195話 イベント開始

 さて本番だ。

 あれから色々と各々準備を進ませてさくっとイベント開始の日時になる。

 相変わらず此処の運営はユーザーフレンドリーを意識しているのか、なるべく休みが取れるような日にちにしてイベント開催してくれるのはありがたい。

 

「あら結局参加するんじゃないの」

「まあな……とは言え、今回に関してはライバルだから遠慮せずに倒しに行かせてもらうぞ」

「か弱い私に本気を出すなんて恐ろしい奴だな、お前は」

「どの口が言っておるんだどの口が……知らん間に裁縫クランの奴に防具まで新調してもらってるだろうに」

「Amat Victoria Curamって言ってね、勝利ってのは準備に愛されているのよ?」

「前回のイベント同様に装備品とアイテムに制限が掛かってるからこそ、か」

「そーいうこと」


 そういうとぷらぷらと手を振って別のスタートラインに向かって歩いていく。

 やはりこの手のイベントの「勝ち」に対しての執着と集中力は知り合った中で群を抜いておる。だからと言って負ける気はないし、勝ちを譲ると言う考えは特にないのだがな。


「十兵衛ちゃん、何してたのぉ?」

「アカメに宣戦布告って所だな。しばらく自宅にもクランハウスにも来ないで準備していただけあって何を仕込んでいるのか分からん」

「そうだねぇ……ガンナーギルドのクエストをこなしていたってのとぉ、レベルがまた上がってるってのは分かってるけど、どういう物を仕込んでるかはやっぱり分からないねぇ」


 ぐいーっと伸びをしているマイカを眺めつつ、今回使う自分のレース機体の確認を進める。


「そういえば他のメンツはどうした?」

「んー、そうねぇ、ももちゃんは向こうで機体のチェック、バイパーちゃんとニーナちゃんは計画立てた日から連絡は来るけど、何してるかはわかんないかなぁ」

「本気でうちのボスを倒す気だな」

「2日見ないだけで何やってるか分からないのがアカメちゃんのクランって感じだけどねぇ」

「それもそうだな……潰し合いはしないって言う紳士協定は結んでおるが、勝つためなら容赦せんぞ」

「十兵衛ちゃんとも戦ってみたくあったし、ばっちこーい♪」


 マイカはマイカで戦闘勘が強いのと、どこぞの新種類の第六感の様な物で後ろの気配を感じて反撃したりするのが驚異的ではあるな。

 ただこれに関してはアカメも同じようなところがある。そのアカメに一度聞いた事があったが、FPSをやっている時にトリガーを引いて着弾するまでの間に倒した、当たったってのが確信できる時があったり、音が無くても「その位置にいる」ってのが何となく分かると言っていた。

 ゲーム慣れしているとそう言う事があるんだろう、爺の儂にはあまり縁のない話だ。


「それじゃあ、そろそろ準備するからぁ、頑張ろうねぇ」

「そうだな、一応健闘を祈るぞ」


 分かってると言いながら、また向こうに消えていく。


 

 さて、今回のイベントだが、個人戦レースで完走した順に順位が決まると言うシンプルな物だ。

 レースコース自体は周回のないスタートからゴールまで複数の道があるロングコースで競い合う。勿論その間の攻撃、妨害、諸々含めてなんでもあり。

 自分のHPが無くなるか、機体のHPが無くなると一定時間行動不能になってしばらく足止めされる。つまりどれだけ下手でも時間さえ掛ければしっかり完走は出来る仕様だな。

 一応制限時間が設定されているのでそれをオーバーさえしなければ順位+参加賞+タイムでイベントポイントが貰えるようになっている。

 所持品に関してはこの間のイベントと同様にアイテム、装備の持ち込み総数が決まってステータスやスキルに関しては特に無し。

 代わりに高レベル帯になると機体側の制限が強くなる。その辺でバランスを調整しているという感じだな。

 この機体の方にかなり力を入れているのか、所謂オンロード、オフロード向けが大きくあってなおかつ車に、動物、魔法生物とモデルが多い。って言うか車はいいのか?と、思ったのだがアカメとバイパー、ももえが銃器振り回してるからそうでもないか。

 最高速度は基本一緒で加速やハンドリング、特殊能力を弄っていく形で個性を出していく。そして高レベル帯になるほどこのカスタマイズの幅が狭くなる。

 とにかくレベルを上げまくるとかなり弄れなくなるので、ほぼ基本スペックの機体で自分の能力で立ち回る事が強要される。

 自分もレベル45なのでカスタマイズ幅はかなり狭い方なのだが、それでも弄れる部分は結構多い。


 そして今回弄りに弄った機体の構成が加速遅めのハンドリング制御のしやすい馬。特殊能力として障害物に強く、攻撃を貰ってもあまりよろけないようにしてある。

 一応レース中にも特殊能力やステータスを付与できる専用アイテムが転がっているらしいのでそれにも期待しよう。


「本番前にどういうのか試運転出来るようにしてあったのは意外だったが」


 ぶっつけ本番でいきなり動けってのはユーザーフレンドリーではないか、そういうのもゲームとしては有りだし、ロングコースだからこそ道中で操作感を覚える……と言うのはしなかったようだな。

 その練習ができる所にもアカメは来なかったのでどこで練習をしていたのやら。


 それにしても、スタート前に調整だったりインベントリ確認をしているのが多いな。

 後は結構視線を感じると言うのもある。


 ……一つだけ思い当たる節があるのだが、前回のイベントで悪目立ちしまくったと言うのがあるんだろう。あの時は爆弾や火炎瓶をばら撒いてとにかく派手にやらかしたから、警戒されているって事か。


 そんな事を思っていたらパカラパカラと音をさせて儂の隣に騎乗する馬が着いてくる。

 名前も付けられるらしいのだが、馬!って言って呼ぶのも呼びにくいし名付けと言うのも大事か。とりあえず毛並みも黒いし、黒雲としておこう。

 

「よし、名前も決まったし、準備も出来たな……後はスタート待ちか」


 ちなみにスタート地点は何個か分散しているのだが、距離は変わらず、コースは途中で一旦合流したりするので大混戦になるのが予想される。

 

「……アメリカ大陸を逆ルートで踏破するって言う漫画があったな」


 まあイメージとしてはそれか。

 そういえばこのイベント、参加しない人は賭けが出来るのだが、参加人数が多いため1人1人の倍率がかなり高い。3連単なんて当てると、100Zが数百万くらいになるらしい。

 

「参加している儂にはあまり関係のない話か」


 情報クランは競馬予想の様に稼いでいるとかどうとかちらりと聞いたが、全プレイヤーを網羅しているわけではないのにどうやっているのやら。

 



 そうこうしている間にスタート開始時刻になると空中にウインドウが現れて、運営の実況席の様な所が現れる。。


『皆様、お待たせいたしました。

 これよりT2W第三回イベント、ラリーレースを開催いたします

 まずはレースの内容、ルール等の簡易説明を……』


 名前がかなり簡単だが、分かりやすいので良し。

 とにかく大体は先程の通り、ロングコースをとにかく速くゴールする、後は攻撃するなり妨害するなりはご自由に。

 

『レース内容及びルールに関しては以上になります。

 ……それではこれよりレースを開始いたします』


 実況席の様な画面から切り替わり大きく数字のカウントダウンが始まる。

 それにしても周りはバリエーション豊かなのと合わせてかなりマークされているようだ。

 序盤で抜けるか、敢えてある程度後ろに控えていくか、色々と考えないといかんな、これは。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る