249話 髭の我儘
「なんとなーく、もう一回やりたくなるのよね、謎解きって」
毎度お馴染みのクランハウス2Fで葉巻をぷはーっと吹かしながら一息。
いやー、謎解きは大変でした……と、言いたいのだが、最終問題の答えの理由が上手く説明できず、やたらと時間掛かってわざわざメモ帳に文章で図解まで書き込みながらやる羽目になるなんてな。
「イベント帰りか?」
「そーよー……珍しいわね、こっちに来るなんて」
「うむ、欲しい物があってな」
「私の家?それともこっちに入れる?」
「クランハウスの方なんだが、そのだな……あー……」
「はっきりしないわね、そんなに高いもんなわけ?」
椅子に座りながらアイオンからの売上メールだったり離れていた時の報告書を確認しつつ、言い淀んでいるのを待ちつつメールを開いては消してを繰り返し事務処理。事務処理と言うか確認作業だし、大体は秘書がやってくれるんだけどさ。
「蒸留器に手を出したくてな、価格が70万くらいでな」
「はいはい、買ってやる買ってやる……1Fはもう一杯だし地下でいい?」
「文句は言わんよ」
「正直におねだりしてくるだけ可愛いもんよ、私もイベントばっかりで疲れたから外でよーや」
椅子から立ち上がり、伸びを一度してからクラン資金を引き出し、70万ぴったり引き出す……の、だが、私の背中にやたらと視線が突き刺さるような感じがする。
あー、稼いだ金また使ったからなあ、警告メールがいっぱい飛んでくるんだろうな。
「どうした、ため息付いて」
「うちの敏腕秘書は金の管理が厳しいのよ」
「使いこみ防止もしてくるのか」
そんな事を言っていたら私のメッセージボックスに思っていた通りのクラン資金についての警告メールが連発で飛んでくる。
ああ、もう、分かった分かった……気を付ける気を付ける。
「あー、もう……ほら、施設買いに行くわよ」
「ボスじゃなくて社長だな」
くつくつと笑われている髭親父の背中を押しながら外に。
「それにしても蒸留器なんてあんのね」
「自作しようと思ったんだがな、でかすぎて諦めた」
「あんたの酒造趣味もそろそろ頭おかしいわ」
「人の事言えるかよ」
こういうのを傍から見たらパパ活なんて言われそうだけど、真相は逆なんだよな。おねだりの金額が可愛い額じゃないのが悩みどころではあるのだが。
あんまり街中ぶらつくって事をしてなかったのもあったが、改めてみるとやっぱり新規プレイヤーが多く、人口が増えているな。
ダウンロード版が解禁されて人口自体は膨れているわけだが、そろそろ色々な問題が起こりそうではある。
「急激な人口増加ってあんまりよろしくない事が多いのよねえ……最近私も配信で目立ってるっぽいし」
「人気者は辛いな」
「そのおかげであんたの酒造趣味が出来るんだから感謝しなさい」
「分かってる分かってる」
「本当にわかってるのかしらねー……って言うか、蒸留器なんて何処に売ってんのよ」
「実は酒造ギルドがあるんだ、エルスタンではなくゼイテだがな」
言われてピタッと足を止めてため息1つ。だったら最初からクランハウスから転移した方が早かったじゃないか。
「あんたねえ、クランハウスからで良かったじゃない?」
「まあ、エルスタンでも用事があったから、それを済ませたらな」
「早くしろよー」
久々にやってきた露店街で髭親父の用事が済むのを待つために葉巻を咥えて一服。それにしても露店街もあんまし使わなくなったなあ……クランショップで済むからいちいち足を運んで露店の設営やら商品並べたり、何だったら売上回収するのめんどくさいんだよな。
数少ない課金アイテムを買ったわけだが、お布施として昇天してもらおう。
「それにしても、みんなイベントやってるのかしらねぇ」
クランハウスに戻るたびに、誰かしらいるわけだが、それでもイベント期間中はやっぱり何だかんだ言いつつも参加しているのか久々にあんまり人がいないんだよな。
