに。


「知り合い? それは親しい人なのかい?」

「まあ、一応、兄ですけど……」


「へー、お兄さん。君のお兄さんも僕みたいに陽気な人なのかーい?」

 コミカルな動きと共に俺が尋ねると、一瞬悩むような素振りをみせてサツキが答えた。


「……まあ、似たようなものかと」


(いや、1ミリも似てないわ! こいつの感性どうなってんだ!)

 危うく叫びそうになるが、何とか気持ちを抑える。


 ここで本性をばらしたらお終いだ。


「へ、へえ。君のお兄さんも明るい人なんだね。ご職業は君と一緒でヒーロー? そんなに似てるならぜひ会いたいな」

 咳払いで誤魔化した俺が興味津々といった様子で訊いてみると、


「むーりですよ。お兄ちゃんはヒーローじゃなくて普通のサラリーマンですし、今出張中で会えません」

サツキがブンブンと首を横に振った。


 その瞬間、はっきりと光明が見えた気がする。


 わざとらしく肩をすくめた俺は、からかうような口調に変えて言った。


「はっはーん。さてはお嬢ちゃん、大好きなお兄ちゃんが出張で、長いこと会えていないから寂しいんだなぁ?」


 すると、


「はい?」

明らかにサツキがムッとする。


「だから、おじさんと勘違いしちゃったんだ」

「いや、全然違いますけど……」


 頬をヒクつかせるサツキを見て、フッと鼻で笑った。


(単純な奴め。犬猫より簡単に手玉に取れるな)


「強がっちゃって可愛いねー」

 ワシャワシャと頭を撫でてやると、


「ち、が、う、てばー!」

手を振り払ったサツキがダンダンと地団駄を踏んだ。


(……勝った)

 完全勝利。既に手綱を握ったに等しい。


「さぁ、愛しのお兄ちゃんだと思って抱きついておいでー」

 両手を広げた俺が叫ぶと、


「あー、人違いでしたー! そういうの全然大丈夫ですー! さよーならー!」

慌てて身を引いたサツキが背を向けて去って行く。


(ふぅー、何とかなったか。一時はヒヤリとしたが、これで一安心だな)

 ホッと安堵の息を吐いた俺が、その後ろ姿を見送っていると、


「おーい、新人くん。あっちで一緒にメシ食おうぜー」

向こうからライトニングが歩いてきた。


 しかし、途中でサツキに気づいて足を止める。


「あれ、君可愛いね。どこの部隊の子?」


 そのまま肩に手を回そうとするので、


「なぁにやっとんじゃい!」

思わず飛び蹴りしてしまった。


 ドパン。

 派手な音を立ててライトニングが吹っ飛んでいく。


「ん?」

 それを見たサツキが、不思議そうな顔でこちらを振り向いた。


(やっべ……)

 冷や汗を垂らしながら起き上がる俺の元に無言で歩み寄り、力尽くでヘルメットを脱がそうとしてくる。


「顔、み、せ、て!」

「や、め、ろ!」

 俺とサツキが引っ張り合いをしていると、


ミシミシ。

首元で嫌な音がした。


(うげ!? 素手でバトルスーツが壊される! こいつ、どんな怪力してんだ!?)


 今正に首の支えが千切れるという瞬間、


「三枝さーん! 遊んでないでこっちに来て下さい! 情報共有しますよ!」

紺色のバトルスーツを纏った女性が遠くから声を掛けてくる。


「むっ」

 お陰でサツキの力が緩んだ。


「ん~」

 それからしばらく悩んでいたが、やがて諦めたように去って行く。


(あっぶねー)

 再びその後ろ姿を見送り、ホッと安堵の息を吐いた。


「次見つかるとヤバそうだし、隅で大人しくしてよ」

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