第85話 現状確認
「おお、ライトニング! 無事で良かったぜ!」
石門の下で縞馬柄のバトルスーツを着た男と、上裸の金髪男が抱き合っていた。
右を向けば、立ち並ぶ白いテントの前で紫紺のバトルスーツを纏った女性が緊急治療を受けている。
少し前に運ばれて来たのだが、かなりの重傷らしく意識がない。
左を向けば、無線機を手にしたコメットが忙しなく言葉を交わしていた。
(なんか大変そう……)
その様子をサツキがぼんやり眺めていると、やがて通信を終えたコメットが顔を上げる。
「三枝さん、お待たせしてすみません」
そう言うと、コメットが辺りに向かって呼びかけた。
「皆さん、情報を共有しますのでお集まり下さい」
すると、周囲から人が続々と集まってくる。
ビッグバン事務所とヒーロー軍。
それぞれの隊長格だ。
総勢10人程。
コメットを中心に小さな円を作る。
全員の顔を一通り見回して、コメットが話し出した。
「これまでの所、我々は仮面舞踏会の主要戦力であるNo.2、No.3、No.4、No.5の討伐に成功しています」
そう言うと、手元のタブレットを見ながら情報を読み上げる。
「ええっと――No.2は白烏隊のディパーチャーが単独で撃破。その課程でフラッドさん……じゃなくて、スピードさんが戦闘不能に陥っています」
No.2との戦闘でスピードは全身の打撲骨折に加え、内臓にも傷を負っている。
意識は戻っているが、戦線への復帰は不可能だろう。
「続いて、No.3を彗星隊のミーティアとジィーブラさんが共闘で撃破。この戦闘でジィーブラさんが複雑骨折を負い、戦線を離脱しています」
「まあ、戦線を離脱したと言っても無理すればすぐ復帰出来るけどな」
縞馬柄の男“ジィーブラ”が歯を見せて笑うが、
「馬鹿言ってないで、大人しくしててください。怪我人に無理されても迷惑なだけです」
コメットに一蹴される。
「あーあ、新人の時はあんな頼りにしてくれたのによぉ……」
ぼやくジィーブラを無視してコメットが話を続けた。
「――No.4はライトニングさんを救出しに向かったスパイラルさんの部隊が途中で遭遇し交戦。最終的に瓦礫の下敷きとなった為、死亡と断定。この戦闘での怪我人は一人だけ。既にキャンプに運び込まれ、治療を終えています。スパイラルさんを始めとする他のメンバーには西門側の制圧へ回ってもらいました」
救出班で唯一怪我を負ったのはヒーロー“アックスマン”。
民間ヒーロー側の部隊長を務めるおじさんで、今はテントで寝ている。
「そして、No.5――」
一度言葉を区切ったコメットが石門の足元に転がる死体の山を指差した。
その中央に朱色の法衣を纏った男が仰向けに倒れている。
頬に刻まれた数字は『5』。
「奴は30体近い部下を率いて東門を強襲して来ましたが、怪我人キャンプに控えていたヒーロー全員で協力し、何とか倒すことが出来ました」
そう言うと、酷く難しい顔をした。
「主な戦果の報告は以上になりますが、実は一つ気になる情報が入ってまして――」
コメットの言葉を遮って上裸の金髪男が口を開く。
「ヘルツリーが複数いるって言うんだろ?」
ヒーロー“ライトニング”。
「何故それを?」
驚くコメットを横目に、珍しく真剣な表情を作った彼が言った。
「――ヘルツリーはね、3体いるんだ」
☆☆☆☆☆
「奴は自身の能力のことを“挿し木”と呼んでいた」
「挿し木……ですか?」
「そう。自身の体の一部を使って分身を作る能力―― No.2とNo.3は奴の分身体なんだよ」
「そんなことがあり得るんですか!? どっちもS級並みの強さですよ?」
ライトニングとコメットが忙しなく言葉を交わしている。
(ブンシンタイ……?)
その真後ろにあるテントの陰に隠れた俺は、静かに二人の会話に聞き耳を立てていた。
「ヘルツリーという怪人はね、全ての個体で一つの意思を共有していて、一体でも打ち漏らせばまた増植するんだ」
「つまり、やるなら一体残らずやれと」
「そういうこと。因みに今のNo.1の居場所は?」
「―― No.1は西門付近でプリティーウーマンさんを半殺しにした後の足取りが掴めていません。おそらく中央塔へ移動したものかと」
「プリティーウーマン? もしかして、キューティーキャットのこと? 酷い名前になったね」
「元のと大差ない気が……」
「それで? 今、中央塔はどうなってるの?」
「現在、ディパーチャーとミーティアの両名が攻略中ですが、仮面舞踏会が全ての戦力を集結させての籠城戦を展開している為、攻め切れていないのが現状です」
「ふーん、じゃあ。手伝いに行こうか。ユニバーサル式の予備くらいあるでしょ?」
「え? ライトニングさんが戦うんですか?」
「ああ。No.1はちょっとレベルが違うからね。同じS級という括りでもNo.2やNo.3とは別格だ」
「では、私も――」
「いや、レイカちゃんは残って怪我人達を守ってよ。またキャンプが襲われたら困るでしょ?」
「はぁ。分かりました」
いつの間にか、ライトニングが指揮をとっている。
(それで良いのかヒーロー軍……)
「そんじゃ、準備して即出発だ」
ライトニングの掛け声に合わせて足音が広がって行く。
そのうちの一つがこちらに近づいてきた。
「やべ、盗み聞きしてたのバレる」
慌てた俺が近くのテントの中に飛び込むと、
「ガァ……ガァ……」
ボクサーパンツに白タンクトップ姿のオッサン隊長が簡易ベットの上でイビキをかいて寝ている。
その横に綺麗なまま畳まれた黄土色のバトルースーツを見て、手に取った。
ユニバース式の最新モデル――。
隊長格なだけあって良いスーツを支給されている。
(このオッサンが持ってても宝の持ち腐れだろうに。ビックバン事務所の連中何考えてんだ?)
試しにバトルスーツを広げて体にあてがってみる。
すると、まさかのサイズピッタリだった。
「おお、こりゃいい」
改めてオッサンが寝ている事を確認し、懐に忍ばせる。
「こいつは俺が有効活用させてもらおう――今から俺が“アックスマン”だ」
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