125話 札束でぶん殴る

 ゼイテの街のまま、一旦自宅に戻って考える。

 あの口の悪い猫耳団子に聞いた限りでは樽の質を3以上にすれば水圧に耐えられる物が出来るという。若干んの眉唾の情報ではあるが、あそこまで大見得切って言っているわけだしな。

 一応木工的にもプライドがあるみたいだし、嘘とかは言わないだろう。そこは信用できる。


 どうでもいいような相手なら適当にあしらい、さらに合わせて雑な情報だったり説明をしてサクッと終らせる。

 ただ、本気で知りたいとかやってみると言うのであればまた別の話になる。

 そういう本気の奴に適当に返すほど私も落ちぶれてはいない、もしもガンナーを私の様にガチでやりたいっていうなら何でも教えてやる気持ちはある。……そんな奴がいればの話になるんだが。


「で、それはそれとして樽をどうするかって所よね」


 酒造するにあたって単純に調べたら樽ってだけで密閉容器なのであれば問題ないんじゃないか?手頃な密閉できる容器があれば酒造って出来るんじゃないのか?

 問題はその密閉容器って話になるんだが。 


「木製品じゃないって言えば一斗缶とかドラム缶の金属系か、そもそも溶接とかできんのかね」


 試してないから何とも言えない要素その1、鉄パイプですら底を潰すって苦肉の策で切り抜けたわけだし、出来る要素とイメージが全く沸かない。

 鉄板を筒状にして、上下を蓋をするってだけの構造ってのは分かる、でもその筒にする時とか蓋をするとかどうすんだって話になる。

 加工しやすいレベルの薄い鉄板を割らずにそれぞれを繋げる。

 難易度を想像するだけで頭痛くなるわ、もう。


「やっぱ金属加工ってハードル高いわ、近代技術である銃器を使っている私が言うもんでもないけどさ」


 まあ、その銃弾がないからただの鉄筒の状態になってる場合が多いんだけどなー。

 それももうちょっとしたら解消されるし、その鉄筒から銃身として意味のある様にするためにも、樽と酒なんだし。


「何より、現実じゃ出来ない酒造をして売っても捕まらないってのがいいわよね、ゲーム最高」


 アルコールさえ作れればいいとは最初思っていたが、作るんなら味にもこだわってみたいのが性分なんだからしょうがないね。それに忘れていると思うけど、私って一応料理スキルも持っている料理人だからね。


「で、まあ樽かあ……作り方が甘いから精度を上げる、材料を良くする、とかだけど……うーん、どうすりゃいいかな。オーク材があれば一応現実と同じように作れるはずだし」


 予めメモしておいたデータを確認しながら一唸り。

 雑木よりもいい材料使えばそれだけで質が上がるし、多分一番楽なのはこれだ。

 もう面倒くさいから木工ギルドで材料直買いでいいや、プレイヤーズショップ……てか露店に行ったら木材くらい売ってるだろ。


「まあ、結局金なのよね」


 自宅からゼイテに戻り、一旦ショップでジャガイモ200個売却、10,000Z也。

 で、すぐさまエルスタンに戻ってから、先にジャガイモ苗50個また購入、4,000Zも残っていれば雑木よりいい木材くらいは買えるだろう。

 雑木で角材1本、角材1本で板材5本。板材5本で丸材2枚。

 つまり丸材2枚は角材1本だからとりあえず名前付きの木材10本を購入出来れば足りるだろ。


「頭の悪い計算してるわー」


 こういう計算するのほんと苦手、金庫の金数えるのは好きだけど。

 とりあえず露店の品揃えを確認しながら髭親父に連絡を入れる。

 

『あー、いる?』

『なんだ?』

『樽問題が解決しそうだから、例のブツを作ろうと思うのよね』

『ほお……では儂もそっちに戻るか、ゼイテか?』

『いや、エルスタン、露店ってこっちほうが品揃えあるから』

『わかった、そっちに行く』

『着いたら教えて、私の自宅に入れるわ』


 これで樽が完成すれば、仕込んで終わりだな。

 うむ、終わりが見えてきたぞ。


 さくっと露店を回り、たまたま見つけた雑多に色んなものをぶち込んでいた露店を発見する。たまにいるのよね、とにかく手に入れた不用品の使わないアイテムを露店に並べて掃けるのを待つタイプの奴。ただまあ、オーク材がご都合主義的に手に入る訳もないので、ネーム付きの木材を選ぶ。

 そういうわけで手に入れたのは杉、10本1,000Zで投げ売りにも程がある。

 

 合わせて露店で鉄延べ棒も購入、やっぱベースが安いだけあって1本100Z。これも20本購入しておく。

 で、残額1,000Z。あっという間に金がなくなるけど、金の力ってすげーわ、すぐそろったもん。


『着いたぞ』

『転移地点で待ってて、今行く』


 連絡を貰ったのでさっさと露店から引きあげて、合流。

 

