229話 通すべき筋

 第二エリア周辺までのボスは全滅させてやった。

 そう言ってもゲーム内時間1日で復活するからまた倒しには行けるんだけどな。


「そういう訳だから戻っていーわよ」

「……ええー……」

「クビにするならちゃんと退職金渡してやらんか」

「散々ドロップ品上げたからいーじゃない、2日間たらいまわしにした割には良い金額稼げたし」


 そういうとさっと顔を背ける。どうやら相当良い感じに稼げたドロップ品があったようだな。みぞおちにしっかり入るくらいの図星を付きあげてやったぜ。


「折角ヒーラー手に入ったのになぁ」

「なら回復弾でも作るか?」


 ああ、そういえば、属性弾を作るって言って結局作っていないな。今度特殊な奴も開発するかな。


「え、じゃあ、これで終わりですか……?」

「まー、たまには顔出しなさい?」

「何かすっごいあっさりじゃないですか!?あれだけ僕の事使ったのに!?」


 そりゃそうだろ、だって所属が変わるってだけで会おうと思えばすぐに会えるし?今生の別れって訳でもない、それくらいカジュアルな付き合いなんだからしょうがないのになあ。


「じゃあ、犬野郎に宜しくね」

「二度と来ないから!アカメさんの薄情者!」


 捨て台詞の様な事を言いつつ、犬耳がクランハウスを飛び出していく。そのうち私のクラン、動物園とか言われそうだな。猫とトカゲと犬がいたわけだし。


「アカメよ、もうちょっと優しくしてやった方が良かったんじゃないのか?」

「そう?イベントの時みたいにあんたとバトルジャンキーを連れまわしてた時に比べりゃ大分優しいわよ」


 振り回してたけど目的は全部決まっていたし、あまり無茶と言うか、回復が間に合わないレベルに敵と殴り合いするって事はしなかったしなあ。

 大変だったっていってもヒーラー役として、其れ以上の事を求めていたわけでも、要求していたわけでもないし……何だったらお客様だから、大分甘くしてたはずなのだが。


「まあ、悪いようにはしてないのは事実だからいいじゃない」

「毎回毎回周りに敵を作るのは勘弁してもらいたいのだがな、折角酒造倶楽部を作ったと言うに」

「私がいなかったら出来なかった事じゃないの」


 まぁな、と言いながらクランハウスの売上を確認してから出ていくのを見送ってため息一つ。よくよく考えてみたら髭親父との関係って大体同じような感じだったな。


 ……ちょっとだけ思ったが、うちのクランに固執と言うか居座る理由ってのは全員が全員もう少ないんだよな。

 髭親父の奴に関しては仲間内で酒造も出来ているし、そっちメインのクランを建ててやってもいいから、うちで使われるよりはそっちの方が良いだろうな。

 バトルジャンキーの奴も一時的に誘ったから、抜けようと思えばすぐに抜けてあっちこっちにふらふらとするほうが性に合っている。

 トカゲもそうだな、ヘパイストスで自由気ままに銃器を作っている方が良い気がする。

 これに関しては猫耳もそうだな、結構焚きつけてうちのクランに入って貰ったから、何かのタイミングで別の所に行っても止められない。

 ポンコツピンクは……多分残るかな。あいつ行き場所無いし、私にあこがれていたと聞くけど……いつかは放流して自分の力でどうにかしろと言ってやらないと。


 こう考えてみたら、どういう結束力で維持してんだろう……って思ったが、基本的には金だな。

 経済力が結束力に直結しているから、破産したら終わりか。


「どうした、ボス?」

「うちの財力が無かったら、あんた達どーした?」

「別に?俺はあれこれ考えんの好きだし、ボスがおもしれーから。じゃあ属性弾でも研究してくら」


 トカゲの奴が何言ってんだって顔をしつつクランショップで手頃な素材を見繕いに行っている。


「あたしも別に変わんないかなぁ、勿論有った方が色々我儘聞いて貰えるけどぉ、無茶ぶりしても許してくれる時点でありだしぃ」


 案外人物評価が高いんだな、こいつらは。ちょっと感動するけど、泣きはしないわ。


「物好きな奴らよ、ほんと」

「それアカメちゃんが言うー?」


 そういわれると弱いのは確かなんだが、大体MMOの廃人に付いてきている奴なんて、大体こんな感じだよな。散々言ってきたが、結局は類を友を呼ぶって事なんだろう。


 少しばかりため息を吐き出しつつ、葉巻を咥えて火を付けようとした時に、犬耳が帰ってくる。まだ出ていって数分しか経っていないってのに、もう戻りたくなったのか。


「……アカメさんに、お客さんです」

「はいはい、ったく……こっちは火付ける前だってのに」


 葉巻を咥えたまま店先に降りると、商売敵が立っている。

 あー、ついに折れたか。





 目の前にいる水色髪の青い目のヒューマン。服装と言うか防具もあまり目立ったような所も無いので全てにおいて私に喧嘩売ってるとしか思えない。


「すいません、此方のクランマスターでしょうか」

「そうよ。用件は」

「えっとですね、例のクラン間のごたごたについてでして」


 それ以外に何があるんだ?

