70話 立て直し

 赤い光の輪を出しながら村の片隅にリスポンする。

 空模様とかはあまり変わらず、どちらかというとやばい状況だろうか。


「さすがに倒しきれないって事はないだろうけど」


 手ごろな家の壁に持たれつつ座ってため息を大きく吐き出す。失敗したなあ、あの40g爆弾の威力を見ておきたかったのに、まさかワンパンで死ぬとは思ってなかった。

 ログを見ると叩きつけで10ダメージ、落下ダメージで25ダメージ入ってるのでめでたくオーバーキルされている。


「やっぱレベリングかなあ、もうちょっとあげてもいいかもしれん」


 ガンナーの売りの一つでもある固定ダメージで感覚が麻痺してるのを改めて思い知る、そうだよ、よくよく考えればレベルの低さに対して高レートのダメージを出せているんだから無茶ができるわけだ。

 

『アカメさん、大丈夫ですか?』

『いえーい!げきはー!』


 騒がしい二人のPT会話が飛んでくる、どうやら無事倒せたみたいだ。あー、やっぱり吹っ飛ぶ時のスプラッタ的なシーンちょっと期待したのになあ。


『で、どんな威力だった?』

『最初に聞くところそこじゃないですよねぇ!』

『あれはちょっと引くビジュアルだったかなー』


 概ね予想していた通りの結果だが、やっぱり自分で見れなかったのはちょっと悔しいな。なんて言ったって最初に爆死した量よりも多くしてるわけだし。g/万の高級品よ、40万Z(ゼニー)分の高級爆弾だってのに見れなかったのが悔しい。正直なところボスが倒せなかったとかどうでもいい。


『あー、ボスよりも私の爆弾の威力の方が気がかりだったわぁ!』

『やっぱアカメちゃんおかしいよ』

『と、とりあえず上半身が吹っ飛んで、倒れたんで倒したと思います』

『……消えてないのが気になるからもうちょっと追撃……』

『は、したよー、やっぱり動かないし、燃やした方が良い?』

『アカメさんの残した松明はありますけど』

『よし、やれ』


 現時刻4日目0時、最終日前に全部片付いたのは早いのか遅いのか分からないが、クリアが早まった場合ってどうなるんだろうな。いや、もう一段階くらい何か残しててほしいが。に、してもまだ空模様が暗いのが気になる。


『燃やしたらとりあえず戻ってきな、まだイベント終わってないみたいだし』

『外ってまだ暗いんですか?』

『まあ、夜だけど……どんよりしてる雰囲気は変わらずね』

『村人はどうしたらいいかなー?』

『様子見て大丈夫なら出してもいいかしらねぇ、そこは任せるわ』


 二人でそれぞれの返事をしてから迎えに行く様に村の外に行く訳だが……様子がおかしい。他のプレイヤーがバタバタと騒いでいると言うか、動いていると言うか。

 

「ちょっと、何があったの?」

「え、ああ、イベント用の屋敷が見つかったんだが、そこにいた死霊モンスターが村に迫ってるんだよ」

「屋敷周りにいただけじゃないの、あれ」

「何だ、知ってるのか……なら話は早いな、確かにたむろしてたのが居たけど、急に村に来るようになったんだよ、弱いからいいけど」

「なるほどねぇ……そのうち巨大化したのが出てきたりして」

「いやいや、流石にないだろ!」


 はっはっはと笑っていると屋敷側の方でかなり大きい音が響く。さっき倒したであろう大ゾンビが特大ゾンビになって復活したのか?


