424話 邂逅
キメラ(仮称)が中々に強い。
今の所エリア5で一番強いのはこいつなのだが、攻撃が熾烈だし、雑魚も湧いてくるから強敵が混じっていると本当に苦労する。あいんつと離れない様に立ち回るのも大変だってのに。
「1回逃げよう、現状の把握もあるし、これじゃ勝てん」
「逃げるのはいいけど、どうやって逃げるん」
「こうやってだよ」
咄嗟に目と耳を塞げと声を掛けてからフラッシュとスモーク、自爆しない程度の距離で順番通りにキメラに投げ付けて炸裂。閃光が走ると共に、形容しがたい明らかな獣と取れる呻き声が聞こえ、すぐにスモークが焚かれて視界を完全に防ぐ。
目を潰したうえでスモーク、これで追撃は出来ないだろう。すぐさまあいんつを呼びつけて、一目散に下がって逃げる。
「おっと……ついでにおまけもくれてやる」
フラッシュで目をやられて暴れまわっている所にさらにグレネード。これでキメラのフラッシュ浴びせのスモーク燻製グレネードを添えて、と調理が完了。そして私の多種多様のグレネードも在庫切れ。銃弾は補充できるけどこの持ち込みアイテムだけはどうにもならない。そういえば火炎瓶の在庫もそろそろ捌かないと大量に余ってきたな。十兵衛の奴がいないと酒の処理がどうしてもアルコール量産になってしまうからしょうがない。
とにかく暫く走って雑魚やらを無視して距離を取った後、一息入れる。
あそこまでやったら流石にキメラの奴も追撃はしてこなかったので、無事逃走完了。周りに雑魚がいないのも確認してからその場に座って作戦会議といこう。
「さて、どうするか」
「どうするって倒すしかないとおもーけど?」
「どう倒すか、って話」
煙草……はもうなくなってるから、アデレラのトリガーガードに指を引っ掛けてくるくると回しながらどうするかを考える。改めて思えば煙草を吸ってたのがロールプレイじゃなくて、色々考えるために吸っていたってのがよくわか……いや、普通にロールプレイで吸ってたわ。
「あれこれやりながら考えてたんだけど、エリア5全体がボスエリアになってたらどうよ」
「どうよって言われてもなあ」
「キメラがボスかどうかは置いておいて、だだっぴろいボスエリアでボスを探して倒すのが目的ならマップに現在地が出なかったり雑魚の強さが弱いのも説明できる気がするんよ」
そんな事を言いつつくるくるとアデレラを回し続け、自分の考えた事をぽつぽつと吐き出す。これ言い聞かせると言うよりも自分の考えた事を整理していくって事でもある。ため込んだ考えを自分で答えを出すとなると、正解を見ないと分からないし、誰か別の人に聞かせるってかなり大事なこと。
「確かにボスエリアにいた雑魚は弱かったね」
「此処にいる雑魚がそういう感じだし、可能性としてはありえる」
自分の考えが正しいラインに乗っていると次の考えが進む。
「で、その中でもやけに強いキメラがいるわけよ、雑魚にしては強すぎるし、ボスにしてはなんか中途半端……ただエリアの特性を考えると何かしらのキーになっているはず」
「なるほどー、それを考えてたからシールドやられたんだ」
「そういう事」
ガンスミスなだけあってさくっとガンシールドを修理、それを受け取ってからアデレラの回転をぴたりと止めて、しばしの沈黙。
「右だな」
「だね」
少しだけ待った後、気配の感じた茂みに向かって2人揃って攻撃。アデレラの射撃とまたよく分からん新しい銃を投げ飛ばし、飛び出した影に攻撃してやる。と、明らかな人の呻き声が聞こえると共にごろごろと転がり、私達の前に出てくるや否や文句を言ってくる。
「いきなり攻撃するとは何を考えているのか!」
「いきなり出てくる奴が悪いに決まってんだろ」
ったく、と悪態を付いてから1発撃った分を装填し直し、投げ付けた銃を回収するあいんつ。目の前に出てきた奴をよーくみたが、こいつは……例のアホか。そのアホ面のせいで若干イラっとしたが、そこは顔に出さない……そういえば恰好元に戻してたな。
「これで1つ分かったが……ボスエリアにしろ、通常エリアにしろ他プレイヤーはいるって所だな」
「ちょっと謝りもしないんですか!」
