534話 諦めは悪い

 ずーっと手がいてえ。

 そもそも手で撃つような構造もしてないし、何だったら爆発が起きてその勢いで銃弾を飛ばしているわけだから、それを直接受けるんだから何回も使えるわけがない。大体いっぱい指の間に挟んでいるけど、指の位置関係で人差し指と中指の奴しか使えない。

 起動するのに思い切り殴りつける瞬間、親指を中に入れて第一関節で雷管を思いっきり殴りつけて発射するわけだが、これがまあ上手い事いかない。左右のボディをかました時は、親指の先を雷管の先に当てたが、反動の自爆ダメージがやばかった。あと倫理的に指の位置が危ない。


「そろそろ、決着付けませんか」

「それは、同感だな」


 正面から対峙した状態で2人揃って息を整えつつ、ちらりと手の中を見る。

 爆発の勢いと熱、衝撃やらでボロボロになっている手のひら。傍から見たらかなり痛々しい状態だが、これでも我慢しなきゃ勝てないってんだから苦労するよ。


「それじゃあ、さっさと……くたばれ!」


 銃弾を挟んだままの拳を構えて前に出る。こっちの戦い方は良く分かってるだろうから、構えてどっしり……というのをやめて、軽く構えた状態で受け流す系の動きに変わっている。

 そういえば何で銃弾挟んで殴ってるだけなのにこんなに動けるんだ?まさかとは思うけど、銃弾を持って撃つって事が出来るなら生身が銃って判定になるっぽい?随分と乱暴な判定な気もする。


 そんな事を考えつつ、雷管に触れないように握り直して、左のジャブで牽制を入れつつ、タイミングを計る。こっち軽い攻撃に対しては上げたであろうAgi値を生かして避けるか、細かい動きでいなすようにしてくる。って言うか、こっちがステゴロになって一旦距離を取った後にスモールシールドに切り替えている辺りは接近戦が上手い。盾の代わりはあって剣の代わりはないってのは、どういうことなのかって思ったけど。


「目の前の光景を見たら、確かにいらんわな」


 ジャブの牽制、ずっと出せるわけもなく、手を引っ込めた瞬間に光の剣が前髪を飛ばしつつ、横切るので口笛一つ。いきなり出てくる刀身ではあるが、大体の距離を掴んできたので、相手の動作さえ見切れれば直撃はそこまでしない。とは言うけど、さっき思い切り肩口ばっさりいかれてるから気を付けないといけないんだけど。


「ほんと、小賢しいですね」

「お前がその剣出せなくなったら、終わりだよ」

「貴方がその手を動かせなくなったら、終わりですよ」


 ああいえばこういってくるけど、よく見てるな。まー、結構顔に出てるからわかったのかもしれんが、正直あと数回ぶっぱなすしかHP的にも持たない。だから此処からは本当に我慢比べ。


「ヒリヒリするねえ」


 ジャブでの牽制、途切れたら振ってくる光の剣。この戦いを続け、どっちかが折れたら本当に一瞬で決着が付くはず。だから少しだけ左の回転を遅くして、向こうの攻撃を誘いつつ、タイミングを計りながら右を準備。当たり前だけど、向こうもただ打たれるだけじゃないから剣を出しつつづけながら振ってくるので手を止めてダッキングとスウェーで回避。やっててよかったボクサーズロード。そうして拳と剣を交えながら数度打ち合い、二人揃って『そろそろ決着が付く』と、予感する。


「今度こそくたばれ、クソ犬!」


 仕掛けはこっちから、左で打ち込んでいたジャブ……ではなく、急に右でジャブを繰り出して不意打ち。急な挙動の変化で狼狽えたところをさらにラッシュで追撃、左の銃弾をちらつかせて、右アッパーでのかちあげ+銃撃。炸裂音をさせながらガウェインの体勢、盾が跳ね上げられてボディががら空きに。すかさず左を用意して一気に体を捻ってねじ込むと共にもう一発。


「ぐぅ……!やりますね……!」


 さっきと同じ音と突き刺さった左を引こうとする瞬間に、ぐっと手首をつかまれて固定。引こうにも引けず、近い所で顔を見合わせると、振り下ろされる光の剣。咄嗟に右腕を出して防御するが、ガンシールドはとっくの昔に無くなっている。鈍い音と鮮血を飛び散らせながら、ぬるっと振り下ろされ。右腕から右目に刃が走って、視界を赤くする。そして急に出てくるHP低下の警告音。

 一太刀浴びせたのもあり、ぱっと手を離し解放される。向こうも向こうで結構力を入れた一撃みたく、疲弊しているのが見え、二太刀目の斬り返しをもらう前にこっちから蹴りを入れって2人揃って距離を取る。


「……我ながらしぶといわ」


 右腕は吹っ飛ばされてないけど、感覚はない。持ってた銃弾はパラパラ落としてしまったが、まだ左が残ってる。しかも朗報が一つ。距離をとり、こっちを見ているガウェインに対してニンマリとギザ歯を見せながら、残っている左手を構えて見せる。


「手癖が悪いですね」

「煩え間抜け野郎が」


 左手に収まっている拳銃。

 今までしっかり弾を温存してくれたおかげでぶち込むだけの弾はしっかり残っている。


 そしていつもの如く、ぐっと一瞬息を止めて引き金を絞る。

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