507話 これが本当の本気

 こんなにも3分が長く感じる事ってないよな。

 どういう状況かももえの配信を見ようと思ったが、そこで結果を知るのが怖くなって結局見ずに、ログイン画面で待機している。普通のオフラインのゲームや並みのオンラインゲームならここまで気にしないんだろうけど、此処までのめり込んで一番決着を付けなきゃいけない相手にこの仕打ちは筋が通ってない。

 

「ああ、もう早くしないかな」


 あと1分くらい残っているのだが、もどかしい。

 こういう時にログインの選択を連打するとかえって不正アクセスを疑われてロックが掛かったりするから、冷静に時間がたつのを待つしかない。こんなに切迫したのは久々だよ。そして何だかんだでログイン可能になったらここも落ち着いて選択、過度なアクセスでしくじるなんてヘマまでしてたらどうにもならん。





『To The World Roadへようこそ』


 聞きなれたシステム音声を聞いたのち、真っ白な視界から徐々に鮮明になっていく視界。


「ヤス殿!ヤス殿ー!起きましたぞ!」


 仰向けの状態、しかもどこぞの相撲取りが負けた時の恰好と変わらん状態だよ。ああ情けない。とりあえず起き上がらないと。そして起き上がったら起き上がったで、えらい光景が広がっている。何ていうか地獄絵図ってこういう事なんだろうな。

 向こうじゃでかい竜巻、もう一方では人が吹っ飛んだりなんだり、また一方……というか目の前では爆発や銃撃、魔法やらいろんなものを弾きまくっている音。あー、これはまあ大乱闘だな。


「どうなってた?」

「アリス殿が飛び出しカットインしました、そこからは負けた負けてないの言い合いで大乱闘ですぞ!」

「……そうか、じゃあ決着付けないとな」

「どうしたんですかな、負けてないのに倒れて動かないって」

「頭を使い過ぎたんだってよ」


 アリスの後ろで立ち上がり、何度か軽くジャンプ、手持ちの武器をチェックしたら大きく深呼吸して背中越しに向こうを眺める。多分だけど、向こうではキーキー言いながら怒っている……か、しっかり決着を付けに来る私を待っているのか、どっちかだろう。


「それにしたってエルアル姉妹と関口の爺もバトルジャンキーだな」

「アカメ殿には面白い相手と因縁があるのが良いって言ってましたなあ!」

「そら、光栄なこって」


 体の感じも特に問題なし、負荷も掛かっているような感じもない。って言うか、いきなりガンカタを使って下手に接近戦に手を出したのが悪いんだろう。それになんだったら私の売りが生かせてないのもいけない。


「とは言え、決着はしっかりつけないとな」


 アリスの背中から顔を出して向こう側をちらりと見る。それにしたって色んな連中が攻撃をしているわけだが、ももえの奴はここからは見えないな。頭を引っ込めて銃剣ARを取り出してから煙草に火を付けて一服。露払いをしてから決着を付けにいくとしよう。


「アリス、ちょっと耐えろ」


 大きい背中を軽くたたいてから目を伏せて集中して一息。そこから横に出て片膝を立てて数発かまして、またアリスの後ろに。今ので数人倒せたのか、向こうの攻撃が激しくなるのでしっかりアリスを使って防御する。こうやって確実に数を減らしたら勝てるっちゃ勝てるんだけどちょっと納得はいかないだろう。


「ふーむ……ももえの奴は見えるか?」

「み、えない……」

「じゃあ、後ろか」


 そのまま後ろから背中を押して少し前に出ながら左右からの飛び出し射撃で数を減らしたり、攻撃を反らしたりしながら前に出続ける。


「アカメ殿、あんまり前にいくと左右の援護が厳しいかと!」

「いや、良い所まで来たから、後ろは任せたわよ」


 なんですと?といった顔をしている松田をよそに声を上げる。


「ももえー、次こそ決着付けよう」

「こんな状態で何言ってん!」

「いいや、こんな状態だからこそだろ」


 相変わらずのアリスから少し顔を出して様子を見ていれば向こうもこっちの様子を見るたびに軽く顔を出してくる。


「急にガンカタやらあれこれ使って立ち回ってきたけど、私の売りってそこじゃねえなって」

「何言ってんの!」

「私の売りって、人を垂らすこと、だろ?」


 前に出ろと、合図をして前進しながらARでの掃射、前面にいた奴を何人か撃ちぬきつつ、ももえに接近を続けていく。私の武器ってあれこれ無視するって事じゃなくて、人を使い、使えるカードを切って強敵や困難な事に進んでいくことが私の売りだ。


「さっきも本気でやってたけど、いつもの私のほうが良いだろ?」

「……そんなこと言って、タイマンで負けると思ったじゃないのー?」

「ああ、その通りだな」


 ふふっと自傷気味に笑い、煙草を大きく吸い、紫煙を吐き出す。やっぱりなんだかんだで一人だけの能力を考えたらトップって言われるほどの実力がないってのは私が一番分かってる。


「だから、改めた二回戦って事で」

「よくも、まあそんな事言えるね!」

「さっきので2回もしっかり負けたが、使えるものは全部使うって私の流儀で勝てばオールオッケーよ」

「暴論じゃない!?」

「最後に勝って、てっぺん取ったら道中の負けはペイ出来るからな。『負けた時もあった』これで良いんだよ」

「って言うか負けたんだから辞退してよ!」

「負けとして認めてないのがいるから、しゃーないだろ」


 そういいながら前後左右を見てふふんと。


「次は私の全部を使って戦うからな」

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