第40話 出会いと別れ


(あ〜、初顔合わせ緊張するー)


 その日、サツキ達コマンダー養成プログラムの参加組は体育館横の会議室に呼び出されていた。


 一つ深呼吸をし、扉を開ける。

 すると、室内には既に二人のプログラム参加者が待機していた。


 その顔触れにさっそく気後れする。

 一人はクラスメイトで実技テスト学年二位の西園寺アオイ。

 そして、もう一人は実技テスト不動の学年一位である王岸リュウだ。


 王岸リュウは金髪金眼の無愛想な二枚目で、他の追随を許さない圧倒的な実力者。

 学力テスト不動の学年一位であるサツキと合わせて“一年の二明王”などと呼ばれる。


(うわ、実技テストの学年一位と二位の揃い踏みだ。しかも、なんか雰囲気悪いし……)


 会議室の右奥と左奥に座り、露骨に顔を背け合う二人。

 座席を迷いに迷ったサツキが中間の席に腰掛けると、


ガラガラ。

それと同時に部屋の前のドアが開かれた。


 直後にチャラついた格好の男子三人が入ってくる。

 先頭に立つのは赤髪丸顔の東浦キョウスケ。

とにかく素行の悪い東浦コーポレーションの御曹司だ。


 その背後には取り巻きの猪頭ユウ、鴨川ケイタが続いている。

 彼等はどちらも姓に動物の名前が入っており、顔もどことなく似ている。


 いずれも実技テスト学年順位一桁常連の実力者。


 ドカリと最前列に腰掛けた三人が室内を見回して、こそこそと話し出した。


「ん? なんで三枝がいるんだ?」

「さぁ、勉強できるからじゃね?」

「実戦には関係ないと思うけどな」

 居心地の悪さを感じたサツキが身を小さくしていると、


「どうやら皆さん、既にお揃いのようですね」

会議室に紺色のスーツを着た美しい女性が入ってきた。


 キリッとした眉に生真面目そうな口元。

 まるで、どこかの大物政治家の秘書のようだ。


 真っ白なプロジェクトスクリーンの前に立った彼女が生徒達を見回して口を開く。


「私が今回コマンダー養成プログラムを担当する事となったヒーローネーム“コメット”、青霧レイカです」


 その聞き覚えのある名前に、室内がどよめいた。


 ヒーローネーム“コメット”

 最近最も勢いのある若手ヒーローの一人にして、七剣神王“ミーティア”が率いる彗星隊の副官。

 パワー特化のハイスペックで、世界最高の握力をもつと言われるヒーローだ。


 何でも片手一本で怪人の頭蓋を破壊できるとか。


(この人がコメット? イメージと全然違う。もっと荒々しい風貌の人かと思ってた……)

 どうやら皆もそう思ったらしく、未だに室内が騒ついていた。


 ヒーロー軍所属のヒーローは基本的にメディアで顔を露出しない。

 インタビューに応じる際はヘルメット着用が原則である。

 これは怪人からの報復を避ける為の措置だ。


 ヒーロー“コメット”の性格は恐ろしく冷徹で誰に対しても物怖じしないと聞いている。

 噂では軍配属初日に新人にとって雲の上の存在である“ミーティア”をぶん殴ったらしい。

 理由は態度がナヨナヨしていてムカついたからだそうだ。

 それで現在彼の副官に収まっているんだから不思議な話である。


「皆さんお静かに。これよりコマンダー養成プログラムの説明を始めます」

 パンパンと軽く手を叩いたコメットが柔らかな声で説明を開始する。


「コマンダー養成プログラムでは今後の部隊配属を見据えた実践的な訓練を行っていきます。その過程で実際に怪人と戦う機会もあり、これまでよりも多くの危険を伴う事になるでしょう」

 そう言ったコメットが一度言葉を区切り、一枚の用紙を指し示していった。


「そこで今回のプログラム参加には保護者のサインが必要となります。参加希望の方はご家族と話し合い、サイン付きのこの用紙を今週中に提出して下さい」


☆☆☆☆☆


「いやー、この度はうちのケイソウがお騒がせしてすみません」

 正面の席に腰掛けたファローが大して悪びれた様子もなく謝罪を口にした。


「いえいえ、ジークリンズさんにしても寝耳に水でしょうから。お気になさらず」

「そう言って頂けると幸いです」

 俺の返事を聞き、満足気にコーヒーを啜る。


 ここはジークリンズ本社から少し離れた所にあるファミレスだ。

 ジークリンズ本社は“細枝シンヤ”の勤務先としてヒーロー軍にマークされている為、こうして外で顔を合わせている。


「我々ジークリンズとしては細枝シンヤが怪人であることは知らなかったとシラを切り通すつもりです。これ以上ガーディアンズさんにご迷惑はお掛けしないと約束しますよ」

 自信満々に言い切るファロー。

 どうやらヒーロー軍の追究を躱す準備は完璧らしい。


「そうですか。そこまでおっしゃるのであれば信じましょう」

 その言葉ににこやかに応じる。


(この人、怒らせるとめちゃくちゃ怖いからな……)

できるだけ相手を刺激しないように言葉を選ぶ俺の横で、


「ほんとに大丈夫かよぉー。俺たちの情報漏らしたら承知しないぞ、このこのぉ〜」

それまで黙ってハンバーグにがっついていたレオンくんが戯けたように呟いた。


「……」


ボフッ。

その口元に無言でポテトを突っ込み再び黙らせる。


 今回の件でジークリンズとガーディアンズの共同プロジェクトは一時凍結。

 再開の見込みも立っておらず、事実上の白紙だ。


 現状のジークリンズと関わりを持ち続けるのはガーディアンにとってリスクが高すぎる。


「今回のプロジェクトはこんな形になってしまいましたが、機会があればまたよろしくお願いします」

「ええ。こちらこそ」

 ファローの挨拶に頷き、握手を交わす。


「次はとちるなよなー。ケツ拭くのも大変なん――」

ボフッ。


 これでジークリンズとの会合は最後だ。

 今後、ファローと顔を合わすことはないだろう。


 悠々とファミレスを去って行くその背中に声をかける。


「ファローさん、気をつけてください。あなたも反英雄アンチヒーローに狙われるかもしれない」


 すると、肩越しにこちらを振り向いたファローがヒラヒラと右手を振った。


「心配無用ですよ。あんな雑魚、一瞬で返り討ちです」


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