153話 指定暴力団ヴェンガンズカンパニー

「我が社は困窮に瀕している」

「銃弾もポーションも回収できんかったからな」

「あたし何個か拾ってるー」


 なんかイラっとしたんでマイカの頭を引っぱたく。

 別に痛くも無いのに「痛い」って言うのはゲームやってると何度も経験するもんよね。


「ざっと何人くらい倒したか分かる?」

「さっきので10~20くらいだな、後は重軽傷がちらほらと」

「あたし倒したのいないかなぁ」

「赤字経営だなあ……地味に用意するのに酒樽3本使ってるし」

「おい、使いすぎだぞ」

「勝てたら好きな施設増やしてやるから。とにかくこれでどのくらいの被害が出せるかも確認できたし、これからは細かいクランに強襲掛けてポーション回収しながら後半まで生き残りかな」

「マイカの奴が不服そうだが?」


 頭ひっぱたかれるわ、戦うの控えると言われるわで、頬っぺた膨らませながらぶーぶーと文句を言っている。下手したら全滅してたかもしれないってのにマイペースな野郎だな、もう一回引っぱたくぞ。

 それにちょっとテンション上げすぎたのか、マイカの奴は火炎瓶あと3本まで使い込んでるし、ポーションは結構な数消耗した。

 細かくダメージ貰ったり、トラッカーや生活火魔法でのMP消費も馬鹿にならないのでそっちの回復を済ませたりしたら、自分の手持ちポーションも減ってきているのもだいぶ問題だな。


 今更ながらHP100MP75の固定ステータス、結構いい塩梅な気がしてきたが、職によっては強化と弱体化の幅が大きいのか。

 ガンナー的にはがっつり全体的に上方修正貰ってるので、単純に耐久力が上がってて助かってるが。


「とりあえずこれからはゲリラ戦と不意打ちで使った分を回収しながら、最後まで残るのが良い所かしらね」

「マイカの奴が納得してないが」

「対集団戦は最後に取っておきなさい、それをする為の準備での各個撃破なんだし」

「ちぇー……」

「しばらくは固まって行動して、余裕が出来たら、かしらね」

「あと何人いるかもわからんからな、アナウンスもされんし」

「マップはじわじわ狭まってるし、クラン数も減ってきたとは思うけど……まだ結構な人数はいるんじゃないかしらねー……そろそろマップも移動するか、いい加減林とか森で戦うの飽きてきたわ」