 自宅への招待だが、フレンド登録したうえで許可をしないと転移許可が下りない。

 そういう訳で合流し、自宅への転移許可をフレンドリストから髭親父に許可をする。


「いいわ、転移地点増えた?」

「うむ、大丈夫なようだ」

「じゃあ先行ってるから」


 で、さくさくっと自宅に戻ってからすぐさま杉を加工して、角材、板材、丸材へと加工。

 この辺の動作とかに関しては一度やってるし、レシピもあるから材料選択でサクッと作りこむだけだ。



名称:角材(杉)

詳細:製材した木材


名称:板材(杉)

詳細:角材をさらに加工し、板にしたもの


名称:丸材(杉)

詳細:板材を束ねて円形にした板材



 ひっくるめて同じような物、と言う事にはならない辺りは親切。

 で、あれこれと樽の材料を準備していたら、自宅の前に髭親父がやってきて、私の手元を見始める。さくさくと作っている様子を見て「ほう」と感嘆の声を漏らすのだが、私、そういうのを聞くの好きよ。


 板材の準備は完了したので、次に留金。

 前回は針金を使ったが、今回はしっかり金属輪を作ってがっちりと固定しよう。今回は流石に本気度が違う「これで完成させる」その気持ちってかなり重要だよ。


 鉄延べ棒4本を加工して留金として使える物を4本作製、金属製のフラフープみたいなもんよ。

 何だかんだで鍛冶のレベルもそろそろ10になるし、結構高くなってきてるのよね。下手なレシピとか簡単な物だったらサクサクっと作れるようになったけど、成長しているわ、私。

  

「上手なもんだな」

「もっと褒めてくれても構わないわよ」


 で、材料は全部用意できたので、あの猫耳団子からもらったレシピを確認したうえで準備する。



レシピ名:洋樽

詳細:板材×30 丸材×2 留め具×(X)

  :用途は人次第、主に酒造

 


 後は材料の選択をしたうえで作成する。

 レシピ判明している物なので、余計な動作が入ったりもせず、すぐさま「ドン」っと樽が出来上がる。

 ああ、やっぱりゲーム処理って最高!



名称:洋樽(質4)

詳細:醸造や酒造に使われる樽 赤い配管工倒すための物ではない



 出来上がった樽を二人で見つめつつ、私は頷く。いい出来だってね。

 一応だけど水を汲み、入れて一杯になった所でごんごんと軽く叩いたりしながら確認する。

 おー、すげえな、あいつの言う通り水漏れとか一切しないわ。完璧だよ完璧、やっぱり私って天才だったわ。


「よし、樽は出来たわ、とりあえず地下室に持っていくから付いてきて」

「見事な物だな」

「でしょ」


 インベントリに水入りの樽を仕舞い、二人で地下室に向かって、また水入り樽を地下室の片隅に設置する。材料に余裕があればもう少し大量生産できたのだが、実験の意味合いが強いので、とりあえずはこれでいいだろう。


「じゃ、こっからはあんたの仕事ね」

「任された」


 とは言え、分量とかは二人ともさっぱりなのでネットで拾ってきた作り方を参考にしているだけだ。

 手順としては、まず麹と酵母と水での一次仕込み、その後、主原料(芋、麦、米)を加えてもろみを造る、二次仕込み

 そして、できたもろみを蒸留器に入れ、高温の蒸気を当てて沸騰させ、アルコールを含んだ蒸気を冷却する「蒸留」作業。


 私が重要な所は一番最後の所で、蒸留を繰り返してアルコール濃度を高めていくと言う事だ。髭親父に関してはその前までが重要になる。


「基本、待つのよね、これって」

「そうだな、とりあえずある程度の許可をくれれば儂の方でやるが」

「ふむ……じゃあ地下室だけはとりあえず好きに使っていいように許可しておくわ」


 これの設定がまあ手間。自宅の配置換えとかできるメニューからフレンドのみ許可とか、全員に許可とか、個別に設定していくのって大変だわ。……まあ、私は天才なのですぐに出来るけど。


「よしっと……地下室だけ許可したから、好きに来て、様子見て頂戴」

「うむ、助かる」

「これで酒造の軌道が乗るようだったら樽増やしてやってもいいわね」

「日本酒に焼酎、ウイスキー、ワイン、酒飲みには理想の環境だ」

「葡萄とか米までは栽培する予定ないからね」

「分かってる。材料はこっちで、場所と道具はそっちで」

「いい取引ね」


 仕込みの始まった樽の上部をごつんと叩いてにぃっと笑う。

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