366話 着火
向こうで手を出すなと言っている十兵衛を見ながら煙草を味わいつつ所作を見据え続ける。抗争クエストの最中ではあるが、こういうプレイヤー同士の戦闘になると一応ケリがつくまでNPCは無視してくれるのはシステム的な問題なんだろう。ありがたいのかありがたくないのかは別として。
「一服は済んだか?」
「まあね」
吸い切った煙草をぷっと吐き捨てて、べこべこになったガンシールド、THを手に取って一息つける。そういえばこうしてガチで戦うのって初めてだっけか。レースイベントは乗物ありきだったし、こういう機会じゃないと戦う事がない。
「こうしてちゃんと戦うのは初めてだったな……一ヶ月ちょっとの付き合いだってのに」
「そりゃ、対人じゃないからこのゲーム」
槍、そうそう、酒ばっかり作ってるから忘れてたけど、ランサーなんだよな。大体2m弱くらいの長さの槍をびゅんびゅん振るうのだが、よくもまあできるな。それにしたってどうしてこうもうちのクラン員ってこんなに強い奴が多いかな。
「そっちは一杯やらなくて良いのか」
「勝ってから楽しむとするよ」
そう言うとぴしっと槍を構えてじりじりと近づいてくる。
バイオレットは一気に近づいてがんがん攻撃してくるタイプの相手だったが、十兵衛の奴はじっくり戦うタイプか。結構歳だって言ってたのもあって攻め方がいぶし銀。こっちもこっちでいつもの様にガンシールドを構えてTHで狙いを付け、開幕ともいえる1発。
「しっ」と細かい息を吐き出すと共に銃弾の先に合わせて槍で一突き。空気が割けるような音と共に銃弾がはじけ飛ぶ、おいおい、幾ら鉛弾で柔らかいとは言えはじけ飛ぶってどういう事なんだ。って言うか何であいつも銃弾を落とせるんだ。
「何でこうも私の近くにいる奴は遠距離対策してるかなあ」
「自分のせいだと分かってないのか」
そもそも遠距離攻撃してくるモンスターってそんなにいないし、連射もしてこない訳だろ?モンスター相手や対魔法相手にしても過剰な精度の防御力だろうに。
「闘技場には基本出ないんだから取る意味あるんか、それ」
「いつか出ると信じていたんだが?」
2発目、3発目は槍先を振るってすぱすぱと斬り落とす。さっきも見たぞ、その光景。
「素直に酒造してなさいよ、全く」
「それはあくまでも趣味だからな」
小走りで近づいてくるのでそれを迎撃、残っている2、3発目を撃つが踏み込むと同時にすぱっと斬り落としてくる。ここまでしっかり迎撃されると自信無くしてくるな。この銃、結構あれこれ考えて作ったってのに通用しないって中々心折れるわ。今度は銃弾側の方を改良して斬られても大丈夫なようにしてやろう、まったく。
「気軽にスキルや装備を更新したいわ!」
そんな愚痴を吐きながらガンシールドを構えた状態で片手で装填。その間に十兵衛との距離が目測5mくらいの所で急に動き出す。十兵衛の奴がいきなり大きく踏みしめる一歩を出すとガンシールドを構えていた腕が弾かれる。所謂飛ぶ斬撃の応用かと思っていたけど違うな、多分べらぼうに強くて速い突きだ。
このゲームっていちいちスキル名を叫んで発動って事が無いから、何を使ってるかってのが分からんのよね。って言うか、わざわざ相手を倒すって時に「これからこの技を使います!」って宣言するのは間抜けすぎる。私だったらいちいち「装填!」って言う事になるんかって話よ。
とにかく弾かれた腕をすぐに引き戻して一呼吸、少しだけ腰を落とし、ガンシールドを胸に密着するようにして弾かれない様に注意し、連続突き警戒。懸念材料としてはさんざん殴られてべこべこの状態になっているガンシールドがどこまで耐えられるのかって所か。
「儂だってそんなに更新している訳じゃないぞ」
余計な事考えてたせいで装填忘れてた。そんな事をふと思っていると腕と体に衝撃が走り、後ろに軽く吹っ飛ばされ、視界が明滅する。胸元にシールド構えていたのが仇になったか?高レベル帯の槍使いの攻撃速度頭おかしいな。
「ぐあっ!?」
「ほう、耐えるか……結構本気だったんだが」
「ギリギリに決まってんだろ、馬鹿が」
後ろに飛ばされたおかげで距離が取れたので装填をし、ガンシールドの方をちらっと確認。駄目だ、穴開いてるわ。
「バイオレットの奴でも壊せなかったってのに、マジかよ」
「先が鋭い程、槍ってのは強いだろう?」
先の鋭い物を指で押したりすると痛いあれか。銃弾の先も鋭くしてみたらもっと威力が上がるかもしれんな、そういえば試作しただけで使ってない貫通弾どこやったっけか。
なんて事を思っていたら一定距離を保って正確にこっちに攻撃してくるので、それを穴開きガンシールドで何とか防ぎ、HPポーションを飲みリカバリーを挟みながら何度も突いてくる攻撃を後ろに下がりつつ、少しでも威力を減らしていく。
