322話 傍から見れば

 久しぶりに弟を差し出した訳が、随分と面白いことになっているようだ。

 相変わらずあのクランは面白いことをやってはこのゲームの世界をかき乱している。とは言え、不正を行ってかき乱しているわけではなく、あくまでもルールに乗っ取った全プレイヤーがやろうと思えばやれる土俵で戦っている所が何とも良い。


「弟は頑張って手伝ってくれればいいんですが」

「また生贄にしたんですか、マスター」

「人聞きの悪い事を言わないでください、私の友人が貸してくれって言うので貸してあげたんですよ」


 これはこれで言い方が悪いか。ただ、事実貸してくれと言われたので快く貸してあげたというのは間違ってはいない。本人の了承を取る前に貸したと言うだけで。


「それにしても随分と楽しんでいるようで……今から向こうに見学行きませんか?」

「良いですけど、まずはここの襲撃を終わらせてからにしてください」


 私のレベルと防御力だと第四エリアくらいに行かないとまともに攻撃を受けないので、盾を構えて前に張っていればクラン員がさくさくっと倒してくれる。うんうん、優秀なクラン員が揃っていて、私も非常に助かります。

 

「それにしても、よくあんなに面白い物を思いつきます」


 アカメさんの近くにいるフレンドから逐一ではないが、何をやっているかと言う物を聞きながらふんふんと頷きつつ楽しむ。大筒に丸底火炎瓶、まだ具体的な物が分かっていないが前に使っていた焙烙玉を改良したものに、鉄片。

 指向性を持たせるというだけで凄まじい威力の砲が出来上がるとは……シンプルイズベスト、もう少し改良したら戦車砲なんかも作れそうですが、多分作れてるでしょうね。


「今度会う時にはうちにも何本か貰えるように聞いてみないといけないですね」

「火力不足にもならないのに必要はないかと」

「玩具は何個も欲しいじゃないですか」


 何度も貰う攻撃をいつものタワーシールドで受けながら、玩具の使い方を考える。花火なんて出来れば派手に楽しめそうだし、レース機体に付けられるなら大艦巨砲主義も大満足、やはりあのタンククランを紹介したのは正解だった。


「ゲームをする上で一番な事は、それを楽しめるかどうか、ですよ」

「マスターはせめて相手を選んで欲しいですけど」

「いい友人ですよ、親しくならないと良さが分からないというのが一番のネックなとこですが」


 本人はコミュ障だし人見知りするからと言っているが、あれは違う。自分以外のプレイヤーを信じていない上に、思った通りに動けないと断定しているからだ。

 初めてパーティーを組んで戦った時に確信したが、自分の出来ないことを任せたいが、その任せたい事をまともに出来ない前提で話しているので、結局人を遠ざけるような言動になる。弟の誘いを断ったのはしっかりとした理由もあったが、何より自分が足手まといになるのを嫌ったからだろう。


「実力があるというのを分かっているからのプライド、ゆえに面倒な人って感じですかね……トッププレイヤーだろうが何だろうが、出来なきゃ愚図だと言いますし、後ろにいる時のプレッシャー凄いですから」


 そう、代理サブマスターに言うと、明らかに怪訝な顔をする。


「まあ一緒にゲームしないと分からないですかね、あの人は」







「また派手にやってるっすねえ……」

「うん、誰が?」

「アカメさんっすねえ、やる事が爆破ばっかりな気もするっす」

「ああー、今更だよ、そんな事」


 盾を構えて前線を張りつつ、すぐ後ろにいるにおしゃべりな忍者と軽口を叩き合う。


「ゲームを楽しんでいるって言う点では見習うべきだけど、やってることは見習わないべきだよね」

「そうっすねえ……あんなにも下積みや地道な事するのも中々いないっすよ」

「目的地が遠いほど燃えるタイプかなあ……横からモンスター」


 そう言われればしゅぱっと素早く手裏剣を投げ牽制から、分身殺法であっという間に切り伏せる。とは言え、すぐに新しいのがやってくるので、また飛び下がってチェルシーを前に。


