第30話 ジークリンズ
「ああ、ネクタイきちぃー」
ピシリとスーツを着込み、都会の人混みを歩く。
今日はジークリンズとの初会合の日だ。
辺りを見回せばビル、ビル、ビル。
どれも同じ様な外観で全く見分けがつかない。
(ジークリンズの本社が入ってるビルどれだよ……)
顔を顰めた俺が、スマホの地図アプリを凝視していると、
「ねぇねぇ、ダマーラぁ。昨日のニュース見た?」
隣を歩くレオンくんが、興味津々と言った感じで尋ねてきた。
そちらを振り返ると、熊をデフォルメした可愛らしいお面と目が合う。
レオンくんは日替わりで様々な動物のお面を付けている。
これはボス流の特訓だそうだ。
お面をつけ、普段から他の動物に成り切る事で、多くの動物の長所を獲得した恐ろしい
名付けて『お面を付けてイメージ力補正する事で物凄いスペシャル作っちゃおう作戦』!!!
これぞ正に怪人界の英才教育だ。
因みに効果が有るかは知らん。ボスも思い付きでやっているっぽいし。
「ニュースって、もしかして偽者のことか?」
「そそ! やっぱり、しめるの? しめちゃうの?」
「そんな物騒なことしねぇよ。面倒くさいし」
「えー! なんで!? ダマーラなら楽勝でしょ? やっちゃおうよ! 面白そうじゃん!」
レオンくんがキラキラとした瞳でこちらを見上げてきた。
(偽者の討伐かぁ……)
昨晩見たニュースでの戦闘映像を思い出す。
一瞬で5人を蹴散らした苛烈な戦いぶり。
あの強さではヒーロー軍もかなり手を焼きそうだ。
「まあ、余りにも度が過ぎたら考えるかな。俺の評判に傷を付けられるのも困るし」
「いいね! そうこなくっちゃ!」
二人でワチャワチャと話しながら、一つの雑居ビルの前に立つ。
三階『字句林図』
間違いなくジークリンズの本社だ。
(捻りのない名前だな。バレるだろこれ……)
派手な電飾の施された看板を冷めた目で眺めつつ、建物内に足を踏み入れた。
正面のエレベーターを使い、三階へと上がる。
すると、
「お待ちしておりました。私、ジークリンズ東京本社の細枝シンヤ、怪人ネーム“ケイソウ”と申します」
一人の中年男性が出迎えてくれた。
狭い肩幅にガリガリの腕。
牛乳瓶の底のような分厚い眼鏡をしており、とても戦闘型の怪人には見えない。
顔に疲れが出た、弱々しい見た目の男だ。
「本日は上司の“ファロー”が不在なので、私が中心となってお話しさせていただきます」
深々と頭を下げる男を見て思う。
(……なんだか優しそうな人だな)
それが細枝シンヤこと、怪人“ケイソウ”に俺が抱いた最初の印象だった。
☆☆☆☆☆
「やっぱり、三枝さんは凄いねぇ」
「どうやったらそんなに頭良くなるの?」
翌日、サツキが登校すると、突然顔見知りのクラスメイト二人に話しかけられた。
不思議に思ってあたりを見渡すと、案の定というべきか、下駄箱の前に期末試験の結果が張り出されている。
学力部門一位、三枝サツキ。
その先頭に堂々と記された自らの名前を見てホッと息を吐き出した。
「よかったー。なんとか一位取れたー」
サツキは入学以来ずっと学力部門一位の座を守っている。
そのせいか、周囲のサツキを見る目は完全に“勉強ができる子”だ。
一位を取って当たり前だと思われている分、プレッシャーは半端じゃない。
(今回は西園寺さんと東浦くんが頑張ってたからかなり危ないと思ったけど……)
改めて張り出された試験結果を眺めると、二位に東浦キョウスケ、三位にアオイがランクインしていた。
「西園寺さん一点差で負けちゃったんだぁ。でも、東浦くんも相当勉強してたし、こればっかりは仕方ないよね」
一人呟いたサツキが内心で拍手を送っていると、
ギロリ。
不意に背後から刺す様な視線を感じる。
恐る恐る肩越しに振り返ると、人混みの向こうから東浦キョウスケが鬼の様な形相で睨んでいた。
その隣で珍しく満面の笑みを浮かべたアオイがこちらに向かって親指を立てている。
『一位を取った方に絶対服従』
二人の間のルールを思い出し、ぎこちなく顔を逸らした。
(やばー!? めちゃくちゃ巻き込まれてるー!?)
内心の動揺を悟られない様、薄い笑みを浮かべて立ちすくむ。
そんなサツキの元に、
「サツキー! 一位おめでとう!」
何も知らないユナが抱きついてきた。
「あわわ! ……ありがとうユナ」
「そんなに驚いてどうしたの?」
「ううん、なんでもないよ」
不思議そうに尋ねてくる彼女に向かってブンブンと首を横に振る。
しばらくポカンとしていたユナだったが、気を取り直したのか、再び満面の笑みを浮かべて口を開いた。
「ねぇねぇ! サツキ! 期末テストも終わったし、週末ショッピングモールに行こう! 面白そうなイベントがあるの!!!」
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