《レイドボス 超魔タンク の戦闘が開始されました》

《勝利条件は超魔タンクの撃破、村への到達が敗北となります》


「おいおい、マジかよ……」

「ほらね?」


 しょうがないなあと言いながら話しかけたプレイヤーから離れて村の西側へと進んで行く。後ろで呼び止められた気がするが、特にこれ以上の話は出てこないだろうし、あの二人を迎えに行こう。


 村の西側に行き、邪魔にならない所に胡坐をかいて座る。すぐ撃てるようにパイプライフルを抱くようにしつつじっと待ち続ける。

 その間にも、どこにいたんだと思えるプレイヤーたちが臨時PTを組んだり、とにかく超魔タンクの所に行って戦闘を行い始める者とすぐに行動を移している。そりゃイベント失敗するっていうんだから本気になるよな。……そのまま座って待ち続ける事、30分。


「ひぃ、ひぃ……」

「あー、楽しかった!」


 二人が帰ってくる。中々にボロボロになっているのは話を聞いてみないと分からないな。とりあえず道中の話を聞いて今後の対応を考えよう。

 まず最初にボスに関して、私が投げたパイプ爆弾だが、内部から針金線が飛び出してくるわ、膨張破裂して辺り一面に肉塊が巻き散るわでとんでもないことになったらしい。その辺に関してはチェルシーからのクレームもあった。盾は針金と骨でボコボコになるわ、何かいろんなものが付くわで散々らしい。

 マイカの方に関しては爆風で結構な距離を吹っ飛んで、一番のダメージを貰ったとクレームを貰った。


「倒せたんだからいいでしょ」

「流石にあれ死ぬかと思ったなー」

「初見だったらまず死んでましたよぉ!」


 村人に関してだが、ボスを倒した後も変わらず、助けにきた二人を襲おうとしてきたのでそのままにして脱出をする事にしたのだが、そう決めて脱出する際にあのレイドボスが出てきたらしい。

 必死こいてチェルシーが盾でゾンビ共を吹っ飛ばしながらここまで無理やり走り続けて、逃げてきたと言うのが、このゲームのタンク型ってやっぱりかなり強い部類なんじゃないかな。


「で、あんたたち二人はあれ、倒しにいく?」


 唸り声を上げて両手を振り上げる20mくらいのゾンビがゆっくりと此方に歩いている。どこぞの白い悪魔と同じくらいの大きさかな、思っていたよりも小さいけど、全体的にフォルムが太いのでそれでバランスを取っているんだろう。


「僕は倒しに行きたいですね、何だかんだで順位も狙いそうですし」

「あたしも行きたいなあ、あたしは結構撃破で順位高いし」


 それで、アカメさんは?といった顔で二人が此方を見てくる。ええい、そんな顔をするな、分かってるって。


「ま、止めは刺せなくても最後までやるのが筋よね」


 胡坐をかいている所から立ち上がり、一息。それにしてもあのでかいゾンビに立ち向かっているのがもう居るのか、炎の柱が上がったり、かなり大きい打撃音がなっていたりと激しい戦闘音が響いている。

 そういえば総合順位も個人成績がうちのグループが多かったが、あれも何かしらの理由があるんだろうか?


「そういえばチェルとマイカって順位いくつなの?」

「僕は10位でしたよ、多分最初のフラグ踏んだのはあったかと」

「3日目で言えばあたし5位だったかなぁ、ひたすらモンスター倒してただけだけど」


 案外順位パーティーだな、私だけレベル低いわりにと言った所はあるが。


「うちのグループ自体が貢献度高いのもマイカみたいなのがいるわけ?」

「かなぁ、結構得物の取り合いとかになってたし」

「なのに全体順位が低いのはスタンドプレー中心だからって事か」

「どっちにしろ、あのでかいのを被害なしで倒せたら順位は行けるとは思いますけど」


 モンスターの討伐とイベントフラグを踏めるかどうか、最後のレイドボス戦で倒せるかどうかがこのイベントにおける順位なんだろう。幸か不幸かと言うか、確実に「幸」の方でイベントフラグを踏んで、ボス戦まで来たと言う訳だ。


「このゲームを始めて、最初で最後かもしれないわね、トッププレイヤーとして上位に食い込もうってのは」


 パイプライフルをいつもの様に持ち、あの超魔タンクとか言うやつに向かって歩き出す。

 ホラーだと思っていたら怪獣物になるとは思ってなかったよ。 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る