214話 終わりはあっさりと

「結局、誰の総取りなのぉ?」


 相変わらずアカメのマイハウスでくつろいでいる全員でこの間のイベントの事を思い出す。

 この間と言っても一日前なのでそんなに昔って程ではないのだが。


「私の配信アーカイブで決着する?」

「ポンコツピンクのくせに気が利くじゃねえか」


 それにしてもこのイベントで仲良くなったのかまた喧嘩しおってからに、他人が見たら通報されるかもしれないのだから気を付けてほしいな。


「喧嘩する程仲が良いって言うわよね」

「聞こえていたか?」

「んー?何が?」


 相変わらず葉巻を咥えて頬杖を突きながら様子を見ているアカメをちらりと見やる。誰が勝ったとか一番気にする奴のわりに、あまり話に乗ってこない辺り、勝てなかったって事か。

 いや、どうだろうな、最後の最後は中々の大混戦だったし、ゴールした後も投げてた爆弾のせいでうやむやになったままだ。


「普段のボスだったらもっと『私が勝った!』とか言うのにな」

「あんた達、私の事なんだと思ってんのよ」


 そりゃあ、我らがヴェンガンズカンパニーのボスだろうに。

 泣く子は黙り、逆らった者は血の掟、骨の髄まで恐怖を叩きこむ、だろう。


「そりゃまあ、同着だから納得はいかないけど、そこまで私が勝ったとかあーだこーだ言うもんじゃないのよ」

「何だ、そこで揉めると思っていたのだが、そうでもないのか」

「まさか同着されるなんて思ってなかったから不甲斐ないのよ」


 ぷぁーっと煙の輪を吐き出しながら終わった事を遠く見ながらアカメが揺れている。それにしてもそんなにも勝ちたかったのか、お前は。


「まあ、反省よねえ……あのFWSももうちょっと使えると思ったんだけど、うまい事邪魔されたし」

「そういえばあれ、どういうスキルだったんだ?バイパーとももえが上手い事爆風で銃口を上向きにしたから直撃はしなかったが、雲に穴開いたぞ」

「別に隠すほどじゃないしスキル見る?」


 その問いに対して頷くと、だるそうにメニュー操作をし、スキルの欄を開くとこっちに手招きをしてくる。

 さて、どういうスキルかな。



スキル名:FWS レベル:-

詳細:【アクティブ】

   :一定サイズ以上の大型銃器を媒体にし、超高威力の射撃を1発のみ発射

   :装填数1発 チャージ20秒 超光速貫通弾 固定ダメージ∞

発動条件:専用発射砲身 装填済み大型銃器 全MP 設置状態 両手使用

デメリット:チャージ中移動不可防御力0全ステータス-5 チャージキャンセル不可 

     :使用大型銃器5分間使用不可 射角制限 CT1時間



「頭おかしいんじゃないか、これ」

「流石にシステム音声の様なのは流れなかったわねぇ……あったらあったでテンション上がるんだけど」

「趣味が男らしいのう」

「今時男だから、女だからって関係無いわよ、好きな物は好きでいいじゃない?」

「そういうものなのか、爺の儂には難しい」

「ゲームの付き合いだけど、こうやって若い子と一緒にやってる辺り、まだまだ若いでしょ」


 違いないと、言いながら少しくつくつと笑う。

 あまりリアルの話はしないと言うか、話題にするのは仲間内だけだ。オンラインゲームであればロールプレイをしている人もいるし、この手の話題はしっかりとした関係が出来ている相手じゃないとマナーが悪いと言われる。


「それでえっと、FWSだったか、使えるのか?」

「ソロ向きではないわね、FFするかどうかも分かんないし、貫通するし……あー、あれだ、緑色の宇宙人が主人公ごと悪役を貫いた感じ」


 球を7個集めたら願い事が適う、あの国民的な漫画の奴か。

 

「範囲攻撃がない、前に誰かがいる、20秒間攻撃貰っても死なないって色々条件をクリアしたら実用はあるかな」

「浪漫しかないスキルだ」

「ただ使うなら使うで、盾役と回復役は欲しくなるわ」


 そういえば言っていたな、うちのクランに足りない人員をそのうち揃えようって、そこそこ人たらしの様なところもあるし、あっさり見つかって連れまわすのか?