 心の底で物凄い下に見てから咥えていた葉巻をインベントリに仕舞い、サイオンを呼ぶ。

 何をしているのか分からないと言う顔で此方を見ている横で、情報クランにもあった防音の個室を1Fの奥にさくっと購入して増築。50万Z也。


 で、さらに言えば猫耳が作っておいた余りものの家具があるのでさくっとテーブルと椅子を配置。あいつ、そろそろ石工でもやってくれねーかな。


 とりあえず準備らしい準備が出来たので、サイオンに部屋に案内するように言って、先に部屋の奥の方に座る。

 そして先程仕舞って置いた葉巻を取り出して咥えて少し待つと、サイオンに呼ばれて偽物が部屋に入ってくるので、座らせる。

 勿論サイオンはサイオンで私の葉巻に火を付けて傍に控える敏腕秘書っぷりを発揮。


「で、どうして欲しいって?」

「僕がクラン模倣したのは謝ります、その上で現状の経済的な制裁を緩和してほしいです」

「謝罪と経済制裁緩和の要求ね」


 机に脚を上げて組んだ状態にしてから相手を見据える。まさかそれくらいで私が許すとでも思ってるあまちゃんだと思っているのかな。

 ついでにサイオンへの個別チャットでログとSSは残しておけと耳打ちしておく。

 

 ちなみにやっていた経済制裁についてだが、はっきり言えば向こうには売ってない商品、ドロップ品、品揃えでとにかくごり押したってだけで、別に経済制裁何て事はしていなかったりする。


「後は、クラン員の人が流した噂や、罵詈雑言に付いても謝罪するので、運営に報告はご勘弁を」


 机に手をついて頭を下げてくる。まあ、そりゃそうだろ。

 思いっきり葉巻を吸いこみ、大きく紫煙を吐き出してからじっと相手を見据える。


「私はね、平和にゲームをしたいわけ、人間関係のトラブルや、ごたごたで余計な心労を使いたくないの」


 足を下ろして、葉巻を上下に揺らしつつ淡々と。


「別に良いのよ、模倣しようが、丸パクリしようが、私にとっちゃ大前提が覆されなければ好きにやりゃいいのよ」


 こっちと目を合わせて黙って話を聞いているのだが、まあ、その辺口答えしないだけマシだな。


「ただね、あんたはその一線を越えたのよ。プレイヤーも増えるからごたごたやトラブルが増えるってのも分かるし、ゲームの古参がどうとかってのは後からプレイし始めた人にとっちゃただ単にうざったいだけの老害と変わらないのも分かるわ」


 葉巻の灰をサイオンが持っていた灰皿に落としてまた口に咥え。


「あんたがクランマスターとして模倣クランを動かしているなら、クラン員が勝手にやっている、言った事は抑えなきゃいけないし、あんたが本物って言うなら本物らしく構えてほしいのよ」


 思ったほど早く葉巻を吸い切ったな。結構イライラしてるって事か。

 とりあえずサイオンが持っていた灰皿に葉巻をぐりぐりと押し付けて火を消しておく。


「何が一番ムカつくって、あんたが自分たちのクラン員の制御も出来なきゃ、そうそうに心折れて頭下げてんのが一番ムカつくのよ」


 「ガン」とまた机に脚を強めに上げて大きくため息を吐き出す。


「……自分で舵を切れないんだったらやめちまえ。少し言われたぐらいでぐずぐずになって内部崩壊させてるってどういう事なのよ」


 メニューからかなりの量のメッセージ一覧を見ながら少しずつ自分が冷めていくのを感じる。


「少し突かれただけでクラン員が脱退。こっちが本家だと言うのと、大きく言うのはまずいっていうので対立。ああ、これもあるね、あんた達が私のクランで買い物をしただけで喧嘩。で、あんたはその時何をしていたわけ?」


 ま、返事が返ってくる期待はしてないわ。


「自分だけが楽しくゲームをしていればいい訳じゃないでしょ、自分が立ち上げて自分で人を集めてゲームをしていたのは事実だってのに……そもそも、まず私に謝る前にクラン員に頭を下げて、説明するのが筋でしょ、やったの?」

「いえ……まだ……」

「だったら先に自分たちでしっかり話して、ちゃんと解決しろ。模倣しているって事は別に咎めないし、最初から頭下げてやったら融通利かせてやったってのに」


 何度目かの大きいため息を吐き出してから立ち上がる。


「もう一回言うけど、自分たちのクランで一度話し合って、ケリをつけてからもっかい謝りに来い。それが終わるまではうちのクランハウスに来るじゃないわよ」


 サイオンにぴっと合図を出してから個室を出てさっさと2Fに行き、トカゲとジャンキー、犬耳が出迎えてくる。


「ご立腹だなボス」

「例のクランのマスターでしたっけ……」

「アカメちゃんこわーい」


 どかっと大きいソファに座って葉巻を咥えると、シオンが火を付ける。

 こういう話するのほんと好きじゃないってのになあ……。


「お客様がお帰りになりました」

「サイオンにはそのまま業務戻らせて」


 かしこまりました、と、シオンが言うが中身は一緒だからしょうがないな。


「はぁー……説教垂れるのほんと苦手だわ」

「やっぱり頭使わないでぶっ放しているほうが良いってか?」

「あー、いいわね……みんなでボスでもいこっか」

「……さっき僕はクビになりましたから」

「じゃあ再雇用な」


 吸いかけの葉巻でぴっと指してからにまぁっと笑う。向こうは向こうで諦めの顔をしながら付いてくるのを了承している。


「……やっぱアカメちゃん、面白いよねぇ」


 けらけらと笑っているジャンキーがどうして離れてないのかちょっと分かった気がする。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る