111話 八つ当たりは大事

 失敗する事は問題ない。そこから悪かったところを直して、作れば成功するわけよ。

 何事も一発で成功するって事はあるね、それでもやっぱり大抵の事は何度か試して確実になっていく。すべての物事に置いて、何も知らない所から自分で試してすぐに成功するってのはマジの天才だろうな。

 私は、そうだな……うん、天才だ。天才でも失敗するときはあるさ、だってこれゲームだからしょうがないよね。


「全然悔しくねえし」


 ぐっしょりと水に濡れた体、滴り落ちる水滴を眺めながら思い切りため息一つ。咥えていた煙草も濡れて使い物にならなくなったのでぷっと吐き捨てる。使用済みのアイテムはしばらくしたら消えていくので自宅でも外でもしっかり消えてくれるのでポイ捨てし放題だ。だとしても外見としてはあんまし良くないように見えるな。やめねえけど。


「全然悔しくねえし!」


 何で私がまた水に濡れているのかって話になるのだが2個目の樽を作って試しに蹴ってみたら1個目よりも派手に吹っ飛んだ。なんだ、私は爆弾でも作る才能でもあるのか?今まで散々爆破してきたから隠しステータスにでもボマーとかそういう特性が出たのかよ。


「ああ、くっそ……久々に苦戦してるわ……あの髭親父め、めんどくさいの知ってて手出さなかったんじゃないの?」


 びしょ濡れのコートを絞りながらまたため息一つ。うーん、どう言う所が問題なのかがいまいちはっきりしない。

 まず横の状態で叩いても問題なし、ついでに水漏れも無いし、板材自体も全て固定はちゃんとできている。出来てなかったら水漏れはするだろうし、ばらけるのは確かだ。蓋自体も吹っ飛ぶというか内側から水で圧が掛かるから口が小さくなっている両サイドの方にぴったりとはまり込む。

 じゃあ蓋の処理が悪い?でも水を入れたときに漏れたりはしないのでその線はない。


「うーん……じゃあ縦にした時に開けた穴が問題……ってわけでもないのか、だったらそこから水漏れしていくわけだし、そこは問題ない……縦にして叩いた時に爆ぜるから、水の入れすぎとか?」


 3個目の樽を作って水を入れずに、立てて様子見。結構がっちりしっかり作ってるけど、何がいけないんだろうな。今の所問題ないし、横穴やめて縦穴にしてみるのがいいかね。なんでもかんでも試してみないといけないから質が悪い気がする。


「……ああ、くそったれぇ!」


 もうこれに関しては八つ当たり。私だって此処まで来るのにフラストレーションの一つや二つ溜まっている。

 水の入っていない樽に向かってDボアを抜いて引き金を6回絞り上げて樽を撃ちぬく。勢いよく飛んでいく鉛弾がボンっと空洞になっている物に当たる音を6度させて、硝煙が辺りを舞う。

 シリンダーを横にずらし、薬莢をチャラチャラと落としてからインベントリから直接6発分の銃弾を装填しなおす。で、撃ちぬいた樽自体は問題なく穴の開いたのがそこに健在している。

 撃てているから当たり前だが、自宅エリアでは戦闘行為も可能で許可制になっている。私自体はこの自宅エリアの主なので最初から許可済み……だったことらしい。これに関しては後から気が付いて判明したことだったのでこうだが。

 今私が撃ち込んだ6発分に関しては完全にその場のノリとフラストレーションをぶつけ具合と言う、後先にも何にも考えていない行為になる。


「って言うか撃ってもバラバラにならないってなるとやっぱり水圧か?なんだったら今この撃ち込んだ瞬間に壊れてくれた方がまだ原因究明出来たわ」


 ブーツの先でがんと樽を蹴り上げても特に問題なし。なんだよ、やっぱ水を入れるから内部水圧とか重量とかが問題になるのか。

 

「もうわかんないわ!」




 無駄に耐久力のある樽をその場にして自宅エリアからエルスタンに戻る。

 こうなってきたら情報収集か木工ギルドでレシピを探るしかない。毎回毎回情報クランに行って情報仕入れるのもめんどくさいな。誰か専属で私の事付いてくれれば……。


「そういえば尾行させてたのもやめさせたから、もういないのよねぇ……あのまま泳がせておけば良かったか」


 インベントリから煙草を取り出し、生活火魔法で火を付けて一服。ことあるごとに煙草吸ってるけど、これ変な中毒性とかないわよね。

 

「鉄鉱石も無くなってきたし、これも集めに行くか……水銀取りに行くついでに鉄鉱石回収して、もっかい戻るか……金自体はジャガイモうっぱらったら問題なく手に入るし、とりあえずジャガイモとか作物売ってくるか」


 ジャガイモ50個で12,500Z也。元は1,000Z分のジャガイモ苗だからすげえ金銭効率じゃね?仮にあの50個分のジャガイモを収穫したら250個で全部うっぱらったら62,500Zよ?

 このゲームで一番金持ってるのって本当はファーマーだったりして。ああ、でも肥料とか細々した物を揃えていくと結果マイナスになる?畑も私はマネーパワーで一気に拡張していったからこうだけど、少しずつ畑を広くしていくってのがファーマーの課題なんだろうね。


「追加で苗50個買っておくとしても、うん、まあデスペナで全部吹っ飛んでいく金額圏内か」


 余計な買い物する前に必要な物を購入。後はさっさと鉄鉱石取りに行くか……あ、だったらついでにバケツ作って暗闇洞窟行ってロックラックとバット群生地の地面の土も回収しにいくか。

 こうなってくると気分転換にもなるし、流石に籠って生産ばっかりするのも疲れる。もしかしたら何かの拍子に良い感じのアイディアとかひらめきが出てくるかもしれないしな。


「そうと決まればバケツ作って……土を掘り起こせるものを作っていかないとだめなのか……鉄板に棒付けてシャベルとか作るかね」


 そういえばシャベルとショベルとスコップとか地域ごとに色々言い方が変わるらしいな。鍛冶で剣先スコップとか軍用スコップ作っておくのもありだな。

 残った鉄鉱石でちょっと試してダメだったら手だな。最悪ナイフで掘り返して柔くしてから手でバケツにいれよう。


「結局何かやるために何かの道具を作ってるのよねえ……」


 さらに追加でバケツを2個作って、剣先スコップを鉄鉱石と角材で作る。まあスコップとかシャベルとかショベルとか冬場に死ぬほど使ってるから構造的にはアホみたいに知ってるわけだから、さくっと作れる。


名称:剣先スコップ

詳細:北国必須の道具 武器としても強い


 こいつを毎時期見るたびにうんざいする。今年は雪が少なくて残念とかほざいてる奴は助走をつけてぶん殴ってやりたい。もうそりゃあ中指立てて豪雪の時に外でて雪かきしてみろと。


「これを見るたびに嫌な季節になったって思うわ」


 夏よりは冬の方が良いけど、寒いのも暑いのも嫌いだ。とは言え、土いじりするなら結局必要になるわけだけど、土用だけで使いたい。頼むから雪とか遭遇したくないからな。


「さーてと、鉄鉱石取りながら洞窟行って、ゼイテ行って水銀取りにいくか……行って戻ったらジャガイモも成長してるだろうし、あの髭親父に文句の一つや二つ付けて協力させてやらんと」


 まったく、何でもかんでも私にやらせおって、知ってるくせにあいつやってなかったのか?


「樽とかももうちょっと楽な方法さがさねえとなあ……」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る