 ぶっちゃけ問題はそこ、変わり映えしないと言うのと単純に索敵するのが結構手間なマップより何かしら人工物のある所に行きたい。


「一応ここから東の中央側に行けば大き目の廃墟があるな」

「じゃあそっちに行こか」


 潜伏しやすいとか索敵しやすいと言う訳ではなく、変わり映えのしない環境に飽きてきてるからだ。

 対人として勝ちたいと言うのはあるが、それも含めてこのゲームを楽しみたいので、場所を移すと言うのもある。

 建物で戦闘している間に爆破して倒壊させる、火炎瓶で火事でも起こして丸焼きにするなんてことも出来るだろうし、面白そうじゃないか。


「よし、移動するか……」

「見つけたぞー!」


 三人で隠れて話し合っている所に割り込むように声を上げるプレイヤーが一人。

 うむ、知らない奴だな、すぐさまそのプレイヤーにぴっと指さすと、マイカが飛び掛かってマウントとってからのグラウンドパンチ。

 HP100全部消費するまでしばらくボコって、ポリゴン状に消失していく相手を眺め終わる。

 勿論倒した後はデスボックス化したのでポーションを回収……出来ずに倒しただけ。


「……集合は廃墟の東側、連絡は密に取りながら離脱って事でいいわね」

「固まらんのか」

「ポーションも持ってないし斥候だし、固まって消耗するより一旦ばらけて見つからない方がいいでしょ」


 そんな事を言っていたら追加の人員が3人出てくる。

 これは本格的に「狩り」に来ているな。


 とりあえず十兵衛とマイカが一気に前に出て足止めし、その間に鳳仙花に持ち替え、2人で3人止めている横から銃口を向けていつもの2発同時発射でヘッドショット。

 別に頭だろうが胴体だろうが手足だろうが、ダメージ量は変わらない。当たればOKで固定ダメージも入ってくれるので物凄く楽。

 この仕様はどっちかって言うとライフルの方が恩恵が高い。


「序盤の方で目立ち過ぎたか」

「目的としては正しいんだがな」


 自分で倒した相手1体のボックスを漁って銃弾4発確保。あんまり大量に銃弾出てこないのはしょうがない。


「それじゃあ向こうで合流ね、死なないとは思うけど、気を付けて」

「本当は固まって動く方がいいんじゃがな」

「私一人の方が細かい相手で銃弾回収したいし、何だかんだでばらけてる方が隠れやすいのよ」


 私はこっちと指さし、他2人も頷いて別の道を指さしてからばらけて行動を始める。

 さて、そろそろ私も動くとするか。





「それにしてもちょっと目の敵にされすぎじゃない?」


 別れてこそこそとトラッカーを使いながら移動しているわけだが、やたらとうちのクランの名前を言っているのが多い。

 やっぱり序盤でマイカが思いっきり暴れたのが原因だろうな、全滅まではさせてないけど、人数減らしたり、とにかくダメージ与えて被害拡大で消耗しまくり、みたいな感じでヘイトが溜まったか。

 こうなってくるとさっきよりも慎重に動かないといけないし、やっと針金だったり持ち込んだアイテムが使える……と、思ったけど、そんな事気にせず強襲してさくっと倒して銃弾回収しながら人数減らすのがいいか。


「そういう訳でポーションと銃弾置いていきな!」


 茂みから2人組の相手に対して鳳仙花での2発撃ちで1人片付け、たじろいでいる所を装填スキルを使って隙を減らしたうえでまた2射撃ち。

 改めて思ったが、この固定ダメージ、頭おかしいわ。

 確かに3×20の子弾を発射できるけど、そこまで拡散しないおかげで距離や遮蔽物が無かったらほぼ全弾直撃するから防御とか何それ美味しいの?って状態で抜けるのが便利すぎる。

 もしも次も対人イベントだったらこのボマーと固定ダメージ回りは確実に修正食らうな。


「ポーション数個と銃弾6発か……1~10発出るっていうけど、本当にそんなに出るんか」


 デスボックスを漁り、ポーションと銃弾を回収したうえでさっさとその場を離脱する。

 やっぱり銃声が響くってのが問題だわ、次の対人があればそれまでには作っておきたいが……今はそんな事よりもさっさと回収と離脱と合流をしなきゃならんな。


「色々発見があるのはいい事よ」


 すぐに撃てるように鳳仙花を構えたままその場を後にする。








「また銃声が響きましたね」

「爆発音と銃声、どこの誰が派手にやってるのやら……」

「きっとよく知ってる人ですよ」


 軽い会話をしながら向かってくる相手の剣戟を盾で捌き、受け流してからそのままシールドアタックでのカウンター。

 蹈鞴を踏んでたじろいだ所に後ろから魔法矢が飛んできて、そのまま攻撃してきたのを貫いて撃破。


「それにしても、人数が多いと大変ですね、今回のイベントは」


 前回のイベントに関しては人数が多いのを生かしたローラー作戦で虱潰しに周辺を探索したり、撃破したりで進行していたが、今回のは参加者全員の話を聞いたうえで、何人をばらして、何人が被害出てるとか聞いたりと、管理しなきゃならない項目が多すぎる。

 クラン員が全員参加しているわけではないが、それでも人数がいるので何個かクランを分けても良かったかもしれない。

 こういったほぼ全員参加のイベントが多いと言うのならサブクランなり、もう少し人員管理できるようにしなければいけないな。


「右に10、左に5、後ろに下がりながら引き込み、カウンターで」


 飛んでくる会話と視認出来る状況から指示を飛ばして、前線を張り続ける。

 やはり普通にぶつかってくる相手ならいくら1次職の状態だとしても負ける要素はあまりない。クラン自体の練度もかなり高いので、各々ある程度自発的に動いてくれるから特に余計な指示もしなくていい。

 うむ、やはりイベントやこういった勝負事は勝ちが大事だな。


「マップ中央側へ進行しつつ、アイテムの回収と索敵は忘れずに、特に銃声と爆発音の方は要注意で」


 そこらへんと言うか、通常職の有象無象には負ける要素は無いが、最終決戦の前に貯め込めるだけため込んで、手早く陣地を形成しておきたい。

 幾ら生産系のスキルを持っていないとはいえ、そこらの石や木板で簡易的な陣地を作る事も出来るので、それも速い所済ませておきたい。


「……一人に対して警戒しすぎですかね」


 多少削れたHPを回復しつつ、状況を確認を逐一しながらマップ中央へと進んで行く。

 

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