 いや、アカメの事だし、そんな事は多分しないだろうな。色々何かと工夫を凝らしてソロで使うってのがこいつだ。


「ねー、ボス―、アーカイブみよ?」

「俺様が一番だって証明を見るんだとよ」

「同着でいいじゃねえか、もう」


 爆弾で野球やってたやつらは仲が良いな。やはり何だかんだで遠慮なく言い合える仲間ってのは貴重だ。


「はいはい……バトルジャンキーと髭親父も見る?」

「いや、儂はいい、どうせくれてやろうと思っていた金だしな」

「あたしもいいかなぁ、アカメちゃんと違って戦うのが楽しかったからそれでいいし」

「んじゃ、まあ、向こうで誰が同着の中で一番速かったか見るか」


 見ないと言ってもすぐ横の庭先で、なのだがな。

 そのうち動画観賞用のスクリーンでも導入しそうだが、そういうのは自宅の中に作る方が良いのではなかろうか。


「ムキになる所とか見んなアカメちゃんそっくりだよねぇ」

「そういうマイカだって結構本気で狙っていただろう?」

「そりゃねー……あんなに接近戦強くなっているとは思わなかったけど」

「らしいな、イベント終りで話したが、例の北東エリア、1人で爆弾縛り、遠距離縛りの上、複数戦闘を敢えてやってたとか言ってたぞ」

「そりゃ強くもなるわ……ステータスじゃなくて自分のプレイングで勝負してくるとはねぇ」

「結局5対1でまともに5人で相手しないようにしていたが、それが正しい動き方なんだろう」


 なんでも勉強だねえ、と言いながらももえのアーカイブを見ているアカメの背中をちらりと見やる。

 ああやって本気でゲームをして楽しんでる奴はそうそういないだろうな。それに何だかんだで爺にも優しい。


「あ、そうそう、ガンナー3人衆がごめんねって言ってたけど、何かわかるかなぁ?」

「ん、どういう事だ?」


 ガンナー連中がごめんって言う事は、また酒を勝手に使ってアルコール製造してるんだろう、一応確認はする事はするが。




「アカメとバイパーとももえ、お前らどんだけ酒使ったんだ!」

「俺はそんなにだぞ、大体5樽分」

「10樽ちょいだな」

「わ、私は手出してないから!」


 そうかそうか、そんなに人の物に手を出して悪いと思っていないと言う事だな。


「正座しろ、説教だ」

「私に説教するのは無いだろ、使っていいって言われてたし、そもそも設備投資してるんだからな、やるならそこのトカゲに言え」

「ふむ、それもそうだな、バイパーよ、あのガトリング大分弾を使ったようだったな」

「って言うか俺様も酒樽作ってんだから、ちょっと楽しみにしてたんだぞ」


 大きめの雷を落として、庭先で公開説教を開始。

 こういうのをしっかり注意するのはボスの役割だと言うのに、その本人が一番使い方が荒い。


「はぁー……クランハウスに地下作れないか?」

「あー、出来ると思うよ、多分レベルが足りないだけ」

「それで今回の賭け金、結局誰のものなんだ」

「倒せなかったしアカメちゃんでいいんじゃないのぉ?はい、これ」


 硬貨データをマイカがアカメに渡してにこーっと笑う。


「ま、そういう勝負だったからな、同着の時点で俺たちの負けよ」

「チッ……しゃーねーなぁ」

「どういう賭けしてたのよ」

「ボスを負かした人に全財産ってやつかな」


 そうしてあっという間に500万Zがアカメの手元に。


「全く……じゃあ、欲しい物や施設をサイオン達に言っときなさい、予算内でどうにかしたげるから」


 やっぱり優しい所あるな、我らのボスは。

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