26話 鍛冶手伝い

「さて、と……クエストもとりあえずあらかた片付いたけど、どうしようか」


 いつものMREをむしゃつきながらメニューのクエスト項目を眺めてすっきりした画面を見て軽く満足。あれから採取スキルの入手で新たに発生した採取系のクエストも受け、片っ端から片付けてみた。時間はそれなりにかかったが、休みって最高。自分の気力が続く限りどうにかなるんだから、やるに決まってるよね。内容としては討伐クエスト3種、採取クエスト2種、おつかいクエスト5種を済ませておいた。


討伐クエスト

1:ラット 3匹

2:ラビット3匹

3:黒リス 3匹 


 北エリア1の相手をそれぞれ3匹ずつ片付けるだけのもの。流石にあそこの奴らに負ける程、弱い状態ではないのでさくっと倒しきった。なんなら全部片付けるまでにHP半分も減らなかった。やばい、凄い進歩してる。自分でもかなり感動している。


採取クエスト

1:薬草 5個納品

2:花類 5個納品


 こっちはこっちで討伐クエストをやっている最中にちょびちょびと採取していたらあっという間に達成できた。まあ簡単な物なので報酬自体もそんなに良くはないのだが。花類は基本的に効果がないもので、コスモスとかタンポポやら季節とかガン無視で生えている、多分染料とか作れるんじゃないかな、これ


 それで最後のおつかいクエストだが、文字通りクエストアイテムを運んで渡す、典型的なおつかいだった。何か特別な事も無く渡して、報酬をもらって終わり。もうちょっと何かあると思っていたが、チュートリアルみたいなもので、マップを覚えましょう、と言った感じではあった。


「まあ、結局収穫は無いんだけどね」


 クエスト報酬で手に入れたそこそこのZ(ゼニー)は、多分デスペナで吹っ飛ぶと思うのであぶく銭のようなもんだ。ガサツエルフに渡す分だけは先に渡しておいた方がいいかもしれない。

 レベルアップもしていないし、これだけやって全部で750Z(ゼニー)で内訳は討伐300Z、採取200Z、おつかい250Zだった。


「縄とナイフは一本ずつ補充して……銅と鉄の製錬試してみるか」


 この間、連れ込まれた鍛冶系総合クランだが、ギルドのデフォ生産施設よりも金掛けているのもあってか施設自体は充実しているし、経験者に聞きながらやった方が成功率とかも上がると思う。ついでに製錬しつつ、あのガサツエルフにナイフの件を一応聞いておく。こんな所で繋がってくるとは思わなかった。


「あのエルフ、ぐずると面倒なのが一回でわかるってなかなかだけど」


 そんなわけであっという間に辿り着いた例のクラン、名前くらい聞いておけばよかった。さっさと中に入って受付に。


「ガサツエルフいる?」

「あ、うちのサブマス泣かせた人!サブマスは今日はまだログインしてないっすねリアル夕方~深夜くらいにくるんすけど」

「じゃあくず鉄と銅鉱石の製錬させてほしーんだけど」

「遠慮ないっすね、あんた……でも駄目っす。クラン権限で許可下りないと使えないんで、そして俺にはその権限がないっす」

「鍛冶ギルド行くのめんどくせえなあ……」


 ここで作ってくれと言ってもいいのだが、それだと自前の経験値が上がらないので意味はない。結局製錬して加工して銃身を作ると言うのがレベルいくつになったら安定して出来るのが分からないのであくまで施設だけを使いたかった。


「とりあえず出直すわ」

「フレコ交換してねーんすか?」

「マニュアルでしか見た事ないわ、それ」


 そういいながらクランから出て鍛冶ギルドの方へと。高級な施設で品質の良い物作って経験ブーストしたかったのに、あっさりとその夢は崩れ去っていったよ。って言うか考えてみれば朝から晩までずっとログインしてあれこれやってる私が異常なのだが。

 フレコ、正式名称はフレンドコード。交換しておけばゲーム内メールやらコールで連絡がとり合えるというよくあるシステム。以前触れたハラスメントブロックもフレンド登録すれば常識の範囲内で解除される。どっちにしろソロとかPTお断りの職している私には縁が無さすぎるシステム。


「それにしてもこんなにいい立地の場所にクランハウスおったててる辺りは、かなり稼いでるんだろうな」


 鍛冶クランから出て数歩、ぱっと見える範囲で鍛冶ギルドがあるのに今気が付いた。そりゃあ切っても切れない関係なんだから、ギルドがある場所の反対側とかにクランハウス建てないよね。しかし立地が悪ければ悪いほど安くなるし、メリット自体はあるのだが。生産職は各ギルドに近い所にクランハウスを建てるのはメジャーらしいが、ソロなんで以下略。






