212話 VenganzaCompany

 さて、どうやってあいつを片付けるか。

 相変わらず余裕たっぷりに嬉しそうに準備しているアカメは相手するだけで大分厳しいぞ。


「トンネル抜けたら全員合流、大乱闘っぽいよ?」

「そうだねぇ、そろそろ決めに掛からないとこのままゴールされちゃうしねぇ」

「ポンコツピンクとトカゲが後ろで援護射撃、俺様が盾、髭親父とジャンキーがメイン火力だろ」

「射線は塞がない様にしつつ、なるべく全員が攻撃出来るようにだが……多少強引にでも突っ込むんだぞ」

「ここまで来るのに昔馴染みとやり合ってたから、大分消費してるのもあるし、決着は早めにだ」


 がしゃがしゃと空になったマガジンを仕舞い、新しいマガジンを入れなおしているバイパーが前方で走っているアカメに狙いをつけ、その横はももえが。

 それを見てすぐさまニーナが一番先頭に、その後ろで儂とマイカの陣形に。

 この陣形自体は前回イベントの時に3人で戦う時に使った奴の発展形だが、ゲームとしては基本的か。アマゾンやデザート、スペキュみたいなものだ。


「……まあ、此処までやって、五分五分ってとこか……」


 改めて戦っていて思うのが、やはり何だかんだでアカメのカリスマ性と言うか、状況の把握力と言うのが大きいな。しっかりアイテムや状況を見て押し引きのタイミングや、指示を飛ばせると言うのは強みだが。現状では儂がやっている訳で、うまい事回っていない感じもある。結果的に場当たり的な対応が多くなっているのと言う事だな


「相談タイムはくれてやったけど、私から手を出さないとは言ってないからな」


 陣形を組んで少しすると向こうの銃撃が始まる。

 あの吊り下げたウサ銃を脇に構えてあまり狙いを付けていない所謂腰だめ撃ちで発砲をしてくる。勿論一番前のニーナが大剣の腹で受け金属音をさせつつも前進する。

 

「制圧射撃するぞ!」


 1発がそこそこ強い攻撃をしてくるのでバイパーがすぐさま射線の通る位置に陣取って手回しガトリングを発射し始める。

 規則的な音をさせながら、辺りと射線が通っている他のプレイヤーの悲鳴が聞こえる。ううむ、闘技場に行ってからやけにトリガーハッピーになっている気がするな。

 流石にガトリングの攻撃は嫌なのか、蛇行運転しながらなるべく被弾しないように動いているのを見るに、やはり固定ダメージが強いんだな。

 そのガトリングを避けるために蛇行運転しているのに合わせてさらに追撃銃撃をももえがするので、その射線を塞がない様にして前に出る。


「やっぱガトリングは手に入れないとなあ……でも、その手回しもしっかり弱点があんぞ」


 前衛3人がまだがっちり接近されない時に、蛇行運転中にパイプ爆弾……いや、何か棘が付いているな。


「トンネルがあるって思ってなかったけど、これも良いと思うだろー?」


 爆弾に火を付けた上でこっちに投げてくるのを見越して合図するが、投げる先は此方では無くてトンネルの天井に。

 

「加速しろ!」


 流石に崩落……いや、するか、そもそもこんな閉鎖空間で爆発されたら溜まったもんじゃない。

 全員が全員加速して、爆弾が突き刺さった部分を通り過ぎると共に轟音が響き、天井が崩れてくる。

 それにしても、もう少しやりようってのがあるだろうに!


「全然近づけないぞ!」

「バイパーとももえは制圧射撃、儂ら3人はとにかく肉薄!」

「いやぁ、きついなぁ……アカメちゃん本気すぎぃ」


 爆弾に銃撃、火炎瓶に油……まったく、どんだけ色々と用意してきたんだ。

 相変わらずの蛇行運転は後ろ向きで操縦しているし、どういう事なんだ。そこの解明も済んでないと言うに。


「さっさと攻撃して来ないとじり貧になるぞ」


 天井を崩して、陣形が乱れ始めた所で、また天井に向かって吊り下げていた銃を構えてばりばりと撃ち込んでいく。

 さっきから何をやっているんだ、あいつは?

 ばらばらと細かい瓦礫が落ちてくるが、特にダメージがある訳でもなく、土煙が登るので多少の目くらましか?いや、目くらましなら火炎瓶を投げてきた方がまだ有効的だが……?

