169話 勢力拡大
「って、訳で、やっぱエルスタン周りでだらだらやろうと思うんだけど、どう思う?」
「いや、まあ、良いとは思うが……何でここに来たんだ」
「あんたが作った銃がどんなもんか気になったし?」
手頃な椅子に座り、その椅子をがたがたと揺らしながらトカゲ顔が難しい顔をする。
この間の対人イベントで撃ち合った仲だし、そもそも銃の作り方を教えてやったんだから、どう作ったのかも気になるでしょ。
「結局キャラ作り直したわけ?」
「まあな、今じゃがっつりガンスミスと鍛冶の二足の草鞋よ」
「刻印も取り直したわけ?」
「そりゃそうだろ、火薬の着火方法だからな」
あー、こうなってくるとまだ銃弾作れてないのか?刻印覚えて鍛冶やってるならある程度は銃の自作はしてるだろうし、自作銃弾も手を出してると思ったんだが。
「……まさかとは思うけど、未だに先込めってわけじゃないでしょ?」
「いや、そうだけど?」
やっぱりか。
いや、私があまりにも追及って言うか、一直線にやってるからこういう状況だった。それでもちょっと頑張れば結構すぐ見つかる要素だと思うんだけどなあ。
「あんたさぁ、私のクラン来ない?」
「どうした急に」
「専属の銃職人とか欲しいなーって今思ったのよ、そしたら私も楽出来るし、あんたはあんたでガンナートップの私から情報を交換できる、なーんにも悪い事のない取引じゃない?」
「まあ……そうだが……」
「ほーら、こんなの欲しくないー?」
コートの中に手を入れてガンベルトから一発銃弾を取り出してトカゲに投げ渡す。
ガンナーやってたらそれが何か分かるし、目の珍しい物ではないんだろうけどね。
「銃弾だろ?まだ全部使い切ってないから余ってるが」
「あんたまだガンナーやって日浅いでしょ」
「まー、作り直ししたから数日って所だが」
「それね、自作してんのよ」
「何かあんたから聞く話に驚かない事がない気がする」
「レシピも分かってるし、材料もあるし、何だったら火薬の量産も視野に入ってるしで、すっごい良い環境なんだけどなー」
「……ちょっとクラン抜けてくるわ」
いえーい、引き抜き完了。
これでもうちょっと私が楽できる。
「ちょっと、急に抜けるってどういう事なの」
「ヘパイストスのマスターな、この人」
種族ドワーフのちんちくりん。あのチェルよりも小さいドワーフで、ぼさぼさのショートヘアの金髪が特徴的。
こういうロリキャラに大きい武器を持たせるのが浪漫なんだろうな。
「こいつの好きに銃を作らせる環境を与えるって条件なんだからいいじゃん、別にクランの制限もないんだし」
「うん、まあ、それもそうね、じゃあ頑張って!」
ノリが軽いなあ……いや、よくよく考えたら3位のコメントでがんがん宣伝飛ばして自由にやってたからそこまで気にしないのか。
「鍛冶クランって変人しかいないの?」
「ノーコメントでいいか」
トカゲに近寄ってばしばし叩きながら頑張れ!とか何作るんだよ!と、色々聞きながらあっさりクランの鞍替えが完了する。
『新人入れたから仲良くせーよ』
『金策しに行ってたのに何で勧誘しに行ってるんだ』
『あ、アカメちゃんだ、何かあったんー?』
『風邪ひいて寝込んでただけだって……じゃー、新しい奴……名前なんだっけ?』
『バイパーだよ、バイパー。そういうわけで宜しく』
『うちの武器担当だから、こき使ってやって』
『密造酒担当の十兵衛だ、基本的にアカメのマイハウスにいる』
『鉄砲玉のマイカぁ、あたしは基本いないかなぁ、訓練場作ってくれたらちょいちょい出没すると思うけどぉ』
『え、なに、マフィア?』
『まあ、そういうノリね、転移から私の家に飛べるから、欲しい物があったら早めに言って』
それにしてもあっさりと勧誘できるとは思ってなかった。これで私の手が回れば金策もしやくなるってもんだ。
「ねえ、どうやってあの爆弾作ったの?」
「んー、あれは鉄パイプに火薬突っ込んだだけだけど」
「ふむー……そうなると、刻印効果も合わせてインパクトアタックもできそう……ふむふむ……ねー、フレか同盟組まない?何か面白そうな事多そう」
「いいわよ、別にデメリットも無いし」
どうやら武器の購入先まで決まったようだ。とりあえず同盟申請をしてそれを受理して、ついでにフレンドも登録。相手の名前は『カコル』とのこと。
ちょっとした引き抜きしに来たら結構色々進展した気がする。
「ついでにアカメんところの家見せてよ」
「俺も見たいな」
「フレとクラメンには開放してるから好きにせえ」
こうなってきたら勝手に見てくれ、どうせ余計な事が出来ないように設定はしてある。
ああ、それでも共有ボックス的な物を作ろうと思ってたんだった……木工も進めなきゃならんか。
もうちょっと人使って効率よく動ければいいんだけど……私のスキル2枠も使わない日が来るのを願いつつ、勢力拡大をしていかないと。
あと1人、ちょっと狙いたい奴はいるのだが、あれはあれでめんどくさそうだし、会う機会があれば考えておこう。
鍛冶クランからトカゲとロリドワーフと一緒に出ると共に別れて、向こう2人は私の家を見に行き、私は私で街中でトラッカーを使ってマップの隅々まで確認をしていく。
……あれ、戻ってきた理由は銃剣作るとか言ってたのに、また別ルートに進んでるじゃないか。
もう気にするだけ無駄だな、寄り道してなんぼって割り切ってしまおう、そうしよう。
絵面としてはかなり気持ち悪いと言うか怪しいよな、じいーっと地面見ながらぎょろぎょろ周辺確認してるんだから、怪しさ爆発よ。
「まー、そうそうすぐには見つからないし、見つけられないと思うんだよね」
葉巻を吸い、地面を見つつ、建物を確認しながらマップの北側からじっくりエルスタンの隅々を確認する作業になっている。
結局銃剣はどうしたって言われるが、銃剣より先に銃弾確保したらいらなくね?って結論に至った。
つまり、威力こそパワー。
銃剣でちまちま削るくらいならさっさと数ぶっ放しても問題ないレベルの銃弾の量を確保すればいいだけという話。
だからこそのガンナーギルド捜索に切り替えたわけだが、今の所進展なし。
「んー、こら駄目だわ、何かのヒントくらい欲しい」
手頃にあったベンチに座ってふいーっと一息。
何かしらガンナーに関係していることを使っての捜索だったり、条件って感じなのは何となくわかるのだが、それが何かはさっぱりわからない。
「もうちょっと良い事ありゃいいのになあ……」
最近の良い事ってのは対人イベントで2位取れたって所か。さっきの引き抜きはまた別。
ふいーっと大きめに紫煙を吐き出してぼーっとしてたら声を掛けられる。
葉巻を咥えたままでちらっと声の方を見ると、種族ヒューマンのピンク髪の奴が目の前に、精神くそ雑魚なめくじのアイドルみたいだな、おい。
……どっかで見た事あるんだけど、どこだったかな。
「あの、すいません、ヴェンガンズカンパニーの代表の方ですよね?」
「よく知ってるわねぇ」
「いきなりで申し訳ないんですが、クランに入れて貰えませんか!」
「駄目」
「はい!……はい!?」
「何が出来るかちゃんとアピールしないと、うちには入社出来ないんよ」
「うぇ、え、あっ、えーっとですね、そこそこのリスナーがいる配信をする事ができます!」
ああ、そうだ、思い出した、銃弾と銃格闘の事教えた奴だ。
そういえば配信してるとか聞いたわ。
ってか配信者だったらもうちょっと自分でどうにかしたいとか思わないのか。
「自分でクラン立てて、配信するって方向はないんか」
「それもいいかも……いや、でもやっぱり好きな所に行くべきなのがゲームなんじゃ?」
「んー……それじゃあ、条件1つ付けるわ」
よっこらせと立ち上がり、葉巻を揺らしながらピンク髪の前に行き、じっくり上から下まで見てからその条件を提示し始める。
「今日から1週間以内に銃弾作れたら入れたげるわ」
「え、あれって作れるん……」
「私の目の前で銃弾を作れれば合格、あと銃弾関係に関しては結構やばい情報だから配信は無し、質問は?」
「無いですけど、本当にそれでいいんですか」
「私は0から、3日で火薬を作って6日で銃弾を作れたからね、材料や情報を買うのは好きにしていいわ、とにかく『私の目の前で銃弾を作成する』って事が出来ればいいわ」
「分かりました、1週間ですね!」
「名前は分かるだろうから、出来たらプレイヤーメールで呼び出してちょうだい」
口が堅いってマフィアとしても大事だからね。
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