145話 鉄砲玉

『でー、あたしに何の用?』

『あんた、リフティング出来るような蹴り技ない?』

『蹴り飛ばし系?』

『そんなんあるんかい』

『って言うかアカメちゃんじゃ無理じゃないかなぁ、だって近接職でもないじゃん』

『まー、そうなんだけど……前にやってたゲームの真似事とかしたいのよ』

『教えたげるけど、どこにいるのぉ?』

『北エリア1でウサギ焼いてる』

『はーい!』


 そんな会話を済ませてから物の数分で私のとこにやってくる。どういうフットワークしてんだろうな。やっぱ近距離職で距離とか足の速い奴がいるって事は投げ距離20~30mは危険範囲だわ。


「で、何をしたいってぇ?」

「手を使わずに瓶を蹴り飛ばして、投げるよりも遠くに飛ばしたい」

「……え、アカメちゃん頭悪いの?」


 バトルジャンキーにそんな事を言われるのは心外だが、自分でも頭の悪い事を言っている自覚はある。まあ話だけ聞いてたら完全にそう思われてもしょうがないってのは分かるよ。でもね、それをやっているゲームがあった訳で、それの真似事とかしてみたくなるじゃない。


「投擲よりは取るの楽かなって」

「んー……蹴鞠的な物とかで練習すればスキルは手に入るけど、取得できるかどうかは分かんないなぁ」

「でも、職業と関係ない物でもスキルって発生するでしょ」

「お、聞いちゃう?聞いちゃう?そこがポイントなんだけど、例えばあたしだと格闘系のスキルは取得が緩和されてるの」

「……なんぞそれ」

「ゲーム的には全職が全スキルを取得可能ではあるけど、職ごとに設定されている値があるっぽくて、例えば50回使えば覚えられるスキルがあったとして、そこから補正で20回で済むとか100回以上使わないといけないとか、そういうのがあるわけぇ」


 なんとなーくわかっていたと言うかそんなものはある感じはしていたが、結構露骨に出るんだな。

 裏を返せば条件さえわかれば、ひたすら累計を重ねて解禁出来れば、イベントでやたらと複雑なビルドを組んでいくとかも可能になるのか……問題はどこまで覚えられるかって話だけど。

 それに取得可能になって通常プレイ時に使うってなった所で莫大なSPを消費するわけだから、取得可能を増やすってのは完全に趣味の領域に近い。


「でもねー、みんながどうして結局やらないのかってのは、スキルの取得条件が開示されてないのとか、専門的なスキルは難易度が高い上に累計値が多いんだってさぁ」

「その職業補正のマスクデータって何個か思い当たる節もあるし信憑性は高いわね……」

「あたしは戦闘系スキルはだいぶ網羅してるけどー、それでも大変なんだよねぇ」


 ちょっとだけ考え方を変えれば、スキルの取得ってのが実績やトロフィーって言われる、やりこみみたいなものなんだな。

 「○○を何回やる」とか「○○を何Lvにする」とか、そういうので考えれば今までのスキルアンロックの原理も分かる。

 特殊条件、規定条件って付いてるのが多分その累計解除の関係なんだろう。特殊と規定の違いが微妙だけど、その辺もどうなってくるのかは確認してみないと分からんな。


「って言うか何でそんなに分かってるんだ」

「これでもあたし、ガチ勢だからぁ?ガチすぎて引かれるんだけど、覚えてないスキルも20スキルくらいあるしー、だから次の対人イベントで試し打ちとか考えててぇ」

「やっぱあんたも出るのね」

「でも個人だからねー……ちょっと物足りなさそう」

「うちのクランに入ってひたすら大量の相手と戦うってのは?」

「それ魅力」


 びしっと人差し指を構えて此方に向け「ふふん」と得意げな顔をしている。それにしたってこのバトルジャンキーはどういう要素に魅力を感じて、T2Wをやってるんだか。

 深追いはしないけど、その辺の理由ってのはちょっと気になるわな。

 

 物作りが好きなのは生産系に手を出してるし、髭親父の様に酒や食べ物を遠慮なく食べられるという点で魅力を感じてゲームをやっているのもいるわけだ。

 ……私は、何でやってるんだっけか、ファンタジー世界を現代兵器でかき回すってのは最初の時だったかな。今じゃとにかく稼いで楽にって方針に切り替わってきてるけど。


「対人も無いのによくモチベーションが保てるわ」

「そうー?結構モンスター相手でも強いのは多いから、そっちの方で楽しんでるかなあ、勿論対人も好きだけどぉ」


 対人好きなガチ勢でソロメインで傭兵プレイってのも中々ありじゃないか。

 勝てるチームなり勢力に加担して勝ちを手に入れるってのは悪い事じゃないし、ガチなら尚更その辺には拘るわけだが、このバトルジャンキーとしてはとにかく戦うってのがモチベーションに繋がっているみたいだし。