 そんな事を言っていたらこっちの手回しガトリングの音が鳴り止む。どうやらマガジンを一度使い切ったって事か。


「おま、あのクソマシンガン買ってたのかよ!」

「使い終わったら、うちの家に飾ろうと思ってたけどなぁ」


 がしゃがしゃとガトリングを弄っているバイパーの方を見ると、細かい瓦礫で手回しが出来なくなっている。壊した瓦礫でどうやら発射機構の部分を詰まらせたと言う事か。

 やはり中々小癪な事を。


「悪い、ちょっと手が止まる!」

「こっちでプレッシャー掛けますよ!」


 がしゃがしゃとガトリングを直している横でももえが銃撃で援護をしながら、前衛3人で天井撃ちの間に接近して肉薄。

 マガジンに残っていたのを全部吐き出すためにか、ガトリングが詰まったのを見計らい、こっちにもマシンガンでばりばりと攻撃してくるので大剣の腹でまたお馴染みに防御。

 しっかり接近出来た所で後ろから飛び出て左右で挟み撃ちをしたうえで攻撃開始。

 勿論ではあるが、槍と格闘なので立ち位置に注意しつつではあるが、マイカの奴が少し頭を使ったので、飛び移った際にホバーボードはニーナのトライクに乗せている。

 

「ま、そうなるわな」


 左右と言うよりも、前と横からの攻撃をどうにか受けながら、リボルバーとオートマチックの2丁を手に掛けた所で嫌な予感がするので一度手を止めて防御に回る。

 器用に銃を抜いて2丁拳銃を駆使しながら近接戦闘をこなすとは……そういえば銃格闘なんてスキルがあるとか言っていたから、耐久の問題さえクリアできれば平気で接近戦も出来ると言う事か。


「アカメちゃん、本当に、やりにくいんだけど!」

「バトルジャンキーのあんたに言われるのはちょっと嬉しいわね」


 接近しているマイカへの銃撃と嫌な予感で引いた儂の二人に銃撃を浴びせつつ、マイカの蹴りに耐えている。それでも一発貰うたびに苦悶の声を上げるので効いていることは効いているのだろう。


「おら、こっち向けぇ!」


 マイカの連続攻撃が当たり、アカメが反撃をしてから軽く引いた所に追撃。

 相変わらずの大振りで上段から真っすぐに振り下ろし、アカメの機体後部に思い切り叩きつける。

 前に、右手で撃ちきったであろうオートマチックの方を上に回転させながら放り投げている間に脇に収めていた大型拳銃の方を引き抜いて大剣を弾き飛ばす。

 それをカバーするために儂自身も横から攻撃を入れるが、1脚を立たせて防御に回され、マイカはマイカで左手に持っていたリボルバーでガンガンと押し込まれる。

 

「よ、っと……やっぱ強いわ、あんた達」


 そのまま落下してきたオートマチックを腰を捻ってガンホルスターにすぱっと入れ、片手ずつ交互に回転させると共に装填が完了したのか、がしゃっと音を響かせる。


 余裕そうな顔をしているが、相当練習したんだろうな、こいつは。じゃないと行き当たりばったりでこんな事できんぞ。


「おい、トカゲ!いつになったら直るんだ、それ!」

「うるせえな!デリケートなんだよ、うちのガトリングは!」


 押し込まれているマイカをカバーするためにまたニーナが前に出て大剣をぶんぶんと振るう。囮や攻撃を貰うと言う点で言えばこの上なく入れやすいが、そうするとマイカと儂が生き生きするのであまり構っても居られないのだろう。軽い舌打ちの音をさせつつ、一度大きめにマイカを蹴り、ニーナの方へと押し返すと軽く加速して一度距離を取る。


「よーし、マジでやってやる」


 マイカがそういうと、後部座席に飛び乗って深呼吸。時間にして数秒後に髪の毛が逆立ち、目が赤く光る。オーラの様な物も見えるし、一時的な強化スキルか。

 アカメの奴もそれを見てひゅーっと口を鳴らし、2丁拳銃のままで相手を見据える。


 そしてすぐ、大きい音をさせると共にマイカが飛び蹴りを真っすぐ繰り出すのだが、凄いな。青い雷を体から発しながらバチバチと大きい音をさせてアカメのガンシールドを半分程に砕く。


「いっだぁ!!」


 流石に受け切れなかったのか、吹っ飛んだ腕を引き戻す間に、マイカの連続攻撃。

 ただでは受けれないので壊れたシールドで防ぎつつ、反撃発砲をしているのだが、目から残光を残しながら接近戦でそれを避けて肉薄している。


「俺のガンシールド割るってどんだけ強化入ってるんだ、あれ」

「良いから行くぞ、この手の強化は反動が強いから戦力にならなくなるぞ!」

「援護射撃は任せろー!」


 流石の猛攻で操縦がおぼつかない所を容赦なく攻撃し、固定ダメージを入れていく、ガンナー組。ニーナはマイカの攻撃中はすぐ後ろに待機して、回収待ちって所か。

 こっちはこっちで軽くでも良いのでマイカの攻撃に合わせる時に軽く槍先を出して、引っ込める。

 それだけでも、やはり嫌らしい攻撃なのは変わりなく、意識を向けたときには結構もろにマイカの攻撃が入る。

 しかしあれだけの火力を出しているのにもかかわらず、アカメは少しも応えていないような感じだ。


「本当に、どんな事したらそんな耐久力になるんだ」

「特殊能力って使いようなのよ?」


 連続攻撃の途切れた瞬間に、一旦の急ブレーキ。つんのめったマイカをアカメが受け止めてからまた急加速、するとともに思いきりタックルをかましてマイカが後ろにあったニーナのトライクに着地。


「俺様のタクシーは高いぞ」

「乗車賃は後でいいかなぁ……」


 しゅーっと蒸気の漏れる音と共に、マイカの様子がいつも通りに。やはり時限強化か。

 

「少し休んでろ、こっちが受け持つ!」

「やれ、ボスは大変だな」


 こっちはこっちで相手するのが難しいと言うに……反射神経で銃撃を避けると言う事も出来ないし、ああいった強化スキルは持っていないので地力でどうこうしなきゃならん。

 とは言え、こっちはこっちで槍術の動画を見て、再現できるかどうかを確認済みだ。それでも別に武術を齧っている訳でもなく、出来るかどうかなので見様見真似だが。

 今回に関してはある程度の距離があるので基本戦術は突き。相手の銃口が向けられている時は的を絞らせないために槍先を回して、此方の体を回している残像でぶれさせる。

 勿論そこから一気に突き出せば不意打ちの攻撃にもなるので結構な頻度で攻撃が当たってくれる。

 当たり前だが、そんなのお構いなしにばかすか撃ってくる奴なので何度か被弾しているのだが。


「つーか、あんたも、そんなに動けるの私に隠してたでしょ」

「何の事かな?」


 アカメと似たような笑みを浮かべながらびゅっびゅと風切り音をさせながら肉薄し続ける。

 それにしても2丁拳銃になってから、片手で撃ち切った後に、もう片手で反撃しつつ、装填なんて器用な事が出来るようになるとは、末恐ろしい相手だ。


「よし、直ったぞ!」


 その声を聴くと共に、前衛組が一気に横に逸れてまたガトリングの掃射音が響いてくる。


「私もガンスミス取っておいてよかったでしょー!」

「そりゃな!」


 二人揃ってバンバン撃ち込み、アカメの機体にダメージを与え続ける。

 流石にでかいだけあってHPの高さと防御力は折り紙付きか。

 

「そういえば前回のイベントぶりにガンナー対決じゃない?」

「あのパイプライフルの出来は悪かったけどな!」

「あれ、自作銃だったんですか?」


 ガンナー同士の会話はよくわからんが、アカメの奴も攻撃方法を変えるのか、拳銃を仕舞い込むと、さっき天井にがんがん撃っていたマシンガンを手に取って二人に掃射。

 ゴーレムはそのまま正面で受け、ももえの方はその後ろに控えて防御体勢。


「あの銃の精度は悪いから、行くぞ!」

「ひぃー、アカメさんより厳しい!」


 確かに精度が悪いのでこっちに飛んできたり、あらぬ方向に着弾しているのが目に見える。それにしてもあんな銃何で持ってきたんだ……?


