第38話 胎動の予感
『代わって、お昼のニュースを放送します』
ガラス張りの喫煙ルーム内にニュースを読み上げる無機質な声が響く。
長い息と共に煙を吐き出した俺が顔を上げると、硬い表情をした男性アナウンサーと目があった。
『昨日のショッピングモール強襲事件以降、
尚も言葉を吐き続ける壁際の小型テレビから視線を逸らすと、ちょうど派手なスーツを着たティガーがこちらに歩み寄ってくるのが目に入った。
「やぁ、相棒。遅めの昼休憩かい?」
「まぁな。そういうお前は?」
「うーん、僕はいわゆる自主休憩ってやつかな」
「ただのサボりじゃねーか……」
俺の言葉を聞き流したティガーが壁際のテレビを観て肩をすくめる。
「しかし、偽者くんも、あっさり正体がバレたものだね」
「そりゃあまあ、戦闘用ケーブルなんて使えば足がつくわな」
ドバック社製の戦闘用ケーブル01。
相当な変わり者で無ければ、まず手を出さない珍しい武器だ。
その為、入手ルートが限られ、購入者も簡単に特定されてしまう。
(なんでそんな武器使ったかねぇ。ケイソウさん……)
細枝シンヤ。又の名を怪人“ケイソウ”。
俺の偽者の正体にして元取引相手だ。
なんでも、ショッピングモール襲撃の直前に近くのバトルスーツ備品店で“戦闘用ケーブル”を購入した所から身元がバレたらしい。
「そういえば、ヒーロー雑貨屋の店主となんか言い合ってたな」
タバコを灰皿に押し付けながら、ふと大人二人が言い争う光景を思い出した。
(どうせ偽者を演じるなら、もっと上手くやってくれなきゃ。面白くないよな)
☆☆☆☆☆
「う〜寒っ」
ショッピングモール襲撃事件から一ヶ月。
無事退院を果たしたサツキは、すっかり元の日常を取り戻していた。
二月の寒さに身を縮めつつ、通学路を歩く。
マフラーと毛糸の手袋をもってしても、冷気を完全に遮断するには至らない。
(今度、新しいコートでも買おうかな)
下駄箱で何とはなしにスマホの画面を覗き込むと、気になるネットニュースが目に飛び込んできた。
ー なぜ
デカデカと記された題名をクリックすると、専門家による考察がびっしりと表示される。
「うわ、長……」
その要点を纏めるとざっとこんな感じ。
『本来、
しかし、偶然その場に居合わせた女学生による予想外の抵抗に合い、万が一の隠し球として仕込んでいた戦闘用ケーブルを使ってしまった。
そこから足がつき、正体がバレるに至ったのだ。
故に、今回の件での最大の功労者はヒーロー軍到着までの時間を稼いだ女学生であると言える』
(わぁ……めちゃくちゃ褒められてる)
その余りのベタ褒めっぷりにニヤけながら教室へ続く廊下を進んでいく。
すると、
「みんなー早く席についてくれー」
扉の外まで雨木先生の声が聞こえてきた。
「なんかあったの?」
自分の席についたサツキが後ろに座るユナに尋ねると、
「さあ? なんか重大な話があるんだって」
首を傾げながら小声で教えてくれる。
「ふーん」
興味薄で頷くサツキの目の前で雨木先生が声を張った。
「えー、今日みんなに話したいのは今季から導入されることになったコマンダー特別養成プログラムについてだ」
(コマンダー特別養成プログラム?)
聞き慣れない言葉にクラスメイト達がざわつく。
「コマンダー特別養成プログラムとはまあ簡単に言うとー、学生から将来の指揮官候補を育てようという新しい試みだね」
爽やかな笑顔を浮かべた雨木先生がプリントを配り始める。
コマンダー特別養成プログラムについて。
『前回のロイヤルウルフとの抗争でヒーロー軍上層部は優秀な人員の必要性を再認識し、特別養成プログラムを設ける運びとなった。
特に有事の際に軍を率いることができる指揮官が不足しているということで、一学年の成績優秀な生徒を集めて特別訓練を行う事にした。
開催期間は春休み前の二週間。
参加人数は全部で6名で、参加者の選定基準は選定員に任せるものとする』
(ほへー)
プリントに書かれた内容に目を通し、放るように机の中にしまう。
「参加人数たったの6人。それなら、私には関係ないかぁ」
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