第64話 ビックバン事務所へ
「ようこそ! ビックバン事務所へ!」
俺たちが建物へ足を踏み入れると、早速受付のお姉さんが笑顔で迎えてくれた。
(はぇ〜。中も広ぇな)
清潔感のある建物内を見回しつつ、目の前のカウンターに近づく。
「すみません。今期入所希望の者ですが」
開口一番俺がそう告げると、
「今期入所の方ですね。ウェブサイトからお手続きは済ませてありますか?」
受付のお姉さんが首を傾げながら尋ねてきた。
「はい。情報登録済みです」
「そうですか。少々お待ちください」
そういうと、カタカタとパソコンをいじり始める。
少しして、
「お名前よろしいでしょうか?」
手元を見たまま質問を飛ばしてきた。
それに、
「駄間ダマ男です!」
間髪入れず答える。
「駄間ダマ男……? 珍しい名前ですね……」
「はは、よく言われます。キラキラネームってやつですね」
フッと髪をかき上げる俺の耳に、
「いや、キラキラネームというよりドロドロネームのような……」
ボソリと呟く受付嬢の声が届く。
(おい、聞こえてるぞ……)
その後も、生年月日や住所など、ありきたりな質問に俺が答え、受付のお姉さんがパソコンに入力するという作業が続いた。
(なっが、いつ終わるんだこれ)
いつまでも続く事務的なやり取りに飽きてきた頃、
「ご本人様確認完了となります。最後にヒーロー証の提示をお願いします」
寸分の衰えも見えない営業スマイルでお姉さんが告げた。
それに応じ、懐から運転免許証の様なカードを取り出す。
ヒーロー証。
ヒーロー適正審査をパスし、国にヒーロー資格を認められた者が所持する証明書だ。
しかし、俺が持つカードはティガーが用意した偽造品。
どれほど精巧に造られているかは未知数だ。
俺からヒーロー証を受け取った受付嬢が、カードをスキャン台に載せるのを固唾を飲んで見守った。
(行けるか?)
俺の背後で自身の順番を待つテツもゴクリと唾を飲み込むのが分かる。
ピッピロ、ピッピロ、ピロピロピー。
カードを載せた機械が甲高い音と共に、赤緑交互で点滅した。
どうやら、情報を読み込んでいる最中のようだ。
ピッピロ、ピッピロ、ピロピロピー。
永遠にも感じる時間が過ぎた後、
「お疲れ様でした。ヒーロー登録の手続きは以上になります」
受付のお姉さんがそう言ってカードを返してくれる。
「ふぅー。ありがとうございます」
続けて、テツも同様の手続きを行い、そちらも問題なく終了した。
無事にヒーロー登録を終え、安堵する俺とテツの目の前に、
「続けて、お二方には所属希望部隊の選択をお願いします」
お姉さんが五枚の顔写真を差し出してくる。
「所属希望部隊の選択?」
「はい。ビックバン事務所に所属するにあたって、新人ヒーローの皆様にはこちらの五名が隊長を務める部隊のうちどれか一つに入隊してもらうことになります」
お姉さん曰く、今期同時入所した新人ヒーローは俺たちを含め15人で、各部隊に3人ずつ配属される予定らしい。
人気の部隊を選択してしまうと、抽選となる為、希望が通らない事もあるとか。
因みに選択できる5部隊の中にギャラクシー4は含まれていない。
「流石に最初から探りを入れるのは無理か……」
手渡された隊長の顔写真をペラペラとめくっていく。
筋肉質な男性、妖艶な女性、美しい青年――。
大切なのは俺とテツが同じ部隊に入ることだ。
(まずは俺の安全確保が第一優先。それあっての任務遂行だ。こんなチンケな任務で身を危険に晒す訳にはいかないからな)
故に人気のなさそうな隊長を選ぶ必要がある。
「一番しょぼそうな奴、一番しょぼそうな奴……」
顔写真を前から順に眺めていき、最後の一枚で手を止める。
精悍な若者の中に紛れ込んだ明らかに場違いなオッサン。
肥満気味の中年で、全くオーラがない。
「うーん、完璧だ……! このオッサンにしよう!」
☆☆☆☆☆
「失礼しまーす!」
その日、雨木先生に呼び出されたサツキは意気揚々と職員室を訪れていた。
「サツキちゃん、ごめんね。昼休みなのに呼び出しちゃって」
「いえ、全然大丈夫ですよ。ちょうど暇してたので」
へへへと笑い、窓際の雨木先生の席に近づく。
「そう言ってくれると助かるよ。実は今回、サツキちゃんの耳にどうしても早い段階で入れておきたい大切な話があってね」
「大切な話ですか?」
「ああ」
サツキの質問にコクリと頷いた雨木先生が机の引き出しから一枚のA4用紙を取り出した。
そして、
「まず、これに目を通してよ」
何の説明もないまま手渡してくる。
『仮配属先希望アンケート』
その先頭にデカデカと記された一文を見て、眉をひそめた。
「仮配属先希望アンケート???」
ザッと目を通してみるが、呼び出された理由がいまいちピンとこない。
「それは来週、クラスのみんなに配ろうと思っているアンケートだよ。二年生では実際にヒーロー軍として活動している部隊のどれか一つに仮入隊して実践経験を積んで貰う事になるからね。どこの部隊に配属されたいかの希望用紙さ」
「はぁ。それで……なぜそれを私にだけ先に……?」
うんうん。
サツキの問いに待ってましたとばかりに頷いた雨木先生がスッと真剣な表情になって言う。
「実はね、サツキちゃんのことを自分の部隊に入って欲しいと名指ししている人がいるんだ。所謂、逆指名ってやつだね」
「逆指名? 私を?」
「ああ。それも超が付くほどの大物だよ」
「一体、どなたなんですか?」
ゴクリと唾を飲み込むサツキに、
「驚くことなかれ……」
雨木先生がその名を告げる。
「なんと、仁田シロエ大尉だ!」
うーん。
雨木先生の発言を受け、静かに天井を仰いだ。
窓の外を見て、再び前を向く。
清々しいほどの沈黙。
なぜかドヤ顔の雨木先生を前にして糸のように目を細めた。
(いや、誰……?)
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