295話 勝てば良し
『何でこのボス倒しに来たんだっけか』
あれから数度、突撃してくるのを横っ飛びでぎりぎり回避を続けながら、どうにかこうにか手裏剣飛ばしたり、魔法矢をかましたり、バッターの様にハルバードを振るってすれ違いざまに攻撃したりとちまちまとダメージを与えつつ、犬野郎……改めサンドバックの復帰待ち。
骨折の状態異常を与えてくる強力な攻撃に関しては、簡単に言うと超高速で突っ込んでくるってだけで他になんの捻りも無い単純な攻撃だったのだが、単純だからこその威力、力こそパワーって事か。
『あそこでのされてるガウェインの我儘だろ』
『って言うか回復にどんだけ時間かけてんだよ、あいつは!』
ギャリリっとハルバードとボスにマウントされているブレードが擦れる大きい音と火花を散らしながら打ち合いをしている横、苦無を投げ付ける。銃弾はもう10発切ってる状態だから無駄撃ちは出来ないし、確実に撃ち込めるポイントじゃないと使いたくない。
機械の生身って何だって話にはなるんだが、装甲が無いってだけでしっかり攻撃が入るようになっているので良し。
『もー、私レベル足りてないんだからさぁ!』
FWSで片付くからなんて道中で言っていたのに、ここにやってきたら形態変化だし、なんだったらこんな苦戦するとは……なんてどや顔で言いやがってあいつは。
『そろそろ倒せると思うんですが、ダメですか』
『もう少しで回復しきれるんで、復帰できます』
分散してまとめて攻撃を貰わない様に立ち回っているせいで、回復役になっているメカクレが近寄れないし、あいつは光の巨人の様な声を出して必死こいて避けるのに忙しい。
『ファーマーなら、土魔法で突っ込んでくる所に壁なんて出来んのか』
『さっきやったら簡単に貫通してきたよ!』
また金属のかち合う音をさせ、尻もちをついてすぐにハルバードを杖代わりにして立ち上がって、ぐるっと回ってくるボスの突撃を警戒。あれがまあ中々面倒くさいんだよな、距離取られる上に速度があるから私とメカクレが撃った攻撃が届かない。そこから攻撃と離脱を繰り返しながら重たい攻撃をかましてくる。
『ああ、もう、さっさとくたばれよ!』
『口が悪い……』
何度目かの立ち合いをして、軽く鍔迫り合い状態になった所を狙いCHで1発。攻撃を打ち合いし、離脱した動作が先に入ったせいで本体ではなく足に入ったが、動きが明らかに変わる。部位破壊したっぽい、突進攻撃じゃなくて、口に剣を咥えてどっしり構えてこっちを見据えてくる。
『私ついてるわー』
『前に出るぞ!援護しろ!』
ドラゴン頭がそういうとハルバードを構えて一気に駆け出し、びゅんびゅんと風切り音をさせながら回転させてから思い切り叩きつけ、かち合うと共に金属音を響かせる。
口に咥えながらの剣で打ち合いするってすげえ器用だな。
とりあえずこっちはこっちでメカクレに指で指示を出して左右に展開、サンドバックと犬耳はもう追いつけないし、このまま3人でやるしかない。
『挟んで足止めさせて、ウドラクが止め』
『りょ、りょうかい……!』
たまたま当たったので足を砕いたとは言え、3本残ってるし、しっかり攻撃は振ってくるので油断は出来ない、私とメカクレはとにかく射撃による飽和攻撃。
私は苦無と手裏剣、爆裂手裏剣の連打、その反対側では頭おかしいレベルの魔法矢がばんばんと光って炸裂している。そして正面はしっかり打ち合いして押し込む。
「だぁー!二度とやんねえぞ、このボス!」
両手で投げ物ポーチに手を突っ込んで右左右左と投げ続け、たまにMPポーションを挟んでファイアエンチャントやCHで使う装填用のMPを確保しながら投げまくり。
『ふ、ふっ、もう無理……』
『サンドバック、さっさと戻って来いって!』
『ベタ足で殴り合いをファーマーにやらせんじゃねえ!』
投げ物全部使い切って、CHを抜いて撃ち終って装填して戻して撃つのを繰り返す。
反対側で魔法をぶち込んでいるメカクレと、正面で叩き合っているドラゴン頭の方が火力があるのであまりこっちにヘイトが向かないってのもいいね。素直に後ろで撃ったり投げたり出来るのが一番気楽で良し。
『悪い、外した』
そういうとドラゴン頭が横に吹っ飛ばされて転がる。打ち合いの読みか、結構もろにボスの攻撃を腹部に貰ったらしい。