「高いわりに弱いんだよ、それ!」

「まあ、使いようだけど」


 面制圧と言う点ではどこに飛んでくるか分からないイレギュラーな攻撃と言うのは厄介だな。横に振るだけでえらい範囲に届くので、こっちにも何発か直撃してくる。

 そもそもの機体に対しても結構当たっているので、黒雲が「避けろよ」と言う顔で此方をちらりと見てくることがあるとは。


「ちょっと、バイパーさん、結構被弾してるから!」

「機体がでかいから面で撃ってもあたんのよねー」


 お互いに蛇行しつつ、流れ弾で周りのプレイヤーを攻撃しながらようやくトンネルを抜ける。

 トンネル内とプレイヤーの関係で大きく横に移動することは出来なくなっていたが、外になれば話は別だな、先ほどよりも大きく動き、明らかに被弾する数が減っている。


「バイパーさん、流れ弾、流れ弾!」

「分かってっから、俺の反対側に撃て!」


 ちぐはぐなりに連携しつつ、こっちはこっちで回復を入れていく。

 だいぶ追い詰めている気がするんだが、もう少しと言う所で先に進めん。


「やっぱ固定ダメージっていてーわ……そんなお前らにはお仕置きだ」


 蛇行しつつ、大物のライフル。いや、ライフルと言うよりも大筒と言う感じの武器を肩に掛けると共に。持っていた大型拳銃を筒の横にスライドして装着。


「避けないと死ぬぞー?」


 それを構えつつ片手で爆弾を放り込んで爆風加速で多少なりと蛇行しなくていい距離にまで離れると両手で筒の前後を構える。

 それと共に甲高い収束するような音と共に、機体に筒から抑えのような足が出てがっちり固定されている。


「私も初めて相手に撃つから、どーなるか分かんないんだけど……ファイナルウェポンショットだってよ」


 そのままがしゃっと筒になっている部分が上下開くと、サメが口を開けたような状態になり、さらに中から赤黒く光る銃身がお目見えに。誰でも見たらわかる、ヤバい奴だ。


「おら、消し飛べ!」

「やらせっかよ!」

「うわー、うわー!」


 アカメが引き金を絞ると共に、収束音が一気に静まり解放すると轟音と共に光弾が発射される……が、直前でガンナー組が投げた爆弾により、銃口が上向きになったので直撃することはなかったが、雲に穴開いたぞ。


「あー!折角撃ったのに!」


 あんなもん直撃したらダウンじゃなくて消し飛ぶわ。

 効率を求めるくせに、浪漫ばっかり気にするからこうなるんだぞ。


「よーし、そろそろ、いけるぅ」

「ジャンキーが復帰したぞ!」

「よし、行くぞお主ら!」


 そうしてアカメの一番でかい攻撃が不発に終わり、全員が突撃しようとしたところで唐突にアカメが吹っ飛んでダウン判定が下される。バイパーとももえの奴も爆弾は持っているのだが、そういうのではなく、所謂魔法の炸裂と言った感じだ。


「なんだ!?」

「横やりだよ、横やり!」

「えー、どうするぅー?」

「あー、あいつ、あいつらがやった!」


 ももえが指さした方向に大きめのゴーレムに乗った魔法職が数人。合流して全員で狙ったって感じか?それとも今ここで攻撃をしているからライバルを蹴落とすためにか?

 ともかくひっくり返ってダウンしたのかきゅーっと擬音でもなっているかのように目を回しているアカメが後方に流れていく。


「お前ら、分かっているな?」

「え、何がぁ?」

「このクランの名前を全員言ってみろ」


 そりゃあ「ヴェンガンズカンパニーだろ?」と勿論全員言う。

 そう、ヴェンガンズカンパニー。アカメが作った名前だが、しっかりと意味が込められている。


「どういう意味か聞いたら、『復讐、報復、リベンジ、仕返し、仇討』……つまり」


 やられたらやり返すって事だ。

 元々自分へ喧嘩を売ってきた相手を叩き落とすために作ったクランで、前回のイベントに参加したわけだから解体する予定だったのだが、愛着が沸いたとか。

 

「うちらのボスがやられたって事はだな」

「しっかりタマ取らないとねぇ」

「なんでもありの殴り合いだが……喧嘩売る相手を間違えたって事だろ?」

「ガトリングの的にはでかくて丁度いいな」

「うわあ、マジだ、この人たち!」


 全員が横やりを入れてきた連中をロックオン。

 「俺、何かやりました?」感を出している魔法使いに全員で殴りかかる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る