453話 最終兵器

「無茶さすなあ、ほんと」


 ビーム光の発しているサーベルを眼前に眺めながらバックブーストからハンドガンで反撃、装甲の凹んでいく音を聞きつつ、カットインするように飛んでくる射撃をさらに加速して回避。一旦攻撃の手が止んだら一息入れてサブアームを使ったハンドガトリングで弾幕を形成しつつ状況の把握。何て言うか、こんなに上手い事いくもんかと自分でも驚きだったりする。


 柳生の奴がやろうと言い出したのは、1:2で戦うのはそうだが、私が前衛2機、柳生が後衛2機で戦うって言う無茶ぶりだった。とは言え、一応の理由を聞いた所、前さえどうにか抜けれれば後ろは倒せるってあいつが言うからその作戦に乗った。そのおかげで私は相手チームの前中衛の2機と接近戦とそれと合わせのカットイン射撃を捌く形になっているんだけさ。


「私の方がきついだろ、絶対」


 しっかり前衛後衛作ってこっちに肉薄してくる相手を射撃と機動力で捌きつつ、こっちもこっちでどう倒すかを組み立てていく。






 少し遡り。


『私が前2機、あんたが後2機を相手するってまー、無茶な話ね』

『そういうのをやるのが某達だろう』

『いいわ、面白いから乗る』

『ありがたい』


 そういう訳で柳生の無茶苦茶な作戦を開始。

 さて、此処で問題になるのが上手い事2:2で分かれて戦ってくれるかって話なんだよね。勝ちを狙うのならこっちの提案って言うか作戦に乗らずに普通に2:4で戦い続けた方が絶対に良い。

 しかも引き剥がす方法が、柳生が一気に突っ込んで行って前2機を無理やり突破して、後衛の2機を押し込む。その押し込んでいる瞬間に私が前衛2機にちょっかいを掛けて一時的にでも挟み撃ちを掛けて分断する……って言ってる限りでは簡単に聞こえるんだが。


『それでは健闘を祈る』

『作戦決行までが速いなあ』


 相変わらずの撃ち合いをし、大きめのデブリで一旦射線を切った所で柳生がぴたりと停止するので、私はそのまま射撃をしながら相対。腰部キャノン、ハンドガトリング、ハンドガンの一斉射撃で目くらまし兼用の攻撃を与えながら引き付ける。そうして軽く引き付けた所、デブリに潜伏した柳生が一気に飛び出して後衛に急襲を掛けて分断。

 

「やるう」


 分断し、後ろの援護をと前衛機が後ろへと振りむこうとするのでこっちから前衛機にちょっかいと言う名の本気射撃で腰部キャノンを当てる。向こうに注意が行っていたおかげで、ようやく直撃する。防御をしっかり固めている相手って本当に苦戦するわ。

 ただ、これのおかげで一時的にだが挟み撃ちの状況を作り、前衛機はこっちを無視せざるを得なくしてやれば分断はこのまま行ける。


 案の定こっちの結構な射撃火力を無視するわけも行かないが、後衛機の護衛もしなきゃならない……が、2:1なら勝てると踏んだのか、柳生の思惑通り、前衛2機がこっちに、後衛機2機は向こうに行って分断が成功する。なんともまあ、此処まで上手くいくとは思わなかったわ。






 そうして柳生が提案した作戦が思った以上に成功したからこそ、今私が相手の前衛、中衛の1機ずつと戦闘している形になる。向こうの考え方としては、近接は引き撃ち、射撃は押せ押せ。ついでに言えば人数差もあるから御しやすいと言った所か。並みの相手ならそれだけでも良いだろうけど、こっちは接近戦のみしかやってきてなかったエキスパートがいるわけだし、そいつを捌けるくらいに相手の後衛が強いなら……まあ、負けか。


 なのでこちらの勝ち筋としては、私がどこまで前衛連中を引き連れ相手出来るかってのが1個目の条件。2個目がしっかり柳生が後衛を倒せるかどうか、これが行けるかどうかって話になる。正直な所、私の経験値じゃ、このしっかり編成を組んで立ち回ってくる相手じゃ勝ち目がない。