そのまま振り抜いた勢いのまま回転し、突き刺さっていた苦無や手裏剣を辺りに飛び散らしてさらに反撃。咄嗟にガンシールドを構えて何発か防ぐが、数発は直撃してこっちも足をやられると、黄色のウィンドウが出て「状態異常:足負傷」と表示される。
重篤な状態異常になるほど、赤くなるわけか、もう1つ賢くなったが、これいつから出るようになったんだ?今まで眩暈だったり何かしら状態異常が起きたけど。
『なあ、状態異常のウィンドウっていつから出るようになったんだ』
『ここ最近ですよ』
とりあえず走る事を封印されたが、軽く飛んだりは出来るし、とりあえず復帰したであろうサンドバックの方に下がりつつ、負傷状態を伝えて犬耳を呼びつける……あまりにもサンドバックが遅いのか後ろから犬耳がガンガン押しながら走ってくるのはちょっとシュールだ。
そんな事を言っていたらボスの咥えている剣がこっちに向かって振り抜いてくるのでガンシールドで受ける、当たり前だがまともに耐えられることも無いのでバキっと嫌な音を聞きながら後ろに転がりつつCHで反撃射撃。
キィンと音をさせ、剣で銃弾を弾いてくるが突撃してくる俊敏性までは無くなっているのでのしのしと歩きながらこっち向かってくる。こういう時に挟んでメカクレが追撃してくれればいいんだが、ガス欠すると一気に弱くなるのがあいつの弱点だな。そういう意味では魔法職と変わりないか。
ああ、くそ、また状態異常だ、ガンシールド構えていた右腕が骨折した。何かこのゲーム、オーラ付きが出た時くらいからプレイヤーが貧弱になってるんじゃないか?
そんな事を思っていたらボスの剣が届くところまで接近され、振るわれた所でサンドバックがカットイン。ようやく復帰したのか、まったく。
犬耳はまだ、ドラゴン頭を治しているからしばらくこっちに来れないので、残った左腕一本で立ち回るしかないね。とりあえず立って動けはするので、サンドバックを掴んで立ち上がり、後ろから援護射撃しよう。
「ほら、前出ろ前、接近しないと直撃しねーぞ」
「相変わらず無茶ばかりを……」
さっきよりも勢いや回転力は衰えているのでしっかり盾で防いでカウンター。剣を弾くのに合わせてCHで1発……の前にかなり接近しているし、ここは追撃。
スキルメニューを開いてスキルのレベルを上げてついでにON切り替え。
スキル名:ヘッドショット レベル:5(MAX)
詳細:【パッシブ】
:頭部への固定ダメージ1.5倍、通常ダメージの威力0.5倍
備考:スキル取得後、スキル効果のON/OFFが可能
『すーぐSP枯渇するんだから、もう』
音を大きく立てて弾いたタイミングでピタッと頭に銃口を向けてサンドバックの真横で一発。音がうるせえって文句を言ってくるけど構わず、撃って防いで撃って防いでを十数発撃ち込みまくる。
排莢、銃声、剣戟、様々な音をさせながらとにかくいつものごり押し射撃をする事になるのは、盾役がしっかりいるからだなあ、さっきまで役立たずだったけど。
『弾切れた、もう何も出来ん』
手持ちの銃弾全部を使いこんでからっけつ、投げ物やウサ銃をインベントリから出す暇も無ければ余裕もない、って言うか此処まで来たらもうなりふり構ってられないけど、攻撃する手段がないわけで。
『美味しい所取り!』
そう言っていると復帰してきたドラゴン頭が首を狙って一撃。がっちり刃が食い込むが倒しきれないので、そこで押し合いへし合いしながら抑え込み、全員が硬直状態。
『いい加減倒れろぉ!』
ハルバードの刃に近い柄の部分を狙って犬耳が思い切り杖を叩きつけさらに刃が食い込む……が、やっぱりそれ以上はいかず。
『ボスの時はいつも赤字……』
膠着している所、ガス欠していたメカクレがなけなしのMPで柄に魔法矢で追撃。威力は低そうだが、勢いはある魔法矢、多分一番オーソドックスに使ってる奴か?何回か見た事あるな、あれ。
『いい加減に、たおれ、ろっ!』
そうして2人分の力を借り、一気にハルバードを振り抜く。そして頭と剣が宙を飛び、地面に突き刺さった剣の横、ポリゴン状に消失していくボスを眺めて尻餅1つ。
「やっぱ撃てないとよえーわ、私」
走れないし腕上げられないし、毎回毎回強い相手と戦う時にはすんなりと勝てたためしがないな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます