27話 木工と鍛冶
ひとしきり金敷やら炉やら鍛冶関係の道具を見て、そっとメニューを閉じる。もうちょっと良い物は高いし、鍛冶ハンマーがあるとは言え、金敷や個人用の炉とかその辺の道具も……ああ、やめやめ、考えるだけで頭が痛くなる。財布の中は常に0か少額のZ(ゼニー)しかないし、貯金する前にデスペナで吹っ飛ぶ。
「一応ログインしてくるのにはもうちょっと後だし、木工もどんなもんかやってみるかな」
何だかんだで鍛冶やら製錬している時間はリアルタイムじゃ一時間も経っていない程度なので、もうしばらく時間を潰してからあのクランに行こうと思ったのだが……。
「そういえば木材全部使い切ってたわ」
全部木炭にしようとしてゴミを大量生産してた事を思い出した。何だかんだで伐採もいい素材が手に入れば木炭の品質も上がるだろうし、銃自体も良い物が出来上がる……気がする。
「とりあえず大体のやる事は試しているし、これからどうするかって話でしかないのよね……」
唯一手を出していない木工をやるのもいいかもしれない。そうなるとさっさと伐採して練習用の木材を入手しつつ木炭の材料も確保するのが時間を潰すのはいいアイディアだ。
まあ別に約束しているわけでもないし、アクティブモンスターに絡まれない北エリア1で伐採してこようと思う。そういえば伐採もLv2もなってたし、前よりはさくさくと集められるだろう。
「あっ!という間に集まるようになったのはレベル上がったからよね」
ざっくりと雑木50本を集めてきた。そりゃあもうがんがんと薙ぎ倒しまくる。
それにしても最初の伐採の時、最後の最後でLv2になったが、最初からLv2になってからの伐採は初めてだった。何といっても1から2に上がっただけで大分伐採速度は上がっていた事が驚きというか、こんなにスムーズになって良い物かと思えた。ちゃんと効果見ないとだめだよね、スキルって。
スキル名:伐採 レベル:2
詳細:木を切れるようになる レベルが上がると採れる物が増え伐採速度上昇
予想通りというか、まあそうだよねっていうだけの説明だった。実感出来るほどの効果があるのって基本的にスキル2の物だと思う。銃剣はLv3くらいでやっと無茶な動きもできるようになったかなーってくらいだ。
「鋸一本で作れるもんなのかなって思ったけど……木工ならまあ大丈夫か」
火がいるとか製錬とか成形とか叩いて伸ばしたり加工したりしなくていい所は木工のいい点だ。ちょっとミスったら全部だめになるっていうリスクはあるが、何よりも材料が調達しやすいし、失敗したら燃やして木炭にでもなれば儲け物だよね。
そんなわけでメニューから自由製作、製作の方向性を決め木工の材料と道具を選択し、雑木を鋸でがしがしと削っていく。勿論ゲーム的な処理なので、時間も掛からず手間も掛からずさくっと完成する。ああ便利。
名称:何とも言えない木製品
詳細:説明されても理解できない造形の木工品 雑木製
「そりゃ、そうだろよ」
この作って結局無意味な物が出来上がる流れ、生産職Lv1の力量なんてこんなもんだよ。むしろ最初から何でも作れて成功するとか生産メインでやらなきゃ無理な話だ。大体、生産職というわけでもないのにとりあえず作る為に取得してる生産やら採取のスキルなんだし、この時点でハンデだというのは分かり切っている。
「もう9個くらい作ってみるか」
がしがしと鋸を動かし、よくわからないアートを作りまくる。ちなみに木工ギルドに行ってどうこうじゃないので思い切り道端で作っている。システム的に何か問題のある行為と言う訳でもないので「こんなところで作れるのかよ」って目では見られているわけだが。
「うーん…こうしてみると前衛アートとか現代アートってやっぱ理解できんな」
もしもこれが割れるような物だったら速攻で叩き割るくらいには自分でも理解できない造形をしている。多分思い切り叩きつけた所で多少欠ける位だろう。ついでに10個目を作った所で木工のレベルが一つ上がった。
スキル名:木工 レベル:2
詳細:木製品の加工が可能 レベルが上がると品質が良くなり作成可能物が増える
完全にテンプレに近い文章が書いてある。あまり面白みも無いというか、これ以上書く物が無いから、さくっと終らせました感のある手抜き文章は嫌いじゃない。
かといってガンナーの説明は流石にマジかって思ったのはあるけど。
「ほんと、このまま進んで行ったらガンスミスとかになれるんじゃないかな」
