521話 ラーメンに入ってる魚のすり身

『やっぱり他の所に行ってほしいっす』

『大丈夫なら良いけど、いけるわけ?』

『ちょっとだけ自分を試したくなったっす』


 一旦離脱からの強襲を仕掛けて2:1を強要していたのだが、あまり私が力になれていなく、多少なりと注意を引くだけで基本はヤスとのばちばち勝負になっている。単純におしゃべり忍者、一二三の奴の対複数戦の上手さが出ている。カコルやら薫、メタリカ、ガヘリスと戦ってきたが、あいつらはどちらかと言えば対個人ばっかりに特化しているのでこうして複数戦に手慣れている奴だと2:1で戦っているメリットがあんまりない。


『相手が対複数戦に強いのもあるっす、だからここは自分にまかせて別場所の援護をお願いするっす』

『あいつ、相当強いから気を付けろよ』

『分かってるっす、だからって負ける理由にはならないっす』


 大きく息を吐き出して一二三の攻撃を二人揃って避けてから残していたグレネードを間に投げて爆破。視界が一瞬防がれたのを利用してするっとその場から離脱して、後はヤスに任せるとしよう。





「よかったんすね?アカメさんの援護がなくても」

「お互い、タイマンの方がやりやすいっす」


 グレネードの煙も晴れ、二人で対峙して武器を構えて睨み合い。一二三は刀を、ヤスは短剣をくるくると手元で回しながらじりじりと間合いを詰めつつ、攻撃のタイミングを計る。


「先手必勝っすよ!」

「そうとは限らないっす」


 先に一二三が駆け出すと、逆手に持った刀の反対から手裏剣が数枚投擲。その手裏剣をバックステップをしながら叩き落としてから同じように手裏剣を投げつける。当たり前だがそれも刀で弾き、お互い近接戦の距離になると一閃。金属音を大きく響かせ、火花を散らしながら鍔迫り合いから強めに蹴り合い、距離を取りながらの投げ物合戦。キィンと金属のぶつかる音を連続でさせながらお互いの仕掛けどころを見据える。


「このままじゃお互い進展なしっすよ?」

「諦めるのをお勧めするっす」


 そんな事をお互いに言い合いながら投げ物では決着が付かないと判断すると一二三が印を組んで術を発動。素早い印の組み方をヤスが目を凝らして確認した後に、飛んでくる火球を同じように印を組んで水遁を発動して消化。それに反応して雷遁、土遁、風遁、と、それぞれの術を飛ばしての相殺し合い。


「忍術が得意なのはあんただけじゃないっす」

「みたいっすね。でも、こっちはそれだけじゃないっすよ」


 不毛な争いを避け、得意な戦い方を強要出来てこそ、上手なプレイヤー。そのため、現状ではどっちが先に主導権を握るかどうか、その戦いになっている。

 何度かの手裏剣の投げ合いから術の応酬をしつつの所から、一二三が急に止まってまた印を組み始める。それを妨害するためにヤスが急接近。くるくると回していた短剣を音もなく投げつけるが、空を切るので、くんっと指を動かして手元に短剣を戻し、足を止めて構え直す。


「影分身ってやらしいっす」

「忍者らしいというべきっすよ」


 ざっと3人に分かれた一二三がヤスに向かい印を組んでからの術攻撃。流石のヤスも3属性を同時に使えるわけもなく、アカメからもらったスモークグレネードに点火しつつ、3方向から飛んでくる忍術の攻撃を軽く跳躍から身を捻り上手く躱してから爆破。ぼふっと音を立てて白煙がそこら中に広がると共に、姿勢を低くしてどうするかを考える。

 忍術、体術、手裏剣術、互角ではあるが、こうやって特殊な技を使われるとヤスの方が不利になる。諜報活動のようなことが多いのと、どちらかと言えば近接戦の方が得意と言うのがある。


「しかし、負けるわけにはいかないっす」


 2本目の短剣を取り出し、口に咥えつつ印を組んで次の忍術の仕込みを始める。


「そろそろ片付けたいっすね!」


 まだ晴れていない煙の中に一二三の1人が突っ込んでいって刀で一閃。白煙を切り裂きヤスがいたであろう所を振り抜いて手ごたえがあったが、ぼふっと追加の煙が一つと丸太が一本。


「変わり身なんて古典的っすよ!」


 すぐさま刀を構え直し、三角形の陣形のまま、残っていた2人で風遁を使い煙を晴らすがヤスの姿は見えない。

 

「……どこからくるっすかね」

「びっくりどっきりって奴っす」


 忍術を飛ばしていた分身の内、1人が胸元を貫かれると、黒い塊になって崩れるように消えていく。もちろん貫いたのはヤスなわけだが、一二三はどうやって背後を捉えたかを理解できずにいた。一二三自体、忍者の職をやって結構な熟練具合だが、見たことのないスキルを使われるとやはり動揺する。


「姉御やメアリーさんにも見せて事ないとっておきっす」


 残った分身と本体の一二三がヤスの方を向き、忍術と剣術での攻勢に出る瞬間、とぷんと地面に沈んでいって消える。土遁の術で地中に潜ることも出来るがそれにしたってあまりにも液体的すぎた。


「このゲーム、スキルが多すぎるんっすよ!」

「それは同感っす」


 また一二三の背後に回ると胸を一刺し。先ほどと同じように黒い塊が崩れて消えていくのを見て舌打ち一つ。


「運がないっす」


 と、言ってはいるが、本当は本体がやられたら分身の方に切り替わるので当たっても当たらなくても変わらなかったりするので、運がないというのはちょっと違ったりする。


「……どういうスキルっすか」

「そりゃー、秘密っす」


 分身を倒され、タイマンになった所で剣戟を繰り広げ、術の応酬を再開。主導権は一二三ではなくヤスが握り始めている。分身を倒した後には例の潜航は使わないのが引っかかる所ではあるが、今のところは拮抗状態が続く。


「全く、本職相手はきついっす」


 何度目かのぶつかり合いの後、距離を取って短剣を手元でくるくると回してからの投擲。それを刀で弾こうと斜めに構えて待ち構えるが、手元で急に軌道が変わったので弾き損ねて一撃。くんっと指を動かして投げ付けた短剣を手元に寄せつつ2本目を投擲。急な軌道変化に対応しきれなかったのもあり、2本目の攻撃に対して後手に回り、バックステップでの回避を選択。その瞬間、一二三の前からヤスが消えてたじろぐが、背後からの攻撃を読んで刀を一気に後ろに振るう。


「っと、簡単にはいかないっす?」

「分身を倒すときに使い過ぎたっすね!」


 読み通り、振った刀が短剣とまたぶつかって金属音を強く響かせる。


「良い腕してるっすね」

「お互い様っす」

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