 だからやれる事としては柳生の奴が後衛を思う存分戦えるように、前衛機に対して無視できないレベルの攻撃を与え続けるってのが私の仕事になる。


「ま、言うのは簡単なんだけど」


 腰部キャノンをまた一発かました所、しっかりシールドで耐えてくるので軽く舌打ちをしてからサブアームでのハンドガトリングでの掃射を続けて2機を引きつけ続ける。当たり前だけど反撃されないって事は無いので、撃ち合いをしつつ、一気に突っ込んでくる前衛機の回避も集中しなきゃならない。こんな事ならしっかりシールド持ってくりゃ良かった。


『そっちは?』

『中々、接近できなくてな!』


 引き離しには成功しているのでどういう戦いをしているのかは分からないが、地上よりは苦戦しているだろうな。1:2で射撃メインで立ち回っている相手を捌いているわけだし?うーん、それにしたって決定打が無いとこんなに苦戦するもんかね。数発に1発は防御にしくじって直撃しているはずなんだけど、全くもって怯む様子が無い。ダメージ覚悟……で突っ込んでくるわけでもないから私がしびれを切らして突っ込んで行ったら負ける、かな。だからと言って現状じゃこのまま擦り潰されてやられるだけか。


「2機を落とすのは無理だろうから、せめて1機……ついでに半壊くらいまで持って行けたらいい所か」


 ハンドガトリングのリロードをしながらこの2機をどう倒すか考えていたところ、一気に向こうが接近してくるのに反応が遅れてからのサイドブースト。折角持ってきたサブアームを断ち切られるのでハンドガトリングも手放す形に。これで後は腰部キャノン2本とハンドガン2本のみ。


「クソ、良い反応してくるわ!」


 振り切ったサーベルを構えなおして更にブーストを掛けて追撃してくるのを避けた勢いのまま加速して追いつかれない様にしつつ射撃。折角遠隔操作できるハンドガンを用意したってのに、全然使う暇がない。T2Wと同じような動きを考えていたんだけど、そもそも高速戦闘のが主流になっているこのゲームじゃ使い所が無かった。こういうのも経験の差か。


「クソ、速いな!」


 こっちは軽量にしているので瞬発力では負けていないが、ずっと吹かされると最高速が高い向こうの方が有利になる。ついでに言えば此処まで接近されると射撃戦が出来なくなるから圧倒的に不利になる。つまるところ、この状況ってのはかなりやばい。


「だからって負けるわけにはいかんっての!」


 接近されシールドバッシュを食らい吹き飛ばされ体勢が崩れた所を射撃されるのでぐるりと機体を回転させて少しでも被弾を減らし、姿勢制御。

 体勢を整えて盾持ちの相手を見据えると、こっちに加速してくるので、一旦のバックブーストと腰部キャノンを発射した反動で距離を取って、デブリに着地。すぐさまデブリを足場にして加速と同時に腰部キャノンをデブリに向けて発射からの反動ブースト。


「そろそろ決着付けてやらんとな!」


 盾持ちの前衛機、ではなくそのカバーをしていた1つ後ろの機体に向けて腰部キャノンを連射して反動でのブーストを掛けつつ、足先を相手に向けて回転。いらないからって全部ソードにしておいたのがここで聞いてくるとは思わなかったわ。とにかくドリルのような状態で足先を向けて、超加速からの突撃。

 前の機体が防ぐと思っていたから、思い切り無防備になっている所、腹部の辺りにぎゃりぎゃりと火花を散らしながら抉り刺していくが、貫通する事は出来ずに途中で止まる。

 流石に向こうも無抵抗にやられるわけではないので接射。回避運動もしなきゃ装甲も薄いこっちには直撃したらすぐに装甲は捲れるし、ボロボロになっていく。


「こっちも、負けるかっての!」


 残っている腰部キャノンをブースト扱いで発射し、更に足を押し込んで深く突き刺していく。

 その上でヤバいと思ったのか、盾持ち前衛が接近し、味方を貫かない程度にこっちの胴体をサーベルで貫いてくると、警告音が一気に鳴り響く。


「ただ、勝負は勝ちだ!」


 このゲーム、色々な操作が出来ていらない要素やスイッチ等、拘りぬいた操縦席が作られているのだが、その中に1個だけ特徴的な物がある。黒と黄の2色で縁取られた透明なカバーが掛かっている赤いボタンがコックピット側面に付いている。


『それじゃあお先に』

『後は任せろ』


 そのカバーに覆われたボタンを思い切り押し込んでやる。

 

「勝つってのも苦労するわ」

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