何度も撃てるような状況ではあるんだが、上手いのが照準を定めさせない様に細かく攻撃して来たり、距離を取った時には威力があまりないが伸びる攻撃でこっちを小突いてくる。ああ、小賢しい。
「私のメタが多すぎるんだよ、もお!」
「癇癪か」
「ああー、一個決めた、絶対決めた」
「何だ、勝ち方か」
そんな事よりもだよ、私がここに来て「甘く」なっている事に気が付いた。私に対するメタって訳じゃないだろうけど、普通の飛び道具や魔法に対してあんなに正確に防御スキルがあるのは確実に過剰だろ。
「このイベントでぼろ負けしたら、ソロクランにする」
「……どういうことだ」
「あんた達におんぶにだっこで甘くなってる私が許せなくなってきた」
会話をしながら一旦大きくバックステップで離れて相手の射程圏内から出ると共にTHで3連射。流石の槍捌きでびゅんびゅんと風切り音と共に銃弾を落とされるが、それは知っているのですぐに装填を済ませ追撃し、ここでTHではなく鳳仙花と交換。
「クラン解体するには惜しいほどに揃ってるだろう?」
「元々商人クランの連中を倒すために立てたもんだしな、全員辞めて貰って施設だけ開放するわ」
「本気か?」
3発斬り落として体勢を整えた所で鳳仙花で1発追撃。流石に槍で散弾貰うのは厳しいのか槍を回転させて弾き飛ばすが、子弾が何発か当たって少しだけよろめく。その隙を見逃さず、残った1発も撃ち切ってすぐに中折して排莢。流石に2発もショットガンの攻撃は捌ききれないのでしっかり防御して攻撃を受ける。
「闘技場の連中も、レース場の連中も、イベントに参加している連中も全部ねじ伏せるためにも、微温湯に浸かる訳にはいけないんだろ」
「なるほど……だったら此処で勝ちを譲る……何て事をしても嬉しがらないか」
「よく分かってんじゃないの」
撃ち切った鳳仙花の装填を済ませ、ガンベルトの間に差し込んでからランペイジを出し、もう盾として機能しなくなったガンシールドも仕舞っておく。
「チェル、ももえ、バイオレット、十兵衛、あんた達と戦ってよくわかった」
投げ物ポーチから手裏剣の連打をしながら相手の射程圏内を見極めつつ、ランペイジを構えては下ろしてのフェイントを掛けて揺さぶりを促す。
替えのマガジンは持ってきていないので中に入ってる弾を撃ち切ったらそれで終わりだが、ここも甘えだな。新しい銃さえあればどうにかなるだろうって慢心が招いた結果だ。こういう甘えが私の弱さに繋がってるんだ。
「私は弱い!現状に満足して弱くなった!」
投げ物を嫌がって軽く後ろに下がった所でフラッシュバンを投げ付ける。流石に何回も使ったのもあって対抗策としてしっかり視界を防ぐようにしているが、持続するしないにかかわらずどうしても視界を防がざるを得ない。
「だからこそお前らと決別しなきゃならんのよ!」
インベントリからスモークグレネードを回転させながら投げ付けると共に、ランペイジのマガジンを抜いて、すぐさまそれも投げ付ける。
「これから全員叩きのめしてやる!!」
白煙が上がると共にトラッカーを使い、投げた勢いのまま一回転。もう一度十兵衛の奴に向き直るタイミングでマガジンを持っていた手に込めた魔法を発動。
「吹っ飛べやぁ!!」
炎の燃え盛る轟音を発している火球を投げ飛ばしてマガジンに当てると、銃声が響くのに合わせて炸裂音が同時に起こる。
『斎藤!車!』
『調達した、今行く』
ごうごうと燃え盛り、黒煙を上げている所、びゅんと何かが一閃、ちらりと見えたその何かを咄嗟にガンシールドを装備していた腕の方で反射的に受けてしまい、余計なダメージを貰う。
「ちっ、浅かったか」
「この程度でくたばったとは思ってなかったよ」
攻撃を貰った方の腕をぷらつかせつつ、鳳仙花を抜いて回転リロード。こんな事ならショートバレル化しとけば良かった。その間にびゅんびゅんと槍を振るって当たりの視界を晴らしつつ此方にやって来るので鳳仙花での時間差射撃で足止めと攻撃。いい加減水平2連じゃなくてポンプかマガジン式のショットガンも作んねえと。
「やはり意外性含めて厄介な奴だよ、お前は」
「その台詞も何度も聞いたわ!」
槍の突き攻撃を後ろに飛びながら回避、と合わせて射撃してちょっとした加速。
そのまま尻餅……ではなく、車の後部座席にぼすんと。
「ナイスタイミング」
「じゃろう?」
「逃げるのか!」
「いいや、私の勝ちさ」
クエスト終了の画面、しかも私の陣営が勝利したというのを見せながらにぃーっと口角を上げて笑う。
「十兵衛殿には悪いが、お暇させてもらおうか」
助手席に乗っていた児雷也が印を組むと共に辺りが霧に包まれ始める。どうだ煙より晴らしにくいだろう。こういうスキルもあるんだったらもっと先に行ってほしかったってのはあったが……とにかくこのまま離脱して追撃もされないうちにさっさとその場を離れ勝ち逃げをする。
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