でも考えてみたら戦闘職から生産職への派生というのは聞いた事がない。比較的マッチョが多い鍛冶系は採掘するのに結構危険な場所があるので戦闘も出来ないと厳しいと言われている。だからといって派生先に戦闘系の職が出てくるというのは未確認だし、派生したところで?という話になる。まあこの辺はβ情報なので正式版ではどうなってるか分からないが。
「あのガサツエルフがSTR極っぽかったけど、生産はステータス関係ないって言われてるし、ありゃ趣味か」
生産に関係するのは原則的に経験と道具、専門スキルくらいでステータスは加味されない。最後にかかる補正としては自分の知識というのもある。だからステータス自体はがっつりと戦闘型とかタンク型にするのが主流で、大体がSDVの3種類を上げて耐えつつ確実に当てられる一撃を叩きこむ。存在自体あまり見かけないがVR特化の超絶タンク型も存在しているらしい。
「超タンク型って完全に攻撃かなぐり捨ててるけど、どうするんだろ……死なないから殴られ続けても構わず採掘するとかなのか、攻撃極のSAD型とかIR型と組むと相性良さげだけど」
ガサツエルフ、どれも該当しないくさいけど。
そんな事を考えていたら時間もそれなりになったし、また鍛冶クランに足を運ぶ。自分の家の様に受付にずかずかと入り、呼び鈴を連打する。
「何ですか……あ、サブマス泣かせた人」
「ガサツエルフいる?」
「ちゃんと名前あるんですけど、通じるのが悲しいですね」
あっちにいます、という様に指で示してくれる。今回は無駄足じゃなかった。
いると言われた方向に行けば普通に鍛冶をしているガサツエルフがいる。相変わらず美的センスは壊滅的に悪趣味だ。いや、むしろ芸術的なのか?やっぱり前衛とか現代アートって理解できないわ。
「出来た?」
「もうちょっと言いようあるんじゃないの!」
「ぐずったから頼んだんだし」
手頃な所に座って、はやくせえという様に目で送ってみる。またぐずって面倒な事がある前にさっさと引き渡してほしい。
「もう!じゃあ、これ500Zナイフ」
「えぇー……」
差し出されたナイフは確かに良い物だってのは分かるのだが、うん、なんていうかまあ……このセンスは付いていけない。まあごちゃごちゃと装飾が多いのはいいんだが、呪われてる武器とかによくある血管みたいなのがついてたり、髑髏がついていたりと私の趣味じゃない。
「この無駄装飾全部外せないの?ごついのは嫌いじゃないけどさあ……これに付けるんだし」
インベントリから銃剣が付いたままのM2ラビットを取り出し見せる。だから装飾が多かったりすると面倒だし、見る限り絶対重い。
「え、は、ナニコレ……銃って初めてみた……」
「だからごついのとか邪魔だし、重いのいらないのよ」
「じゅ、銃剣って存在してるの……?」
こっちの話は知ったこっちゃねえと、食い入るように銃剣を見つめている。インベントリから取りだした装備品等に関しては別に相手に渡しても装備もできず、盗んだりする事もできない。基本的にトレードが成立しないといけないので、その辺の対策はばっちり。持っている本人が許可すればアイテムのデータも閲覧できる。装備とかも関係ないので重さとかは感じるが普通に持つことは可能だ。
「こ、これ欲しい……」
「やらんわ!ナイフ作り直せ!」
受け取っていたナイフを叩きつけてウサ銃を奪い返す。結構大きい声を出していたのか他のプレイヤーが此方を見ている。今回はガサツエルフを泣かせていないぞ。
「もー…顧客のニーズに合わせて鍛冶しなさいって」
まったくと言いながらインベントリにウサ銃を仕舞う。って言うか銃の存在とかガンナーはデータ上存在してるんだから、鍛冶系総合ならガンスミスの存在くらいちょっとは考えていなかったんだろうか。
「それもっと見せてよぉ!」
ハラスメントブロックで見えない壁に遮られているガサツエルフが懇願の目で此方を見ている。これ一本しかないのにどうやって立ち回ればいいんだよ、そもそもなくなったらLv1魔法職の物理攻撃よりも弱いというのに。
「これ一本しかないんだから無理に決まってんでしょ!」
「じゃあ、作る、作るからぁ!」
「作れるんだったら苦労してないわよ!」
駄々っ子の相手をするように、無視してクランを出ていく。結局ナイフはあんなのだし、銃見せてとか欲しいとかむちゃくちゃだし、生産職は押しが強すぎる。かといって敵対すると横のつながりが大事な生産職じゃ噂はすぐに広がるし、あまり無茶苦茶な事もできない。
「毎回来るたび疲れるわ、ほんと……」
結局買わなかった生産ナイフの代わりにショップ売りナイフを買いに行く。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます