137話 取引するヨー、健全ヨー
「硝石1個で黒色火薬10g、ですよね?」
「そーよー」
通話を済ませて、待ち合わせまでやったうえでこの会話をしている。
場所としては露店街の近く、一度包囲されている露店をいったん閉じて、交換用の火薬を回収してからまた位置をずらして同じように設営したうえでの取引をしている。
「2個いっぺんに交換するなら30gと交換してもいいわ」
そう言いながら手頃に設置されているベンチに座って煙草で一服。もっと出すならもっとくれてやってもいい。
「3個なら60gで交換ね」
「……嘘でしょ?」
「条件は硝石を出す事、それと合わせて、この話を広めるって事で良いわ」
「こっちはいいけど、どういうメリットか訳分からん」
「んー……今の硝石ブームに乗っかるのもあるけど、名前を売りたいのよ」
「それでそんな交換レートって……いや、ちょっとまて、あんた交換しても問題ないくらい火薬持ってるのか」
「初回限定で4個なら60gと合わせて火薬に使える有用スキルの情報も教えていいわ」
「ちょっと、聞いてます?」
「聞いてるわよ?まずは商品説明してるだけなんだから」
煙草をまた一吹かししながら落ち着けと言う様に一服してる様を見せつける。
「で、どーする?何個交換しちゃうわけ?」
「する予定ですけど……だったら3個集めてくるかなあ……」
「一度にたくさん交換した方がお得だヨー、初回の4個はおまけだヨー」
「急に胡散臭い!」
「どーするヨー、お客さん早くしないと、ワタシいっちゃうヨー」
口元で煙草をぴこぴこと上下に揺らしながらどうするかを待ち続ける。と言うかどうするんだよ、マジで。
早く決めてくれないと私の待ち合わせ時間もあるって言うのに。
「もう少し数揃えてきます」
「賢明な判断だわ」
ふいーっと煙草の煙を吐き出し、ぷっと煙草を吐き捨てて立ち上がる。交換できなかったが、良い宣伝には十分なっただろう。これで口コミとかで広がればいいんだけど、どうかな。
「あー、ただあんまり、変な風に広めるんじゃないわよ、結構目の敵にされるから」
「今日中には持ってきますから!」
ばたばたと走り去っていく交換しようとしていたプレイヤーを見送ってから、若干がっかり感を吐き出す。うーん、いきなり複数個の交換の条件を出すのは失敗だったか。
さくっと1個での交換を考えて私に接触してきた訳だから、素直にそれで交換してやればよかったか。でもまあ、向こうにとっちゃ別に悪い条件じゃないし、ぜんぜんいいよね。
「3個で60出しても30残るから結果プラスだし、向こうは2個10ってのを考えりゃ、よっぽどいい取引だよねー、我ながら天才的な発想」
まあ、今の所まだ軌道に乗っていないから成功している発想と言う訳ではないんだが。それでも今回の様に一人釣れたわけだし、なんならトレード画面で火薬見せても良かったな。
そういえば例のボマースキルを硝石4個の交換で付けたわけだが。
まず職業レベルに関係ないスキルって事を考えると、スキル2枠と同じような誰でも取得できる物だと予想できる。で、その次に、ボマー自体の取得方法だが、使用回数って訳じゃなくて爆薬の総量が取得のキーになっていると思う。
今まで通算で使ってきた爆薬量だが、キングサハギンの撃破時に大体200gを超えたくらいのはずなので、多分そこがボーダーになっていると思う。
こういうアンロック数値が見れないってのと、一旦条件を満たしたら見返すことが出来ないってのは結構手間だわ。多分運営的には手探り感を楽しんでもらいたいって事なんだろうけど、見つけた本人からしたらそこそこの不便さを感じる。
「この辺の検証は誰かがいないと出来ないからなあ……まあ何にせよ、やっと捕まえたんだからしっかり取引は成立させておきたい」
あの感じで言えばさっきのプレイヤーに関しては普通に3か4個の硝石をもってやってくるはずだ。うまい事行けばだが、最近はついてるし、多分うまくいく。こういうのは何事も前向きに捉えておく方が良いと思う。
何でもかんでも後ろ向きに考えていたらその方向に行くかもしれないからな。よく言われるコップに半分の水が入っていて、もう半分なのか、まだ半分なのかって話。
「で、何やってんですか」
「取引先延ばしにされたから前向きに物事を考えていたところ」
「相変わらずですね、アカメさん」
「会うなら会うで連絡するって言ったのにどうしたのよ」
「家財道具を探しに来たらたまたま見かけたので」
木工系は趣味色が強くてあまり手を出しているのがいないんだよなあ……木工製品って戦闘力に直結するものが武器や序盤で使う木製防具が多いから、レベルが上がっていくと需要がどんどんと先細りしていくイメージが強いな。
かといって逆に木工をやってないと調度品とか家具とかは揃わないってイメージ。あと裁縫とかの布系のアイテムの複合とかも多いと思う。
「露店じゃ木材しか売ってないだろう」
「そこなんですよ……せっかく買ったなら拘ろうと思ったんですけどね」
「で、あんたのクランって同盟枠残ってるの?」
「ええ、勿論。イベントの縁で組んだ所からですからね、同盟組むような程じゃないですし」
「じゃ、私の所が最初ね」
「そうなりますけど、本当にうちでいいんですか?」
「何だかんだで結構な人数いるでしょ」
「それでも70人くらいですよ」
「全然多いじゃないの」
まったくと言いながらメニューからクランの項目を開いて同盟を組む申請をチェルに飛ばす。何かしらメリットのある要素があるわけではないが『うちのクランはあそこのクランと対等だ』ってアピールできればそれで良し。
「ん、完了です」
「相変わらずいいタイミングであんたは私の所来てくれるわ」
「……そうですか?」
「そーなのよ」
わしゃわしゃと頭を撫でまわすと、うめき声を漏らして反応してくる。魔法とこう言うのに弱いくせによくタンクが務まるもんだな。
「じゃー、私の用事も終わったし、自宅に戻るかな」
「そういえばクランハウスも作るんですか?」
「宣伝用にでかい所欲しいけど、現状じゃ自宅で問題ないのよね」
「そんなにいい自宅なんですか」
「暇なら見る?」
「じゃあ、お言葉に甘えて」
そういうわけで例のプレイヤーから連絡が来るまでの間、自宅で硝石の出来具合やら酒関係の仕入れをしつつ、チェルの奴を案内するとしよう。
「……クランハウス建てれる金あるじゃないですか!」
「まあ言われてみれば200万くらいは突っ込んでるわね」
庭付き地下室2Fで125万L畑20面と小屋一つで21万、施設がその都度5万くらいで25万、総額171万Z也。
「所持金は3万くらいしかないけどな」
「僕も自宅買って畑で金策しようかな……」
「成果出すのが大変よ」
「何だ、客人か」
自宅の扉を開けて出てくる髭親父が物珍しそうな顔で此方を見ている。付き合いの悪い私にしちゃ珍しいフレンドだし、自宅まで入れる奴なんてそうそういないって分かってるか。
「うちのメインタンク2号」
「1号がいるんですか!」
「騒がしい奴だな……どこで拾ってきたんだこいつ」
「何でアカメさんみたいなのが二人もいるんですか!」
「イベントで泣き喚いたのを拾った所かしらね……一応同盟先のクランマスターなんだから」
「おっと……それは失礼な事をしたな、こっちのクランマスターは礼儀を知らんからのう」
「人の事言えんのかよ」
そうしてしばらく3人で他愛もない話をしつつ、さっきのプレイヤーから連絡があるまでは自宅の庭で立ち話でそこそこ盛り上がる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます