489話 それぞれの戦い方や考え方
「同マップに何人いて、どれくらいの規模のクランが参加しているかがわからんのが、こういう時に困る」
だだっ広い草原、茂みが結構あったり、草自体が長かったりと案外潜伏しやすいようになっているのは上からだと全然わからなかった。とりあえず息を潜めて、頭の中でどう行動するかを落ち着いて考える。ほかのメンツが二人組で行動するためにまずは合流するのはいいとして……問題は私の相方になるのが無口なアリスってところよ。さっきは結構強めに言ったから反応してくれたけど、さっきから全然反応がない。
ついでに言えばダイブ中は遠距離で交信できていたのだが、ほかのクラン員との連絡がつかないので、距離制限もかけられているっぽい。
「こんなことならもっとヤスの奴にコミュの取り方聞いておけばよかった」
どうしてこうも、私の周りにいるのはコミュニケーション能力がえぐい奴が多いんだ。おしゃべり忍者しかり、ポンコツピンクしかり、犬野郎もそうだったな。奥手な奴いたっけ?
「こういうイレギュラー対応に弱すぎるのは弱いところだわ」
照明弾でも作ってそれぞれに渡しておくべきだった気がする。っていうかマジで連絡取れないのがネックすぎる。そこらで戦闘音が響いているし、こっちもこっちで早いところ合流しないと後手になりすぎる。回復アイテムは持ち込めているから耐久は出来るだろうけど、サンドバックが続くのはきつい。
『ほんと、どこにいるんだよ!』
なんかほかに音声以外のメッセージ使える機能なかったっけ。確か従来のテキストチャットが使える機能がアクセシビリティとして対応していたような覚えがあったんだけど、どこにあったかな。こういう使わない設定のことまで覚えてないってのに……。
「クソ、邪魔が入った!」
メニューで設定を見ているのに集中しすぎてたせいか、接敵しているのに気が付かず、隠れていた茂みが爆破される。すぐさま飛びのいてハンドガンを抜いて、いつも通りのコンパクトな構えで攻撃が飛んできたほうを確認。数は2人、魔法使い2……多分。回復系なのか攻撃系なのかぱっと見でわからんから困るんだよね。なんだったら攻撃と回復両方使ってくる賢者タイプもいるうえに、攻撃魔法の種類もわからんしで、相手するのすげえ大変なんだよな。
「お前らと遊んでる暇はないってのに」
対魔法使い用の立ち回りは考えてなかったっけか。
「ふむ、どう動くかね?」
「合流が、いいかな」
「それはそうじゃのう……ただ、どういうルートを取るかが問題じゃ」
双子の片割れ青髪のアルと関口が街の中、屋根で待機しながらどうするかを考える。ダイブしている最中に、すぐに合流できたので、そのまま屋根に着地して状況を観察している。
「回復役の松田を回収し、なるべくクラン員を集めて突破がいいんじゃが……上に飛ばせれるか?」
「分かった」
そういわれれば詠唱をはじめ、関口の足元に小さい竜巻のようなものが起きる。それを見て、一気に溜めて飛び上がり、かなりの高度まで到達。ぐるりと周辺を見て森と思われるような場所に目星をつけてから風魔法を使われての着地。
「ここから西のほうに抜けるのが良さそうじゃ」
「マスター判断じゃないけど、良いの?」
「大事なのは、やられない事じゃ、松田は鬱陶しいが悪い奴じゃないしのう」
マップを開き、大体の方向を決めてからどういうルートを通るかをさらに話す。とりあえず前、後の組み合わせは確定しているので屋根伝いに飛びながら街中を抜けていく。その駆け抜けている間も建物が吹っ飛んだり、剣劇が響いたり、あちらこちらで戦闘が始まる。そっちのほうへとちらちらと意識を向けるたびに減速するので、アルが声を掛けてることがしばしば。
「……わかっておる、ここはまだ本番じゃない、じゃろ」
「やるなら有利なポジション取ってから、こんなところでやられたらダメ」
「意外としっかり者、じゃのう?」
そうでしょ?と言うように軽い返事をして次の建物に飛び移るところで、いきなり次の建物が崩壊。風魔法を使ってふんわり着地しつつ、臨戦態勢で周囲警戒しつつ前進。特に追手が来るわけではなく、破壊した建物からさらに横に建物を吹っ飛ばして通過していくプレイヤー群。
「無茶苦茶しよるのう……」
「まずは回収」
「そうじゃの、また上がるとMPを使ってしまうし、加速だけで通り抜けるとしよう」
それを踏まえ、風魔法の応用で加速し、攻撃飛び交う戦場を二人で駆け抜ける。
「ああ、もうダメっすよ、そっちいっちゃ」
「街は、向こうだから」
「ダメっす、まずは松田さんを回収っす」
草木の少ない山岳をがんがん進んでいくエルを引き留めながらヤスがマップを見て、自分たちがどの辺にいるのかを思い出しつつ、暴走しかけているエルの手綱を引き続ける。そもそもそんなに戦えるわけもなく、すぐに合流できたエルを前にして動こうと……思っていたヤスの思惑はあっさりと吹っ飛ばされて、暴走状態の相方をどうにかこうにかしている。
「とりあえず、北側は海っすから、南に行って周辺チェックをしてから探したほうがいいっす!」
「いや、向こうに降りたはず」
「ちょっとは話を聞いてほしいっす!」
一応南、マップ中央側……だと思うほうにずんずん突き進んでいくように、左右から進路調整をかけたり、他のプレイヤーがいたら注意を促したりともう、あれこれ大変。
「私が行かないと、あの子が心配だから」
「大丈夫っす!関口の爺さんは、孫好きっす!」
だから大丈夫という保証はないわけだが、とにかくこの暴走状態を制御しなきゃ予選の突破もできなきゃ合流もできずにずるずると悪いほうに向かっていきそうなので必死。ついでに言えばアカメに何を言われるかわかったもんじゃないので、ここはマネージャーとしての力が見られている気がする。
「ああ、もう前みるっす、前!」
「どけ……!」
斬撃一閃、進行方向のラインにいたプレイヤーが宙を舞う。このゲームって感情で威力が変わったりなんだりはないのにどういうことかと考えたが、そういえばただただ距離を取るために吹っ飛ばすスキルなんてあったと思い出す。
「自分で集めたのに、自分が苦労するとはこれいかに!」
吹っ飛ばされて宙に舞っているプレイヤーに対してヤスが懐からナイフを取り出してすぱっと投げつける。
「今、何した?」
「ただの毒付与っす、案外対策してないんで効くっす」
そしてそのまま宙を舞っているプレイヤーを通り越し、山を下って上がっていくのを繰り返していく。
「ああー!みんなどこですかなー!」
森の中をばたばたと走りまわってるわけですが、まさか一人孤立するなんて思ってもいなかったし、戦闘力のない自分が単独になるのは非常に危険じゃないですかな。そもそもの話、なんでこんなことになってるかっていうのがありましてですな。幾ら勧誘されたからってこんな事なら来なければよかった気も……。
「もおー、早く助けてほしいですぞー!」
色んなところから攻撃は飛んでくるし、誰もいないし、さみしいし、アリス殿もアカメ殿もヤス殿もエルアル姉妹も関口爺も誰もいないっていうんだから貧乏くじ引くとは思わないですぞ。
「ひぃぃ、拙者、弱いので狙わないでほしいですな!」
容赦なく飛んでくる矢、斬撃、打撃、必死に逃げながら調合をして、やばそうなのをポイっとな。その途端爆発が起きて前方に押し出される。おお、これはいい加速、このまま逃げますぞ。
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