503話 リフレッシュの大事さ

 姉御が古巣との決着をつけ、どうにかこうにか堪えて勝利した自分たちのクラン。相当本気でやったのか、姉御は暫く座ったまま反応がなかった。結局姉御以外の勝利はなく、エルアル姉妹もぎりぎり、自分たちアリス組も松田さんが流れ弾でやられたせいで、かなりやばかった。が、急に向こうが負けを宣告したので、どうしたかと思っていたら、姉御と向こうのクランマスターがタイマン張ってこっちが勝っただけだった。正直なところ、向こうの戦力が圧倒的だったので負けると思っていたので、あっさり引いてくれたのは助かった。


「よかったっす?」

「何が」

「こう、向こうもこっちも消化不良みたいな感じっす」

「……まあ、勝ったから良いんだよ」

「そういうもんっす?」


 勝てば官軍負ければ賊軍なんて言葉もあるけど、それを体現しているのが姉御。本人もちょっとは思う所があるのか、少しだけ考え事をしていたような感じもあった。


「元々私が勝つために集めたってので納得してるでしょ」

「それはそうっす」

「だったら、良いんだよ、どーしても決着付けたいなら後でやりゃいいし」

「関口の爺様が梅雨払いばかりで不満たらたらっす」

「そういうのを後でケアするのも私の仕事かねえ」


 いつものように煙草を咥えてぷかぷかと吹かし始めるのを見ながら、今回の戦いの反省会を始める。


「今回に関しては分断されたというのが大きいっす、人数が少ない分、やはり連携ができないとそれぞれの強みがでないっす」

「明らかに私を狙った分断だし、次からはああいうのはないと思うけど」

「だといいっすけど……まあ、ちゃんと連携さえ出来れば大軍相手のほうがやりやすいっす」


 これは単純にそれぞれの突破力が高いのとエルアル姉妹のコンビネーションが範囲攻撃向けというのが大きい。戦闘力の高い姉御と関口の爺様はどちらかと言えば単体性能向け。これで大軍のほうがやりやすいってのは、人数が多い所って高レベル帯で固めてる事が少ないからっていう定石からの話になる。


「まー、やばい所はありそうだけど、高レベル帯って結構まとまってるからそこでつぶし合いはありそう」

「幸いにもボムや松田さんの範囲攻撃もあるので人数差よりも相手との相性っす」

「どっちにしろどんな奴が来ようが叩くだけだろ」


 それはそうなのだが、自分の事だというのにちょっと客観的すぎる気がする。やる気が無いと言うわけじゃないんだろうけど、それにしてもだ。


「何かあったっす?」

「いいや、そういうわけじゃないんだけどさ」


 しきりに右手を握ったりなんだりしているのが多分理由なんだろうけど、あんまし弱気な姉御ってのも見たくないものだったりする。


「此処で吐き出して貰わないと、勝てないっす」

「ん-、いや、ゲームのやりすぎかなーって心配」


 案外そういう所を気にするんだと思いつつメモ帳を開いて次に上がってくる相手を予想したのを報告。その間も暫く煙草を吹かしていて、生返事というか気が抜けているというか。


「次の試合って来週だし、敵情視察は任せるわ」

「本当に大丈夫っす?」

「何が」

「あんまり根を詰めるんじゃなくて暫く休むってのもありっす」


 マグロのように突っ走ってるのを見続けたからこそ、ぽつりと出た言葉。少しだけ驚いた顔をしたのち、けらけらと笑い始めるのでちょっと怖い。


「それ、いいな。暫く離れて次の試合までゆっくりするか」

「自分で言っといてあれっすけど……本当に休むとは思わなかったっす」

「久々に柳生の奴に合うのもいいし、気分転換もありかなーって」


 ゲームって部分は多分変えてないみたい。まあ、リフレッシュしてくれるのならそれでいい。適度な息抜きをしておいた方が、パフォーマンスが上がるのは確かな話なのでこういうのは悪くない。


「代わりに敵情視察含めてのマネージメントは任せてほしいっす」


 ふふんと胸を張って任せろというようにする。こうでもしないとこの人は人を頼ってくれないから。


「そうねー……じゃあ、頼むわ」


 吸い切った煙草を吐き捨て、にぃーっと笑うと自宅へと帰っていく。

 その様子を見てから大きめにため息を吐き出して一息。


「此処で負けたらシャレにならないっす」


 







「そんな事を言ってたら、あっさりっすから、恐ろしいもんっす」


 あれから一週間、暫くログインはしても軽い作業だけしてログアウトしていた姉御、2回戦目の相手を容赦なくぼこぼこにして勝利の余韻……というほどの余韻もないくらいの圧勝をして満足げにしている。


「やっぱリフレッシュって大事ねえ」


 人間此処まで変わると恐ろしいのはこっちの方だよ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る