124話 原因究明

 おしゃべり忍者からの連絡があり、ゼイテ集合となった。

 それにしてもやっぱりフレンドの繋がりってこの手のゲームだと重要だよな。

 もし、そういう事をしないって言うのならいちいちログアウトしてデータ確認してHMDに入れてこっちで検証と確認して……ああ、めんどくさい。


「PCとコンシューマーを同時起動してデュアルモニタとかでやりながら更新とかも出来ないからなあ、ログインログアウトの手間とHMDからのデータ抜き出しとか、めんどくさっ」


 自分でやろうとは思わない、誰かやってくれるんだろうって思考。

 その昔、そのゲームデータを集めて編集するって行為の為にゲームするって言うのを一度経験したこともある。あれは苦痛だった、何よりもゲームとして楽しむよりも仕事というように感じた上に、達成感が無い。

 英語圏のゲームの翻訳とかも趣味でやったこともあったけど、あれも労力に見合わない。


 閑話休題。


「えっと、身長の低いお団子頭の猫耳って聞いたけど、属性盛りすぎじゃないの、こいつ」


 おしゃべり忍者から聞いた、木工プレイヤーの話を思い出しながら煙草を咥え、ベンチに座る。

 この時間を有効活用するために一度自宅に戻って水撒きの一つや二つしておこうかと思ったが約束した時間に遅れるのは悪い。そもそもこっちからお願いしているんだから、こっちが遅れてくるとかただの阿保か礼儀知らずだ。

 

「どっちにしろ、待つしかないのよねえ……自前でどうこうするって言ってた割に結局人脈使ってるのはどうなのかしらね」


 深く吸い込んだ煙草の紫煙をふーっと吐き出し辺りを煙たくさせる。何度も言うが、別に健康被害がでるとかどうとかバッドステータス的な物はない。銃使いと言えば煙草だろってだけのRPだ。

 急に何でこの話を繰り返したのかというと私の目の前に不機嫌そうな顔でその低身長の猫耳お団子頭がいるからって話になる。前にもこんなような事あったきがするわ。


「あのクソ忍者に紹介されたのはてめえか」

「そーよ、あのおしゃべり忍者のツテであんたの事を紹介してもらったのよ」


 ビジュアルに比べて随分口の悪い奴だな、こういう職人気質なのはリアルで知ってはいるのだが、RPなのか素なのかは分からんところが問題になる。


「俺様をこんな所に呼び出してまで何を知りてえんだよ」

「そうねぇ……あんたが木工をやってるからだけど、私が欲しいのは樽の製法よ」

「樽だぁ?んだよ、板材並べて作るだけの超絶簡単レシピだろ?」

「どのサイズで物を言ってんのよ、私が作るのは酒造用の樽に決まってんでしょ」

「ほぉ、多少は物が分かってる奴じゃねえか……どうせ水でも入れて壊れたクチだろてめえ!」


 よくわかってんじゃねえか、その通りでぐうの音もでねえよ。

 私の事を指さしてげらげらと笑っている。


「腹立つわー……これで腕が良くなかったらあのおしゃべり忍者締め上げてやんのに」

「あっはっは!俺様はそんな樽余裕で作れるからな!」

「いや、ちょっとまて、何で普通作った酒造用の樽が壊れるの知ってんだ」


 そうだよ、基本的にあれを作って試してみないと分からん。何が原因かは分からないからそれを聞ければいいのだが……その前にこの口の悪い奴にちょっとは反撃しないと私のプライドと言うか、やられっぱなしというのが性に合わん。