そういうの含めて、こうやってうちのクラン員と一緒に何かしらするってのは久々な気がする……傍からみたらデートみてえだ。
「私は別に年上の趣味はないんだけどなあ」
「何を言ってるんだ?」
「私の彼氏にしちゃ、爺さんすぎるなーって」
「儂の彼女にしちゃ、若すぎるわ」
用事も済ませたようなのでその足で早速エルスタンからゼイテへと転移して、酒造ギルドに向かう。それにしても生産系のスキルは何でもかんでもギルドがあるような気がする。
でもまあ、自由度が高いからと言って手抜きをしていないと言うのは好感が持てるんだけどさ。殆どの場合、手を抜かれる事が多いから此処まで用意してあるのかって所は感心する。
「そういえば、イベントの中身、謎解きだったんだってな?」
「そうよー、興味あるの?」
「最近めっきり頭を使わんからな……頭の運動にはいいかもしれんと思ってな」
「付き合うのは構わないけど、別ルートじゃないとやれないわねぇ……謎解きや推理ゲームって一度クリアしたら大体答え覚えてるし」
案外昔やったゲームでもずっと攻略方法を覚えていたりするから、初見じゃないと新鮮さも無ければ楽しさも薄れるのが、謎解きや推理ゲームの難点だよな。
「ちなみにどんな問題が出ていたんだ?」
「確率や文章問題ねー……多少なりとそういうゲームしてたからある程度は難なくクリアできたけど、爺には難しいんじゃない?」
「言ってくれるな……ほら、着いたぞ」
ゼイテの南東側の一角、レンガ造りの大きめの建物の中に入ると、確かにギルドがある。
一つ疑問ではあるのだが、酒造ってファーマー系のギルドで問題ないような気がしたのだが、それはちょっと違うのかね。
「んじゃ、パーティ組んでと……って言うか、こんな所にギルドあるなら自力で道具揃えればいいじゃないの」
「酒造仲間にここがあるのを聞いて、自力で揃えようと思っていたのは事実だが……お前さんの家の方が道具も施設も揃ってるから買う必要が無い物ばかりなんだ」
「……だからって一番高い蒸留器買わせてんじゃないわよ」
「何の事やら」
何だかんだで付き合いも長いから、どういうやつかを分かってはいるが、ねだる仕方が上手だな。まあ、買ってやるんだけどさ。
大型の蒸留器で70万だったが中型ので40万だったので、髭親父に10万ださせて中型の蒸留器を2つ購入したうえでクランハウスの2Fに設置。そろそろまた金使って地下の増設でもしないと手狭になってきたな。
「買ってやったんだから感謝しなさい」
「社長さまさまだ」
「ボスなんて言ってたくせに、金使う時だけ社長呼びするのやめえ」
「感謝はしているんだぞ?」
「分かってるってのー」
ギルドを後にし、街中央の転移地点からクランハウスに戻り、地下を確認。でかい蒸留器が2台どかどかっと並んでいるので拳でこんこんと小突きながら具合を確認。
「配置はこれでいいの?」
「うむ、問題ない……これで上物のウイスキーが作れるだろうな」
「地下は侵入許可してないから、専用になるのがもったいないかも?」
「蒸留さえ大量に出来ればアルコールの製造も容易いから、今まで作っていた樽から引き出してもう一度アルコールを抽出する作業はいらなくなるんじゃないのか?」
「……まあ、80万の価値はあるわね」
そういやそうだわ、質や風味を度外視してアルコールだけがんがん作れるようになるのか。そりゃー、すげえ大事、大事だし、何で思いつかなかったんだろう。
「ついでに謎解きやりにいかんか?」
「えー、またあ?」
「爺の我儘に付き合うのもいいだろ?儂のイベントポイント使って銃買ってやるから」
「よーし、行こうか」
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