139話 対等

 スーツ着て煙草咥えて肩にコート羽織りながらベンチに大股広げて座っているって絵面がやばいわ。

 まあ自分の事なんだけど、完全に絵面がアウト。


 何でこんな状況なのかって話になるのだが、ゴリマッチョとそのクラン員が群がってSS撮らせてくれって殺到したせいだ。私としても世話になっているわけだし、目くじら立ててやめろとも言いづらい。

 いくら金を積んでさっさとスーツを作ってくれたとは言え、他の依頼もあるだろうし、優先順位を上げてくれたのだから、これくらいはやってもいいだろうよ。


「って思ってたんだけど、あんた達ちょっと注文多くない?」


 このベンチに大股広げて座ってるので7ポーズ目だったりする。


「いいじゃないのぉ、イメージ通りかどうかの確認って大事なのよぉ?」

「そうよそうよー!カオルちゃんのスーツ着てるってのにぃー!」

「次のポーズは私に壁ドンしてほしい」

「貴様、抜け駆けか!」


 私だってオタク趣味があるし、色々見てるからこそイケメンにドキドキするシチュとかこういうゲームでもやってみたいって気持ちは分かるし、抜け駆けしたらそりゃマジ喧嘩になるよ。

 自分で作ったものだとしても、やっぱり誰かに使ってもらうとか、着てもらう方が客観的に見れていいとも言えるけど、マジになりすぎじゃねえのか。


「ほら、やめなさいっての」


 キャットファイトでもやり始めそうなプレイヤーの間に入って止めながら煙草を揺らす。

 此処まで来たら専属モデルでもやるから同盟でも組んでくれんか頼んでみるか


「専属モデルやってやるから同盟組ませろって言ったらOK出す?」

「いいわよぉ、ねー?」

「ねー!」


 こういう時だけは声揃えて返事しおってからに。

 紫煙を大きく吐き出しながら壁ドンSSを撮りつつ、同盟の申請を飛ばして受理してもらう。


「忙しくない時って条件はあるけど」

「いいのよ、うちのVIP会員で専属モデルなんだから」

「そのうちその肩書に社長とか共同出資者みたいなのも増えそうね」


 鍛冶クランの方が世話になるかなと思っていたが、ここまで裁縫を依存するとは思わなかったな。

 って言うか結局のところ鍛冶は武器とかどうとかではなく、その他の金属素材を作る事の方が多いうえに銃剣の剣部分も銃弾を使えるって段階であまり必要性が無くなってきたと言うのもある。

 そうなってくると必然的に防御力を上げて、耐えられる可能性を上げて一発でも多く固定ダメージの銃撃を与えると言う方向になるからしょうがないな。

 銃弾を使わない相手で銃剣をメインに立ち回るとしても、防御力が高ければ安定度は上がるしダメージが低くても防御力の高さもあるから回復する余裕もあるから泥仕合覚悟も出来る。


 と、話がそれたが、結局のところガンナーをやっている上で、どうしても自作していくと必要になっていく鍛冶と違って、完全に趣味に近い裁縫は上げるタイミングも無ければ、あげる必要性も薄いと言う事だ。

 じゃあ何で取ったんだよって言われたら、趣味だよ趣味。


「んじゃ、次の予定あるからそろそろいくわ」

「はーい、ありがとねぇー」


 そのくねくねしながら見送るのをやめろ。




 ゴリマッチョの店を後にして街中でガンナーギルドでも探そうかなとしていたところで、また取引したいとの事でコールを貰う。犬野郎の奴からはまだ連絡が来ないので先に取引を済ませよう。

 前回と言うか前と同じように露店街の入口で待ち合わせ、そこから路地の方へと向かってから取引を始める。

 勿論今回も「1個10g、2個30g、3個60g、4個60g+ボマー」でも、今回に関してはとりあえず1個交換。なんだよ、そこら辺の露店で硝石1個買って追加で交換しろよ……とは言わない。

 こういうのはお試しからの本気取引でしっかり客層を掴まないとな。


「毎度」

「やっべ、マジもんだわ、これ……」


 今回は1個10g交換。って言うか、さっきから交換した火薬のデータ見てにやにやしてんだけど、私よりやばい奴って初めて見た。


「余計な事したら、分かってんでしょ」


 やれやれと一言放ってから一旦煙草を口から離し、香草の匂いがする紫煙を相手に吐き出す。そしてデータに集中していた意識を一旦此方に向かせる。


「うちのシマを荒らさない限り、さっき言ったレートで交換するけど、余計な事言って商売の邪魔したら分かるわよね」

「けほっ、えほっ……えっと、それってどういう……」

「当たり前だけど今後の取引はしないし、あんたの名前を生産クランに流して出禁にする位は出来るわよ」


 煙草を咥え直してからじろっと取引しているプレイヤーを睨みつける。脅迫紛いの事ではあるが、言うほど脅迫ではない。簡単にいえば迷惑さえ掛けなければ何もしないと言う事だからな。


「迷惑かけたり余計な事さえしなければいい関係を築けると思わない?」

「……思う」

「あんたがその渡した黒色火薬をどう使うかは自由よ、何だったらその火薬を増やす方法もあるじゃない」

「何言ってんだ……?」


 お、食いついてきた。これは新たな獲物を手に入れるチャンスだな。


「現状で硝石相場が1個5万、火薬が1g1万以上の相場……で、今は特需で競争率も高いわね」

「まあ、掲示板がある意味で炎上してたし」

「あんたは今10万Z分の火薬を持ってるじゃない?全部捌いて硝石2個購入したら」

「……2個で30gで交換」

「ほら、いい話でしょ」


 なるほど、と言った顔をして納得している。

 

 ぱっと思いついたものでも私が交換した火薬を駆使して次の硝石2個さえ手に入れば、私と交換して30gの入手。同じように10g分だけ売却し、硝石2個を購入してまた30g分を交換していけば20gずつ増えていく。

 どっちにしろ今の特需に乗って立ち回れば常にプラスになる。

 何なら交換した30gの内20g分を売却して同じように立ち回ったとしても10万と硝石2個、10gの火薬は手持ちに残る。

 ……こういう発想とかはすぐ出るんだけどなあ……裏取引みたいな感じなのがやっぱりいけないんだろうか?


