506話 懸念していた事

 二人して決め手を出せないまま、数分。

 揃って息を切らしつつ、一応こっちの有利を引いている……気がする。上手い事ももえの奴の勝負に付き合わずに、良い感じに中距離戦を押し付けているが、勝ちに行けるかって言われると微妙だ。それに、懸念材料があるといえばある。しかもかなり致命的な奴だ。もちろん例の震え。あれから特に再発したって事はないし、ただただ疲れていただけだと思う。多分だけど、どこかに負荷が掛かり過ぎたらああいう事が起きると睨んでいる。あの時はいきなりガンカタを使ってきつい接近戦をやったから、それでだと思う。


「どっちにしろさっさと片付けるに越したことはないか……」


 数度目のマガジン交換。これも2丁同時ではなく、隙を作らない様に1丁ずつ。射撃してこっちのリロードを狙われない様にと気を使う。もちろんももえの奴も私が接近戦が出来るようになっているのは知っているので自分のリロードも気を使っている。


「ああー、もう面倒すぎるなあ!」

「じゃあ飛び込むか?」


 手を広げて胸を張って見せる。お、ちょっと気恥ずかしそうにした。


「ボスは自分の体形ちゃんと理解してよ!」

「胸はでかいな」


 顔を逸らしたももえに撃ちこみ、ぎりぎり回避。文句と銃弾が飛んでくるのを避け返してまた射撃。


『勝てなさそうっすよ』

『分かってる、私が一番感じてるから』

『作戦はどうっす?』

『無理する』

『しっかり負けたら辞退でいいっすね?』

『ああ』

『そろそろ決着付けてくれないと関口の爺様やエルアル姉妹が飛び出すっす』


 後ろで観戦している面子が若干そわそわしてるのは、触発されて戦いたくなったか?


「うちのメンバーが暇だから戦わせろってよ」

「それは勝手にどうぞ!」

「だとよ」


 そんな訳で戦いたいというか戦闘狂のうちの連中と向こうの戦闘狂連中が場外乱闘を始めてるのを見てにんまりと。


「……余計な事言わなきゃよかった!」

「そういう所が甘いよな」


 乱闘騒ぎで回りがぎゃあぎゃあと騒いでいるのを聞きながらこっちも勝負を掛けに行く。やり方は、まあ突っ込んでいってこっちの流れを掴んで攻め切る。じゃないと勝てない。が、その前に、射撃戦を続けながらいつものスーツを脱いでいく。


「脱いで照れさせる気?」

「動きが鈍るからだよ」


 多分此処で倒しきれないとまた震えが出てぶれる気がする。だから本気の本気で仕留めにかかる。得物はいつも通り、3丁目を出したうえでこっちから前に。勿論ただでやられるわけがないので先ほどと同じように相手の銃口をずらす攻撃を繰り返してどっちが先に当てて追撃するかどうか。

 この銃口ずらしの攻防のほかに、銃操作を使っての死角からの攻撃、どう攻めるかを考えての、合わせ技の跳弾や曲げ撃ち、考えることは多い。

 

「ああ、もうボスの相手するの大変なんだけど!」

「負けられないからな」


 銃口ずらしの最中での3丁目、銃剣ARの死角射撃を避けてくるが、ガンシールドを使って跳弾。流石の不意打ちの一撃を貰ってももえが呻いた瞬間にさらに攻勢に。今まではある程度攻守を入れ替えながらだったが、さっきの一撃でリズムを崩せた。格闘攻撃を振ってくる可能性はあるけど、それよりもこっちの一撃を貰った方がやばいはずだし、このままいろいろ織り交ぜながら攻め続ける。


「うわ、わっ……!」

「上にいる奴はしっかり上にいる理由があるんだよ!」


 至近距離での連射と格闘、銃操作を使ってさらなる追撃、止めのグレネードと何かあった時の刀も準備できている。全ての状況に対応できる自信もあるし、実力もある。そして何よりも勝ちたいという気持ちも確実に上だ。


「私はずっと、負けるわけにはいかないんだ!」


 また射撃をもろに食らってたじろいだももえ、すかさずピンク髪の頭に銃口を狙い付けて引き金を……。


「クソっ……!」


 例の震えが出てきて、引き金を絞り切る前に反撃を貰った。しかも何の変哲もない蹴り……いや、距離を取るための強めの蹴りか?どっちにしろ、グレネードを置き……。







「……あれ?」


 なんて、あれこれ考えてたら視界がおかしい。

 さっきまで視界の端で乱闘が起きて、目の前にはピンク髪のアイツがいたのだが、なぜ私がいるのか。そもそも自分の体が白い状態って……強制ログアウトされた?


「いやいや、滅茶苦茶良い所だったのになんで!?」


 とりあえず手元のメニューからアカメを選択しログイン、が弾かれる。そして弾かれた画面の注意事項が表示され「身体負荷が掛かったため、数分間ログインを制限、ログイン可能まで3分」と書いてある。いや、別に負荷ってそこまでキツイ事してこのゲームしてる訳じゃないし、こういう事になるならもっと早くなるはずだろう。


「……慣れてないガンカタの高速戦闘に銃操作や他の手段をあれこれ考えてたせいか?」


 どっちにしろ、数分待たなきゃならんわけだけど、向こうはどうなっているのやら。配信しているし、確かあいつのチャンネル登録もしていたから、一旦外してログイン可能になったらすぐ復帰するしかない?


「週末の試合だけに合わせてぬるい事しないでもっとスムーズに動けるようにしてなかったツケってわけじゃないよな」


 緊張感ってのもあるだろうけど、こういう事は初めてすぎる。このゲームを始めたころに、こういう何かしらの問題が出たら弾かれるって事は見たけど、こんな重要な時にはやってほしくなかった。とりあえず一旦HMDを外してタブレットから状況を確認しよう。


「ヤスには話しておいたから、アイツの感じであれば何となく把握して対処してくれそうだけど……頼む頼む頼む……」


 配信見るの、すげえ怖いわ。

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