250話 悩む背中

「ねー、まだー?」

「もうちょい、もうちょいなんだ」


 くぁーっと欠伸をしながら2本目の葉巻を咥えて謎解き終わりを待ち続ける。

 こういうのって発想を如何に柔らかく出来るかって話だから、慣れていないとまあ難しいわな。それにしてもすげえのめり込んでると言うか、じーっと問題の端末を見ながら唸り続けている。

 そんなに難しい問題でもないと思ったんだが、大分考え込んでいるのよね。


「……苦手なのに参加したいっていったんか」

「今良い所だから!」


 ムキになってるなあ……しょっぱなの1問目からちょっとヒントと言うか、答えっぽい事を言ったらやたらと怒って来たからあんまし言うのは無し、みたいな感じになっているし。良い大人が本気で悩んでるってのはなかなか見れないから面白い姿ではあるのだが。それにあんなにムキになるってのも、見れない絵だしそれだけでも来た甲斐があるってもんよ。


「まだ2問目でこれかあ……」


 葉巻の紫煙を燻らせつつ、何時クリアするのかを暫く待つわけだが、本当にいつまで掛かるんだ?いや、人それぞれ解くペースってのがあるから目くじら立てて早くしろとは言わないけどさ。

 それでもかなり悩みまくってるから、頭が硬いんだろうな。

 ちなみに1問目はジュース200本だったので初見参加した時と変わらなかったが、それのクリア自体は早かったので、計算問題的な奴は問題なく行けるっぽい。


「悪いな、今分かったぞ」

「結構簡単な方だと思ったけどなあ、これ」



【問題2】

プレイヤー2人がそれぞれ自分の馬に乗っている。

そこを通りかかったGMがこう言った。

「2人で馬に乗ってレースをしなさい。勝った馬の主の方に宝を与える。但し、後でゴールした方を勝ちとする」

2人のプレイヤーは相手より先にゴールしないよう、のろのろとレースをしていた。

このままでは、いつまでも勝負がつかない。

だが、たまたま通りかかったのNPC一言を聞いた瞬間、2人はものすごい速度でゴールへ向かっていった。

いったい、NPCは何と言ったのだろうか?



「老けるにはまだ早いと思うけど、どーなの?」

「此れでもまあまあ歳でな」


 最初に来た時と違うルートを選択して貰いつつ、先に進む。

 ちなみにさっきの問題、言われたルールと馬に注目したら結構あっさり解けると思ったんだがなあ……なかなか悩んでいたみたいで頭から湯気が出ている感じがある。


「って言うかこんな調子であと8問あるけど、持つわけ?」

「誘った手前、やはり解かないと言うのはなあ」

「何時でもギブアップ出来る作りで良かったわねぇ……」


 何かこの数十分で大分老け込んだ気がするんだが、本当に大丈夫なのかね。いやよ、謎解きしている最中にリアル脳みそがオーバーヒートして強制ログアウト何て事になったらそれはそれでなあ。一応安全の為に、リアルで何かしら問題が起きればログアウトするようになっているので大丈夫だとは思うが……ちなみにどういう技術かは知らねえ。


「アカメはここをクリアしたんだろう?どういう傾向なんだ」

「あー、意地の悪いのだったり、計算だったり、バランスはちょい悪い感じ」

「計算ならまだ得意なんだが……さっきのような文章問題は怪しい」

「だろうよ、そのかちこちの頭じゃ先に進めないぞ」


 うぬうっと唸りながら端末を認証させて、間抜けな正解音と共に次の部屋へと進む。




 ……何問かまた突破し、また長考に入っている。

 それにしても私が気が付かない事だったり、細かい雑務をしたりと色々やっている割にはこういう問題はさっぱりできない。もしもこのパーティにジャンキーかポンコツピンクがいたら完全に前線崩壊しているだろうよ。

 そもそも私のクランに謎解きできそうなのがトカゲくらいか?ジャンキーは問題を見なかったことにする、猫耳は問題が分からなくて切れるタイプ、トカゲはまだちゃんと考える、ポンコツピンクは救いがない。そう思っていただけあって一番出来そうなのが一番出来ないとは思ってなかったんだよな。


「まだ?」

「うぬ、ぬぅー……」

「まだねー」


 自分で謎解きしながら葉巻吹かしてた時に比べてあまり変わらない速度で葉巻を消費しつつ、問題とにらめっこしている髭親父を眺める。

 イベントを付き合ってほしい、ただヒントはあまり出してほしくない。答えが分かったらギブするまで待ってくれ……等々の注文を受けているのであんまし手がだせないのも原因なのだが。


 それにしてもまあ、集中して問題を見てるなあ……あんまり問題をじっくり睨んでも、しょうがないから、軽く気分転換なりするといいんだけど、それは言ってやるか?


「あんまし問題睨み過ぎると良くないわよ」

「ん、ぬ、そうなのか?」

「ずーっとがちがちだから、もっと気楽にほぐれながらやるのがいーのよ」


 こういうのは楽しくやらないと勿体ないんだよ、問題を見てある程度適当に考えて、目処が立ったら本腰入れて、みたいな感じの方がとっつきやすいだろうし?視点を変えて見るってのも大事だから、あながち外れても無い気がする。


「ほら頑張れ頑張れ」

「うーぬ……」


 って、まあ、いきなりそんな事を言われてすぐに実践できる奴なんてそうそういないから、難しいってのは理解できるんだけど、やらなきゃならないで時間が掛かるわけで。


「私先に行ったら怒る?」

「それはちょっとないな」

「うちの爺様は注文が多いなあ……はよといてー」


 分かってると言ってはいるのだが、いかんせん長考がそれなりにあるのがやっぱりネックだな。本人は頑張っているのであんまりそこを突っ込んでいったり、気軽に答えいっちゃうのもあれだしなあ。マジで塩梅が難しいわ。ちなみに、問題自体はこんな感じ。

 


【問題6】

草原にプレイヤーたちが立っている。

人数は奇数。

プレイヤー間の距離はすべてバラバラである。

プレイヤーたちは、自分から一番近いプレイヤーだけをずっと見ているように言いつけられている。

このとき、誰からも見られていないプレイヤーが必ず1人はいるらしいのだが本当だろうか。


本当でも嘘でも、論理的に証明してほしい。



 まあ、ちょっと考え方は難しいな。

 ぱっと答え自体はすぐに出るとは思うが、論理的には説明するってのは難しいな。


「じゃあヒントなー?ポイントは奇数って所と距離がバラバラって所かなぁ」

「そこは分かっている、論理的と言うのがなあ」

「もうちょっと単純に考えてみると楽よ」


 それでも眉間に皺を寄せて唸りながら問題を解き始めている。

 ……やっぱり面白いな、自分の父親みたい歳の人物が同じゲームをしてイベントをして悩んで丸めている背中を見るのはなかなか見れない。

 

 そうして暫くして解答を端末に入れて認証をすると間抜けな正解音が響く。

 ……らしくない、ガッツポーズをして喜んでいる。


「このイベント、参加してよかったわ」

「急にどうしたんだ」

「うちのクランの知らない一面を見れるからなぁ」


 髭親父の解答した答えでドアをくぐりつつ葉巻を揺らす。

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