「まあ近くて便利なのは、いいけどね」


 鍛冶ギルドに入り、誰でも使っていい炉と金敷の前に来る。インベントリからくず鉄をスクロールし、選択。炉に火が入りくず鉄が自動的に放り込まれて製錬され始める。うん、便利、こういう色々考えなきゃならん所が自動なのはゲームならではだよね。

 しばらく待っているとアナウンス音と共に炉にマーカーが付く。完成しましたという合図なのだろう、ユーザーフレンドリーだな、本当に。


名称:くず鉄の延べ棒(品質1)×4

詳細:製錬済みのくず鉄 鉄よりは品質は悪い


「ま、こんなもんよね……くず鉄とか銅鉱石に品質は関係ないから、多分レベル依存なんだろうけど、くず鉄はくず鉄だし、もっと施設とか方法を変えて不純物を飛ばせれば、純度の高い物を作れそうだけど」


 それじゃあと言いながら銅鉱石を炉に放り込んでまた同じような手順と時間を過ごす。しかし不純物を飛ばすための方法と施設ってそもそもこのT2Wに実装されているかどうかは分からないし、どう弄ればいいのかもわからないのでいつもの課題というわけだ。

 そんな事を思っていればあっという間に銅鉱石も製錬完了。死ぬほど時間かかるとかそういうのを覚悟していたが、そんな事がないのは良い事だよ。


名称:銅の延べ棒(品質1)×1

詳細:製錬済みの銅 安い柔い使いやすいの三拍子


 そんなわけであっさりと完成、失敗が無い代わりに品質が最低値になるみたい?まあ苦労して手に入れたものが失敗して全部消失ってよくあるけど、あれ結構テンション下がるのよね。金と時間をかけて集めたものが物の数秒で全部吹っ飛んでもう一回揃え直しってストレスの上がり方半端ないし。


「5個で1個製錬かあ、こうなってくると黒色火薬も個数が無いと作れないかもしれん」


 出来上がった延べ棒をまじまじと見つめながらちょっとした感動。まあリアルタイム一日半だからそんなに掛かってないけど。


「このまま鍛冶してみるかな?どうせトライアンドエラーで何回も試行するだろうし、レベル上げなきゃならないし」


 と、思ったが、急にどうやったら作れるんだろうか?レシピ自体は不明なので自由製作みたいな感じであれこれ設定したうえで作ると思うのだが。

 型を作って流し込んで、ではなく鉄の棒を先に作ってそれに細長くした鉄を隙間なく巻き付けて最後に棒を抜いて作る、というのが一応の火縄銃身の製法らしいが。流石にそこまでしなくてもいいんじゃないかと思う。リアル志向も悪くはないのだが、やりすぎると手間のかかる死にコンテンツになるのでそこらへんは考えているだろう。

 

「とりあえず一本作ってみるか」


 金敷の所でメニューをぽちぽちと押し材料と使う物を選択。くず鉄の延べ棒をとりあえず筒状にしてみる処理を選択しがんがんと叩く。もうこの辺の工程はさっくりゲーム的表現で完成する。


名称:変形した鉄

詳細:歪に変形した鉄の塊 成形しなおせば再利用可能


「ふーむ……いきなり上手く行くとは思ってなかったけど」


 何度か失敗してたらこれも駄目になるのだろうか、それとも品質がどんどん下がっていくのかは分からないが、とりあえずこの方法ではまだダメという事ははっきりした。さっさとレベル上げてまともな鍛冶が出来る様に……ならないと行けないのは分かってるので別に驚きもテンションが下がるわけもない。


「それでも鍛冶系は先が見えたのは確かだけど」


 あとはレベルを上げて鍛冶加工で筒状に出来れば銃身は完成するわけだ。

 そういえば銃床とずっと言ってるがあくまで銃身を支える部分として言ってるので詳しく言うと違うのだが、これも自分でわかればいいのであまり気にしない。 

 兎に角、大きい2パーツ中の1パーツが完成の目途がたったわけだし、あとは鍛冶のレベルを上げて、木材パーツを作って、硝石を手に入れて、火薬作って、弾丸作って、ゴールというわけだ。


「硝石のハードルだけ高いわ、やっぱり」


 自分で作った鉄の塊を見ながらため息交じりに。

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