「そうだよ、レシピ無しでも形になるのに、水を入れて壊れるなんてやってないと分からんだろ」

「えっ、いや、それは、木工でもない奴が作ったらそうなるって知ってるだけで」

「いいや、違うね、自分で試して、完成していい気になったら壊れて水浸しになったろ!」

「うっ……ぐぅ……み、見てきたような事を……!」

「木工でもない私がそこまで樽を完成させてるのに、木工メインがそんなことあったらざまぁねえよ」


 顔を赤くし頬っぺた膨らませた状態になってぷるぷると震え始める。あー、そういえばどこぞのガサツエルフがこんな感じになって泣いていたな。


「お、俺様に文句言うなら樽の事、教えてやらねえから!」

「文句じゃなくて事実じゃないの」

「んあー、うっせー!」


 なんだろう、一周回ってこいつの事好きになって来たわ。まあ普通の人からしたらすげえ腹立つ奴なんだろうけど、あいにく私はこういう捻くれたような奴の方が好きだ。


「で、その爆発しない樽ってどういう原理なのよ」

「くそ、てめ、覚えてろ……」


 目元をぐしぐし拭いてたら完全に敗北宣言だぞ、お団子。


「クソ忍者に、紹介されたから教えるけどよぉ……い、今の話ばらすんじゃねえぞ!」

「分かった分かった……で、何で水を入れる壊れるわけ」

「水漏れはしたのかよ」

「いやー?完璧、水入れて叩くまでは」

「今ここで作れんのか」

「無理ね、鉄鉱石の在庫ないし」


 アメリカンなポーズをとって、材料が無いよって感じに見せつける。


「そもそも木工だけで作れるんだよ、鍛冶が必要ないはずなのに何で使ってんだ」

「自力で作ったんだから当たり前でしょ、この格好見りゃ本職木工じゃないってわかんでしょ」


 黒のキャットスーツにコンバットブーツ、滑り止めのグローブに裾や袖口がボロボロになっているコートを見せつける。そろそろコートも新しいの頼むか。装備品は壊れないけど、コートは厳密にいえば装備じゃないからしょうがない。


「木工パーツだけで作るんだよ、止めるのは竹を編み込んだ物でな」

「木樽って奴か……洋樽はやっぱり難しいって事か……いや、とりあえず形は出来ているからとして」


 聞いた話を頭の中で整理しながら煙草で一服。洋でも和でもほぼ同じ構造だし、中身が洋酒か日本酒なだけだよな。つまり水圧で破裂する原因さえ特定できれば、留め具に使っている部分は竹だろうが金属だろうが関係ない、と言う事になるはずだ。


「良いわ、とりあえず水圧による破裂、その原因を教えて」

「破裂の原因だな、単純に作りが甘いんだよ」

「作りが甘い、ねえ」

「そう……作りだ、てめえの作りで言えば留金のハマり、中央部分の反り、蓋の作り……とにかく複数のパーツを使ってくみ上げるからズレがあれば最初は良くても破裂するんだ」

「質2でも駄目なのか」

「質2以下は確率で破裂するんだよ、破裂しないのが欲しいなら最低でも3以上じゃねえとな」


 なるほど、ここで質の問題が出てくるとは、確かに形にはなっているが材料は雑木だし、あまり良い物ではないな。そうなると質の上げ方、精度を上げたり、材料変えたりが良い所か。


「あのクソ忍者には世話になってるからな、樽のレシピは俺様の転移代と交換だ」

「しっかりしてるわね、ったく……」


 インベントリを開いてから転移代2,000Zと樽のレシピを交換する。


「おい」

「何よ?」

「片道代しかねえぞ」

「これ以上は出せないわよ、アイテム持ってないし」

「じゃあその銃弾一発寄越せ」

「やーよ、ただでさえ数少ないんだから……貸しにしておくからおしゃべり忍者からもらってよ」

「ちっ、厄介な奴と合わせてくれたもんだ」


 やっぱり面白いわ、こいつ。しばらく弄繰り回してやりたいところだけど、聞いた話を実際に試してみないと、これで樽さえできれば後はあの髭親父に酒造の方法と材料を貰えば達成だ。

 此処まで来るのに大分時間が掛かってしまったが、概ね予定通りだしな。


「ちなみにてめえ、何作る気だよ」

「そうねー……樽一杯に火薬突っ込んで樽爆弾でも作ろうと思ってね」

「ばっかじゃねえの!?」

「出来たら見せてやるわよ、猫耳団子」


 1樽くらい遊びで火薬詰め込んだ爆弾作るのも、いいね。

 一狩りいこうぜ、的な。

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