「金は増えるし、火薬も増える、1g1万で売っても相場より安いから取引数は他より確実に多いわね」

「OK、OK、確かに良い話」

「理解してくれる奴は好きよ」


 紫煙で輪を作って正解という様に二重丸を作り出し、にぃっと笑う。


「それじゃあ、用意出来たら、また呼びなさい」

「同じように連絡?」


 そういう事、と一言発してから吸い切った煙草を吐き捨て、路地から先に出ていく。

 これで話に乗りそうなのが二人目。私との取引がどれくらい有用なのかを理解しているなら、いきなりどかっと取引する相手が増える事もないだろう。



『時間できましたよ』

『私のメインタンク共は良いタイミングで連絡してくれるわ』

『私以外にもいるって事ですか、ちょっとショックですね』

『今どこに?』

『ヴィエに戻った所ですが、エルスタンならそっちに行きますよ』

『……どこそれ』

『第四の街ですよ、ようやく突破できましてね』

『前線組メインタンク様は忙しいですねー……じゃあエルスタンの転移地点にいくわ』

『ではそちらで』


 やっぱ前線組のメインタンクは進行も早いな。私何て第三の街にすら辿り着いてないし、ゼイテより先なんて知らん。東エリアの山が最高到達地点だし、マップを横に広げる前に縦に進んだ距離の方が長いわ。


 とは言え転移なんてものの数秒で完了するわけで、私が転移地点に行くときにはとっくの昔に犬野郎が他のプレイヤーに囲まれている。有名プレイヤーってすげえな。


「もうちょっと地味な恰好すりゃいいんじゃないの?」


 メタリックブルーをベースに、金色で細かい装飾を付けた全身鎧に展開式のタワーシールドも同じ色と装飾。ひかりとか王者とかそういう名前がついている鎧と盾っぽいな。どういう素材で作ってるんだか。


「そんな深赤色のスーツを着てる貴女が言える事ですか」

「私は良いのよ、目立つために着てるんだから」


 あの犬野郎を囲んでいたプレイヤーが急に会話を始めた私の方を見つめてくる。

 深赤のパンツスーツに肩掛けコート、ドラゴニアンの特徴を見せつつ、四白眼のスーツよりも鮮やかな赤色の目でそいつらを眺めてから犬野郎を手招く。


「露店街の方で話すわよ」

「相変わらずですね、本当に」


 有象無象を引き剥がしてさっき取引した所と違う露店街の路地に。

 今回話すのは同盟締結についてだが、いい話を出来ればいいんだがな、


「それで、私に何の用で?」

「ま、あんたなら話してもいいかもしれんな」


 話が長くなりそうなので煙草よりも長持ちする葉巻に火を付け、煙を楽しみ始めながらクラン設立と同盟を組む事、その理由についてもざっくりと話す。

 あらかた話を終えると「ふむ」と一言漏らして腕を組んで考え込み始める。まあ、犬野郎にとっちゃ組もうが組まないがどっちでも変わらないと言えば変わらないのだろうけどな。


「成程……相当厄介な事に首を突っ込んでませんか?」

「散々やられた後に思いっきり上から見下すのって快感じゃない」

「いい性格してますよ」


 言うほど否定はしてこないのは意外だったな、何だ変な所で私の事を買ってるのか。


「で、同盟とかはどーよ」

「いいですよ」


 そうしてメニューを開き、やり取りしていると路地外から此方を見ているプレイヤーが一人。何となくだが嫌な予感と囲い込みをした方が良い気がしたので睨むように見つめつつ、近寄ってから路地に手招きする。

 案外素直に応じるあたり、ちゃんとしているプレイヤーだろうか。


「なんか用?」

「えっと、いやー、ちょっと配信してた時に、見つけて……」

「おや……アカメさん以外のガンナーですよ」


 ちらりと装備している拳銃と防具を見て初心者か、ネタプレイヤーだろうと判断する。じゃなきゃこんな苦行は長続きしない。


「あの、いや、すいませんすいません!」

「良いわよ、別に配信されても困る事ないし、なんなら私の事を有名にしてほしいくらいだわ」


 ベルトから銃弾20発を抜いてアイテムデータを渡す。

 渡された相手はというと急に渡されたと言うのもあってぽかんとした顔でこっちを眺めている。もうちょっとしゃきっとした顔で配信するもんじゃないの?


「え、いや、これって……」

「もしガンナーを諦めないんだったらその拳銃を使いながら格闘で戦闘しなさい」

「あー、っと、それはどういう意味で」

「あんたが有名になると言う事に対する賭けよ」

「面白いですね……では、私もそれに一口」

「ガウェインは良いのよ」

「同盟組んだ仲じゃないですか」

「あの、もう、行っても?」

「悪かったわね、配信止めて。じゃあガウェイン、私もそろそろ行くわ」

「何かあればコールを」


 その返事をしてから配信していたプレイヤーと犬野郎と別れ、露店の方へと戻る。

 

 これで私の持っている銃弾はもうないわけだし、本腰入れて商売を進めようか。

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