『リーダー!南エリアの襲撃が終わったからアカメさんがこっちに来るって!』

『うん、わかった、ありがとう』

「何かあったっすか」

「南エリアにいたのが流れてくるみたい」

「あー……多分アカメさんっすよ」

『……全員、今すぐ本気でモンスター倒して!狩り尽くされるから!』


 そうクラン員に伝えると攻撃の手が速く、熾烈になり始める。

 

「例の新アイテムの事もあるみたいですし、こっちも荒らされる気がします」

「そうっすねえ……来る前にあらかた片付けるか、こっちが移動するか……ま、前者っすね」


 そうだよ、とチェルシーが頷き、一二三も自分のクランに指示を出して、ばたばたと慌ただしくなり始める。勿論その理由を分かっていない他のプレイヤーはくすくすと笑っているが、何でかは数分後に思い知らされることに。







 少しだけ遡り。


「なあ、止めた方が良いか、あれ」

「とばっちり貰うだけですよ……」

「ちげえねえな、ジャンキー共は気にしてないけど、あいつもよっぽどだよ」


 3人の向こう側、マイカ、バイオレット、アカメが大筒を鳴らし、マイカが地面を踏み抜いて転倒させ、バイオレットが刃物でめった刺し。各々が笑い声をあげてモンスター共を吹っ飛ばしていく。いつもバトルジャンキー連中がーと、言っているが、戦力が整って戦える状態であれば一番のバトルジャンキーはアカメになる。

 新しく作った大筒も初めは足元で撃ち放つ迫撃砲としての使い方をしていたわけだが、そのうちバズーカの様に肩に担いでぶっ放す様になっている。流石に無反動砲と言う訳ではないので、ぶっ放すたびに手を振って痛みを飛ばすような事をしている。


「おー、すげえな、あんな風になってたか」

「対爆ってああいう……」


 バイパーと菖蒲も合流し、楽しそうに暴れまわっている3人を一緒になって観戦。たまに横に漏れてくるモンスターに関してはニーナと十兵衛がすぱっと片付けるので特に問題なし。


「次は無反動砲でも作れって言うんだろうなあ……」

「出来るのか」

「ものすごいざっくり言えばロケット花火を大型化だよ」

「アカメもそうだが、バイパーも中々に危ない奴だな」

「つーか、此処にいる奴全員ろくでもねーよ」


 最初にぶっ放してからジャンキー組が暴れまわっているせいで軽く手持無沙汰なニーナが獲物の斧を杖の様にし、もたれかかりながら暴れているのを楽しそうに観戦し、あの暴れっぷりの少し後ろで完全にドン引きして、発射の余波を貰っているももえを見て大声を上げて笑う。


「一番大変なのは後ろにくっついてカメラ回してるももえさんですね……」

「対爆装備はこのためかあ……もうちょっと改良の余地ありか」

「おっと、終わったみたいだな」


 辺り一面火の海にし、地面を焦がし、大量に倒しまくり、文字通り焼け野原にして南エリアの襲撃をしっかりと防ぐことが出来た。多分このイベントを開始してから最速でのエリア防衛じゃないかと思える位にはあっさりと片付いた。

 そしてアカメは相変わらず向こう側で葉巻で一服し、満足そうにジャンキー組と一緒になってあれこれと話しながらこっちに戻ってくるが、会話はクランチャットで聞き漏らしのないように。


『よし、西に行く、とりあえずお披露目は出来たから各自自由参加でな」


 相変わらずの傍若無人っぷりではあるが、やる事やったから後は自由にしろって言う部分が根っこの優しさなんだろう。


『儂は行くが、どうする?』

『とりあえずは対爆系の仕上げ、ですかね』

『俺様は暴れたりねえから東に行くわ』

『まだ触ってないし、大筒の確認もするから西だな』

『じゃ、私は北かなー』

『あたしは東ぃ』

『どうせついて来いって言うから西だろうねー!』

『それじゃあ、お前ら思いっきり楽しんで来い』


 まったく、集まれだの楽しめだの、忙しく命令してくる奴だな、全く。

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