535話 派手に吹っ飛ばそう

「ボス、クランどうするの?」

「ん-、解体したらヴェンガンズに戻るかな」

「んだよ、結局戻ってくるのか」

「って思ったんだけど……このまま気楽にクランを渡り歩くってのもいいかな」


 ポンコツピンクと猫耳団子の二人に挟まれつつ、煙草を咥えるとポンコツピンクから火を付けられる。誰かに火を付けて煙草を吸うなんてそこそこ久々だった気がする。


「犬野郎の所行くのも良いし、情報クランはちょっと肌に合わないとして……アオメの所も良いな」

「あんなに拒否ってたのに行くっす?」

「こんなに大きい世界なのに小さい所であれこれしててもなあ……それに、色んな奴がいるってのが良くわかったし」


 折角集めた連中はイベント以外じゃさくっと好き勝手にやっているし、ヤスくらいだな、私にくっついているのは。何だかんだであいつら薄情だからなあ。


「色んな奴がいるって言ってもピーキーなの集めすぎなのよ、あんたは」

「褒めてもなんもでないっす」


 此処でなんか言っても仕方ない気もするけど、あまりにも制御が難しい奴らだったよ。意思疎通が難しい盾役、今時見ないオタク、あのマイカ並みのバトルジャンキー、姉妹以外どうでもいい2人。こうやってちょっと引いて考えてみると一癖も二癖も……ってレベルじゃないな。もうちょっと扱いやすい奴らだったら結構早い段階で負けてたかもしれんけど。


「まー、とりあえずは良いイベントになったわねえ」

「満足したなら何よりっす」

「クラン渡り歩くって言うなら私んところはー」


 しゅぱっとポンコツピンクの奴が手を挙げる。まあ、それもありっちゃありだな。やっぱりなんだかんだで見てみたいって興味があるわけだし。


「まー、そのうちな、そのうち」

「ちぇー、配信にも出てほしかったのにな……と、私そろそろいくね」


 ぷらぷらと手を振ってからポンコツピンクがマイハウスから出ていく。

 久々に私以外の奴を入出できるようにしたけど、たまり場のように使われるのはちょっと納得いかない。私だけの聖地だったきがするのに。


「俺様も行くかな……アカメが戻ってくるなら準備もあるし」

「予定は未定だから、いつ戻るかは決めないぞ」

「分かってるっての」


 続いて猫耳団子もマイハウスから退出。

 残ったのは私とヤスとフィーラのみ。


「楽しいイベントだったっす」

「そうだなあ、実りは多かったよ」


 毎回何かしらのイベントが起こるたびに装備やらスキルやら全部見直しと新調してたら飽きは来ないわな。とりあえずステータスは元に戻したし、装備も直せるところは直したけど、やっぱりいつまでも世代的に古い銃を使うのもなあ。トップだとかなんだかんだ言われてるけど、使ってる銃が古臭すぎるのはちょっとだめだな。


「あんたも、此処から出たら戻るんでしょ」

「いやー、自分も放浪するっす、なんかあった時にまた紹介出来るようにっす」

「無駄な努力とも言えるなあ……」

「色んな人に会えるのは楽しいっす、自分はそっち含めて楽しんでるっす」

「とか言って、身内でやった時は随分とノってたみたいだけど」

「よく見てるっす、ああいうのも楽しいっす」


 ぷぁーっと紫煙の輪を吐き出しながら、そんなもんかねえと言いつつがちゃがちゃと何かやっているフィーラに視線を移す。


「そういえばさっきから何をやらせているっす?」

「これ、吹っ飛ばそうと思って?」


 イベントの記念トロフィーを取り出してからフィーラを呼んで渡す。

 でかでかと下にはクラン名と名前、そして優勝の文字が掛かれている。


「正気っす?」

「やっぱこういうのは派手に吹っ飛ばすのが面白いのよ」


 そんな事を言いつつ、フィーラが土台の上にトロフィーを置いてからまたこっちに戻ってきて。


「準備が出来ました」

「よーし、いい子だな」


 フィーラが声を掛けてくるので、立ち上がってFWSを取り出し、咥えていた煙草を上下に揺らしながらチャージが終わるのを待つ。もうちょっと取り回しだったり、クールタイムやらが良かったらバカスカ撃っていきたいんだけど、それをやったら結構な下方修正が入りそうだし、このままでもいいか。


「こう言う事が出来るってのが、やっぱ特権よね」


 いつもの収束音が無くなり、視界に発射可能と表示が出るので、煙草を吐き捨てると共に引き金を絞る。これまたいつものビーム兵器かってくらいの光を放ちながら優勝トロフィーを消し炭……いや、消滅させてる。


「……あーあ、やっちまったっす」

「いいのよ、私のが無くなろうが、あんたたちは持ってるんだから」


 ぶしゅうっと内部気圧が外に出され砲身の冷却が始まる中、新しい煙草……いや、葉巻を咥えて火を付けて一服。


「こんな贅沢出来たのってこのゲームの中じゃ私だけだしな」


 ぷはーっと葉巻の紫煙を大きく吐き出して、えぐれた地面、消失していったトロフィーとその置き場を見てにんまりと笑う。


「それに私って、下と後ろを向くよりも常に上と前を向いているのが似合うじゃん?」


 にぃーっとギザ歯を見せ自分の家に来ていた奴らに顔を見せる。

 そんな横でちいさくぱちぱちと拍手をしているフィーラには後でご褒美だな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る