425話 2度目の4人目

「クソ、引き剥がせなくなってきてるな」


 距離を取った所からのキメラのビーム攻撃を横っ飛びで避け、射撃での反撃。一瞬で攻撃できる5度撃ちがまあ便利、消費はえぐいが。

 残った4発も続けざまに4度撃ちで撃ち切って片手のアデレラをくるくると回転させてマガジンを飛ばし、新しいのを詰めている間に、反対側のアデレラで細かく攻撃してヒットストップを狙う。


「攻撃するなと言っておいて反撃して、何したいんだ!」

「状況見て動けって言ってんだよ、アホが」


 さっき考えていたエリア5全体がボスエリアとして、このキメラもボスと仮定するとまたレイドボスだろう。って言うか、どんだけダンジョン深くしてるんだよ、あと何回奥まで行けば良いんだ?襲撃系イベントなの忘れてるだろ。


「次に怯んだら逃げるぞ」


 攻撃を貰えばボスと言えど、攻撃を当てられたら軽く足が止まる。3人での一斉攻撃から怯んで狼狽えた所を見て合図を出してすぐに逃走。


「こんな逃げ腰で勝てると思ってるんですか!」

「そんなに文句があるなら抜けろ」

「ああ、もう、喧嘩しないのー!」


 射撃攻撃の後、あいんつが作ったとにかく重くて使いにくくでかい銃を投げ飛ばしキメラの鼻っ面に追撃も忘れない。本当にこいつ、ガンスミスか?とにかく体の色んな所から銃が出るわ出るわ、バリエーションも多いし、不思議な奴だ。


「こんだけ走り回ってプレイヤーに遭遇しないのはおかしくねえか」

「マップが広いからかな、ついでに言えばエリアにプレイヤーの上限があるとか?」

「たまたまでしょたまたま!」


 この戦闘が終わったら本気でどついたろか。

 それにしたってどうするか、私の予定としてはこの逃げ回っている間に数人プレイヤーを見つけて良いから協力しろと言ってキメラを倒す……って流れだったんだが、どうもそういう流れにならない。キメラが単体ボスだと思っていたけど、もしかして複数ボスって可能性もあるか?で、それぞれ目を付けられたキメラに追い回されてろくにプレイヤーと会うことが出来ない。辻褄というかこのくらいぶっ飛んだ考え方しないと出会わない理由が見つからない。


「おい、アホンダラ、他のプレイヤーは見なかったのか」

「自分のパーティしか見てないさ!」

「トラッカーじゃ引っかかんないもんねー」


 やれやれと手を動かしながらあいんつが逃げ先に指を向けるので、そっちに向かい走り続ける。

 今のところ飛んできた攻撃を防御なり避けて、いなしてから反撃。結構簡単に怯んでくれるから逃げ回れているし、2人しかいなかったのもあって、気がついた方が先に指示を出す流れになっていたのも功を期しているわ。


「流石に逃げ続けるのはきちーわ」


 追加した1人が良くも悪くも普通すぎて若干足を引っ張っているのが厳しい。よくもまあこのここまで来れた……と、思ったけどよくよく考えれば数さえ揃っていれば突破しやすいボスばかりだったか。いるんだよなあ、ソロだと大したことないけど、マルチになるとやけに強いと言うか、無駄に強くみられるってのはよくある話。


「じゃあ攻勢にでる?」

「私とあいんつで止めれば行けると思うが……拾ってきた奴が並だしな」


 ひいこらいいながらも後ろを付いて来ているアホを見てため息1つ。よくもまあ、あんな状態で此処まで来れたもんだよ。こういう奴ってなんか知らんけど、取り巻き作ったりするのは得意なんだよな。あー、やだやだ、人の悪い所ばっかり目に付いて出てくるのは悪い癖だわ。


「もう1人位いたら私とあいんつが止めて後ろで攻撃させてやればいいんだが」

「ガンスミスに前任せるなんて酷くない?」

「勝手に人のポジションを決めるのはどうなんだ!」

「じゃあ私とあいんつの位置で戦えるか?そういう事だよ」


 今の所、前を任せるほどの強さと言うか機転の良さは見られないから、ここまで何だかんだでやってきたあいんつの方がまだいい。こういう時にシャールの無鉄砲さが有難く感じるとは。

 

「此処まで来てるなら戦力になる奴はいるだろう!声上げて集めたらどうなんだ!」

「アホの割にはまともな意見だ、よしお前が声を上げろ」


 そういうと、一度だけ暗い顔と言うか苦虫を噛み潰したような顔をした後、声を上げてプレイヤーを探し始める。もうキメラに追われているのは振り切れないし、どうせすぐに攻撃が飛んでくるだろうから、その前にこっちの状況を改善出来ればいい。と、まあ、望みを掛けて走りつつ声を上げつつ、たまに飛んでくるキメラの攻撃を2人でどうにか捌いて森の中を走り回る。