「それで、どうする?傭兵プレイする?」

「次の対人イベントのクラン戦でしょー?どの辺を相手にするかにもよるぅ」

「私のプランじゃ、しばらくは余計な戦闘を回避して、でかい所の潰し合いが始まったら積極参戦だけど、全員相手に戦いまくるって単独行動でもいいわよ」

「それ大分敵作っちゃうと思うんだけどぉ?」

「好きな相手に好きな戦い方で幾らでも暴れてもいいわ、私からの指示はとにかく注目を浴びて貰うってのと名前を目立たせる事だけ」

「本気?」

「って書いてマジって読むくらいにはね」


 そんなに目を輝かせて私の事を見つめるなんて照れるじゃないか。

 まったくこのバトルジャンキーはしょうがない奴だな。


 さくっとクラン招待のメールを送り、すぐさま承認。これで3人目だが、戦力としては1人目だな。

 髭親父の奴に関しては対人はあまり好きじゃないみたいだし、今回のイベントは軽く参加してイベントP貰って終わりって感じだからな。

 なんだったら2人でどっかにカチコミ掛けてる間に私は私の作戦を遂行するってのも手だしな。ちょっと人数が増えるだけで出来る事が増えるのがチーム戦よ。


 って言うか、私としては最後まで残るってのがメインで、このバトルジャンキーはとにかく名前を売るための営業って所か。その営業ってのがカチコミ掛ける事なんだけどさ。


「財政担当に鉄砲玉、このままいけば経理担当も仲間に出来そうだわ」


 マフィアの構造ってこんな感じだよな。ボスが居て、大体裏切る経理担当が居て、汚れ仕事をメインにするのが居て……でも私として、マフィアの構造って「Central Island」ってBGMを思い出す方が強いのよね。


「ああ、そうだ、ついでにこれ、蹴り飛ばせれる?」


 懐から0.5ℓの火炎瓶を取り出し、導火線の布の部分に火を付けてバトルジャンキーに手渡す。

 最初の目標を忘れていたが、本来の目的はこれを遠くに蹴り飛ばせれるかどうかを聞きたかったんだ。


「目標はどの辺ー?」

「とりあえず割れない様に蹴り飛ばせる最高距離と使用スキルが何かってのは知りたい」

「注文が難しいなぁ!」


 そう言いながらも持っていた瓶をぱっと手を放して落下させると共に、軽く後ろに下げた右足で瓶を捉えて蹴り飛ばす。

 しっかり割らずに大体30~40mは飛んだが、やっぱりこの辺りが限界っぽいな。


「もうちょっと飛ばしたら割れる?」

「って言うかなんてもん蹴らせてるの!」


 着弾して辺り一面を火の海してる状況をみながら騒がれる。そうか、もし失敗してこの場で割れてたら二人とも炎上していた可能性が高いんだったな。八兵衛八兵衛。

 自爆の可能性を考慮したらやっぱり投擲スキルを取得可能にしておくのが良いか。でも魅せとしては足技って凄い映えるから使いたい。

 後は単純に火を付けて地面に置いておけば、蹴り飛ばせれるってのもあるな。どうせ咄嗟に取り出して使うってのは無理な話だし、他のFPSみたいに切り替えたら自動的に火が付いてるとか欲しい。


「やっぱいいアイテム作ったわ、それでどんなスキル使ったん」

「その図太さは嫌いじゃないけどさぁ……一応蹴り技スキル使ったしー」

「覚えたいね」

「んー……とりあえず蹴り攻撃で数十体倒せば解禁されるはずだけど、ガンナーだと難しいんじゃ」

「どっちにしろ銃以外の事は全部ベリーハードだし、今更よ今更」


 だとしても動物相手に蹴りかますって結構な抵抗があるな。……火炎瓶で燃やしてる時点でそんな事言えるわけないか。

 なんだったらがんがん銃撃かまして倒してるし、銃剣振ってるし、なんなら銃格闘でボコってたわ。


「じゃあ、対人イベの時はよろしく、悪い事しなきゃ何やってもいいわよ」

「アカメちゃんやっさしいー!」

「丁度鉄砲玉が欲しかったし」

「アカメちゃんひっどーい!」

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