ぎゃーぎゃーと騒ぎ立てるアホをガン無視してトラッカーを使ってからの周囲警戒を済ませておく。何かしらから逃げているわけではなく、ただたださ迷っていただけっぽい。とりあえずキメラがいるわけでもないのでため息交じりに大きく一息入れてから、こいつをどうするか考える。別に見捨てても良いわけだが私としては、そこまでやったら同じ穴の狢、いや、マジでどうしよう。
「このマップで飛び出す奴が悪い、ダメージも無いし、銃弾と銃を無駄にしてるこっちの方がダメージだっての理解しろ」
「だとしても、普通は謝るもんでしょう!」
「不意打ち貰う可能性があるのに敵が出てくるまで待ち構えるのか?仮に相手がキメラだとしたら避けきれない可能性の攻撃を無駄に貰うんだぞ」
「それはそうですがね!」
「アカさん、上から来てる!」
言い合いをしている所をカットインするようにあいんつが声を掛けるので、何処の上から来るか分からないが咄嗟にアホを蹴り飛ばし、その反動を使って自分自身もその場から離れる。その途端爪の攻撃が飛んできて地面を抉っていく。おー、あぶね。
「うへー、足速いね、どうするん?」
「人の事足蹴にしておいて何もなしですか!」
「まともに戦ってもしょうがないから逃げるぞ」
状況よく考えて物言えよ、マジで。
とにかくまだ整理しなきゃならない事もあるし、立ち回りの仕方も纏まってないというのに追撃してくるとは……ああ、そうか、ここはあいつの「狩場」って事か。
「あいんつ、離れるなよ」
「うい、りょーかい!」
「おい、まて!」
爪攻撃の後に「どすん」とキメラが着地して咆哮しているのを背中に受けつつ、後ろに向けて何度か撃とうとしているアホを声を掛けて止めさせる。生物である以上、音での感知って可能性もあるのにサプレッサーの付いていない銃で撃つなんて正気か。
また暫く走って、キメラから逃れたのを確認して一息。
とりあえず色々文句があるからぶちまけてやろう。
「……足引っ張るなら1人で立ち向かって死んでくれんか」
「何で自分が悪いと!」
「人の事馬鹿にした上に余計なダメージ食らわせて、更にキメラの追撃から逃げるって時に銃声響かせるとかあり得ないんだわ」
またアデレラをクルクルと回しながらあれこれと考えつつ話を進める。
「取り巻きとわいわいやるならなんも言わんが、人の邪魔するならいい加減に通報するぞ」
アデレラの回転をピタリと止めてしっかり握った後、アホに向かいじろりと睨みつけると視線を泳がす。どうせそうだろうと思ったがただの小心者じゃねえか。
「む、それは……」
「馬鹿にされようが何を言われても私は構わん、人の功績を奪おうが真実を知ってる奴がいれば私は十分だ」
もう一度きつく睨みつけ。
「私の邪魔をするなら別だ」
横にいて周囲を警戒していたあいんつですら、ちらりと私を見た時にすぐに視線を反らして数歩下がる。
「FFしたのは悪かった、だからさっさと私の邪魔にならん所に行け、今ならまだ許してやる」
アデレラを持っていた方の手でしっしと払う様に動かす。
流石に正論を吐かれたのか黙って私の話を聞く所は評価してやろうじゃないか。
「アカさん、まずいよ。さっきのキメラ、全然見逃してくれないっぽい」
「移動するぞ、逃げながら協調できる奴を探そう」
キメラから逃げた方向をちらりと見てから、また走る準備。
の、所でアホから声を掛けられて、邪魔されるのかと大きくため息。
「……自分が協調する」
「自分の事しか考えてない奴が私に付いてこれるわけ無いだろ」
「そこは、我慢する」
「今のパーティ抜けて私の下に付くくらいの度量を見せろ、マイナススタートの奴がほざくなよ」
やはりアホはアホだわ、私も自分本位ではあるが、多少なりと分別くらいは付いているし、プライドを掛ける所と掛けない所の違いくらいは分かってる。
「いくぞ、あいんつ」
「ほったらかしでいいの?」
「此処でやられたら意味が無いからな」
黙って特に反論もしなくなったアホをそのまま後にして行こうとしたら、ばっと目の前に立ちふさがってくるのでぎろりと睨みつけ。
「分かった、パーティを抜けるし協力する」
「余計な事したら切り捨てるからな」
ここでいつまでもあーだこーだ言っていても仕方がないのでパーティ申請を送って受理。
「さて、逃げるぞ」
こいつが何を出来るかは後だ。
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