323話 札束ビンタ

 別に大艦巨砲主義って訳じゃないけど、でかくて強くて派手ってのは見栄えも良いし、使っていて楽しい。思いついた時は天才かと思ったが、元々天才だったわ。単純に焙烙玉にぴったりな太さの鉄パイプを作り、弾として鉄の端材を詰めただけだがかなり物になった。

 戦車クランの連中に会った後、ログアウトして一応の砲弾の種類を調べているうちに思いついただけとも言えるのだが、自分の想像していた物がしっかりと形になって成功するってのは気分が良い。

 と、言っても小型化した物を敢えて大きくしただけだから作り始めたときには大体頭の中で完成していた。世の中小型化の時代だってのに時代逆行にも程がある気がしたが、こういうのはやらなきゃ面白くない。折角自由度の高いゲームをしているのに、視野を狭めたプレイってのはもったいないって事よ。


「例の大砲ってまだ売ってる?」

「砲身で5k、火薬が20万、弾が1kだよ」

「火薬高くない?」

「1gで5,000Z、40g使ってるから妥当よ、ばら売りしても良いけど、威力保証はしないわ」

「じゃあ、砲身と弾、ばら売りの火薬で10gくれ」


 そんなわけでさくっとトレードして取引完了。ただの鉄片で1kも取ってる辺り、結構ぼったくりっぽいけど、それは本人がどう思うかって話なので問題無し。

 こういうゲーム内取引は結局自己責任で、後から安い物を見つけてもそれは運が無かった、もしくは適正外で買った奴が悪いって話になるので問題無し。お互いそれで納得して購入している訳だからな。


「うんうん、忙しいのは良い事だ」

「あんなにがんがん火薬売って良いのか」

「あー、それね……うちの畑全部硝石丘にしたから」


 インベントリのメニューを開きつつさらっと手を加えた事を言いながら在庫をチェックしながら髭親父の相手もしていく。


「良かったのか、そんな事して」

「ジャガイモ錬金と酒に使わなくなったし、前々から腐ってた畑をどうしようか考えたから丁度良かったのよ」


 インベントリを閉じる前にいつもの葉巻を出して火を付けて貰う。そういやうちのクラン全員が生活火魔法使えるんだよな。別に私が全員取れって言ったわけじゃないんだけど、気が付いたら使えるようになっていた。

 一応大筒に着火が必要ないように刻印スキルをみっちり付与したってのになあ。トカゲから聞いていた方法を全部試して、スキル取得して自前で付与したってのに……いや、発想を変えよう、ライターが増えたと思えば良し。


「定期的に畑の管理したらゲーム内時間1日で硝石400個生産できるようになったから、もう金の力で揃えてやろうかなってなー」

「つまり1200gの火薬を1日で生産できるようになったから火薬をしこたま売っていると」

「よく分かってんじゃないの」

「散々振り回されているからな……とは言え、アカメが本気を出したおかげで酒造クランも潤って施設拡充出来ているから嬉しい悲鳴はあったぞ」

「あー、そうだ、酒造クランのマスターと会えない?次の襲撃前に色々融通利かせたい」


 待ってろと、言われて葉巻を楽しみつつ、手元に残っていた素材で大筒を作り、さくっと刻印を底に付与。魔力を一旦流して赤熱するのを確認したらまたインベントリに放り込む。

 作成の手順的に、大筒(鉄パイプ)を作って底を潰して、刻印して、なので3工程なのがいただけない。レシピがあるので選択決定したらさくっと作れるだけまだいいが、マニュアルで作ってた試作していた時は死ぬほどめんどくさかった。


「連絡が付いた、今から会えるぞ」

「うちのクランに呼んで、支度してくるから」

「そのスーツ姿なのは変わらないだろうに」

「良いから良いから」


 にぃーっとギザ歯を見せてから二人でクランハウスに帰還。

 


 いつもの2Fでサイオンをこき付きつつ、わしゃっているとその呼んだプレイヤーがやってくる。


「やあやあお招きどうも……と、言っても十兵衛さんの付き合いで地下にはよく行くんですけど」

「ちゃんと自分のクランの使いなさいよ」

「基本的にクランでしか消化しないんで儲けが薄くて、中々施設をですね……最近はええっと……」

「アカメ」

「アカメさんが購入してくれるので少しずつ拡充出来ているんですよ」


 ま、そらそうか。やっぱり売れない物を趣味で作るとなると別の所で稼いでいかないと駄目だし、実は中々に難度の高いことになる。だからこそ、今回呼び出したわけだが。


「それで、提案なんだけど……金出すから定期的に酒の供給をしてくれない?」

「それは構いませんが、いくらくらいだすかによりますね……」

「じゃあ幾ら欲しい?」

「ぽーんと5mくらいあると良いですね」

「分かった」


 サイオンに合図を出すと、500万Zの硬貨データを渡してもらい、そのまま指で弾いて酒造クランのマスターに渡す。

 

「それじゃあ、500万分はアルコール融通してもらうから」

「……お、おお、マジで5mある……」

「何か質問は」

「いえ、何にもありません!」


 もう、そこからは頭を下げられまくりよ。何回ありがとうございますって言うのやら。とりあえず500万Z分のアルコールと言うか酒を上限はあるにせよ、一度に多く取引できるようになったし、量も多く融通してくれるようになったのでよし。ポンとくれてやったから軽いけど、これで他の商人連中に買占めされることも無いだろうよ。


『アカメ様、クラン資金が減少しています、無駄遣いのないようお願いいたします』

『これは必要経費だから』

『だとしても、気を付けるようにしてください』


 で、お礼として手持ちの良い酒を何本か貰い、ずーっとぺこぺこ頭を下げまくり、そのままクランハウスの入口で見送ってから2Fに戻る。


「偉い早い商談だったな」

「金で解決できるなら良いでしょ?」

「本当に500万Z渡したのか」

「中々良い投資だと思うわ」

「あのまま持ち逃げされたらどうするんだ」

「別に良いわよ、また稼げばいいだけだし」


 これが現実で、持ち逃げってなったらそらあ、鬼の形相でそいつを追い詰める訳だけど、そんな事はないゲームの話だからあまり気にしない。そもそも持ち逃げした所でマスターだから、引継ぎしないでクラン解体をしたら、クランで購入した物は何から何まで全部リセットが掛かるのでひっそり立ち上げ直しても無駄金になる。そもそもサーバーやチャンネルが無いこのゲーム、ネーム変更も課金で変更できないので足を消すってなったら完全にキャラ削除するしかない。

 知り合いさえいれば金の受け渡しは出来そうだけど、そこもそこでトラブりそうだな。


「そもそもあんたの方が付き合いあるんだから、どう使うか分かるんじゃないの?」

「まあ、地下と蒸留器だろうな、人もぽつぽつ増えてるし、まずは増築、そこから増設って感じだろう」

「私の家とクランハウスにある酒造フル稼働したら事足りるけど、それを避けるための手付金って感じ」

「変な所で優しいな、ほんと」

「何言ってんのよ、私は最初から今までずーっと優しいじゃない」


 サイオンがちょうどいいタイミングで持ってきた灰皿で葉巻を消して、いつもの椅子から立ち上がってぐいーっと伸び。何だかんだで色々と私のクランの繋がりも増えているし、丸底にして、容量も含めて見せびらかしたから明らかなクレーム減った。全体的に上手くいっているから、そろそろ何か余計な事を起こして失敗しそうだ。


「さてと、沢山玩具つくろっかねー」

「変な物ばかり増やすんじゃないぞ」

「へいへーい」

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