 そうして暫く走った後、とうとう振り切れない状況にまでなったので本格的にキメラとの戦闘に突入。

 攻撃方法は今までのボスの経験が生きているので、そこまできつい物は無い。何だったら複数まとまっているので、単体と比較して強さは少しマイルドになっているか。全部混ぜて5で割ってるから狼並みのスピードは出ず、特殊攻撃のバリエーションは虫の奴に比べて無い、パワーもオーガクラスじゃないし、ビームもゴーレムの連中より弱い。

 

「と、言っても苦戦する事は苦戦するんだが」

「何をぶつくさ言ってるんですか!」

「癖だよ癖」


 何でもかんでもツッコミたいのかこいつは。やっぱり全部終わったら1発殴ってやろう。

 とりあえず私が一番前でキメラの攻撃を受けなきゃならんのが今一番きつい。大型銃のためにステを振り直して、前よりAgiを下げた、そのカバーをするために尻尾を使えるようにはしたが、どうやっても埋める事の出来ないステータスの差ってのはある。つまり何が言いたいかと言うと、滅茶苦茶被弾してダメージを受けている。


「攻撃頻度が高いわけじゃないけど、きついわ!」


 まずは爪攻撃、まあ単純な斬撃だけどダメージと範囲がきつい。ガンシールドか銃でしっかり受けて少しでもダメージを減らす、特殊攻撃は毒液を飛ばしてくるだけなのでこれは問題なし。スピードとパワー任せに体当たりを繰り出すのもおもいっきり横っ飛びで回避できる。肝心のビームは流石に狙いどころと相手の距離次第でこれもガンシールドで受ける。

 比較的安全な攻撃が特殊攻撃と体当たりのみで、頻度はそんなに高くないってんだからやらしいわ。こういう時の戦闘だとタワーシールドは使えないから、いつも使ってる展開ガンシールドで受けざるを得ないのだが、これもそろそろ限界だわ。修理し続けてなんとか誤魔化してはきたけど、モンスターの強さに付いてこれない。


「誰もいないぞ!」

「だろうよ」

「もうちょっとマシな報告ないん?」


 アデレラで反撃、数発撃ち込んで軽く怯みはしたものの爪攻撃を止める事は出来ずにガンシールドで防御。ああ、また余計なダメージ貰う。ギャリリっと金属と硬質な物が擦れる音共に、ガンシールドが割れてバラバラに。替えは無いし受けられる物はこれ以上ない。

 

「くそ、援護射撃!」


 攻撃の反動で蹈鞴を踏みながらばらばらになったガンシールドを外し、ガンシールドを張っていた腕のほうで逆手に忍者刀を引き抜く。攻撃じゃなく防御に使うだけならこれで十分だ。多分だけど上手く機能するはず。あくまでも攻撃に使った時に大幅なマイナスだし、スキルで打消ししてるからいけるいける。


「と、良いんだがな……」


 あいんつとアホに攻撃が向かない様、適度に射撃を入れて前に出続けなきゃいけないってのに忍者刀にまで意識持っていくの結構大変だな。何でこうも大変な事ばかりやるんだろうね、わたしゃ。


 そんな事を考えていたら体当たりを貰い、押し込まれた所で横からの爪攻撃。咄嗟に体を捻って少しでもダメージを減らそうとしたが失敗。もろ腹に攻撃を食らって横回転しながら吹っ飛ばされる。すぐさまお馴染みの警告音が鳴り響いてピンチだぞと画面が煩くなる。


「ちぃ……!」


 尻尾を使い、転がった体を起こしてすぐに反撃に移ろうとした瞬間、追撃の体当たりが視界に映る。こいつ、他2人の事はガン無視してこっちに突っ込んできやがったか。どっちにしろ今ダメージを貰うと死ぬ可能性が高い……って言うか確実に死ぬかな。うーん、このキメラ、一回殺しにかかった相手を集中的に狙うのか、後々使える情報って突破出来たら意味なんだよな。


「死ぬのめんどくせーのに」

「じゃあ死ななきゃ良くない?」


 後ろの方から声が聞こえると、体当たりで突っ込んできたキメラに思い切り蹴りをかまして勢いを殺す。その反動でくるりと回転し、キメラと私の間に着地。無駄にカッコいい搭乗をして立ち姿を見せているが、お前相当ポンコツだろ。


「ボスって毎回ピンチだよねー」

「コマンダータイプなんだよ、私は」


 ももえが相変わらずの蛍光ピンクの髪をふぁさーっと靡かせるのが中々に鬱陶しい。が、こういう時に限っては頼もしいな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る