第7話

「戦います。

 人族の誇りにかけて、大型肉食獣人は屈しません!」


 顔を真っ青にし、高熱に犯されたように全身を振るわせながらも、それでも高貴なる者の誇りで恐怖を押さえ込み、クラリスはキッパリと言い切った。


「よく言った、クラリス。

 それでこの儂の娘だ。

 だが、何の策も無くウェストミース公爵家と敵対するのは無謀だ。

 どうすればいいと思う?」


 クレア伯爵家当主コンラードは、クラリスの決意が嬉しかった。

 クラリスの気高い心を誇りにも思った。

 だが、クレア伯爵家の令嬢としては、それだけでは駄目なのだ。

 家を護るために、知恵も必要なのだ。

 誇りだけで突っ走り、家を潰すようでは愚者なのだ。


「留学生のゼノビアを利用します。

 ダルハウジー王家に所縁のある者なら、狼獣人族のはずです。

 ダルハウジー王国の直接介入は、我が国に不利になりかねませんが、分家が介入するのなら問題ないと思います。

 ウェストミース公爵家のボルガ卿は、ダルハウジー王国侵攻を目論んで私とタイガ殿の婚約を締結したはずです」


「よく考えたな。

 その通りだ。

 だが誇り高い決断ををしたクラリスに明かさねばならないことがある」


 コンラードは満面の笑みでクラリスの決断を喜びながら、急に表情を引き締め言葉の音容を改めて話し出した。


「何事でございますか」


「さっきゼノビア嬢の正体は分からないと言ったが、それは嘘だ。

 ゼノビア嬢はダルハウジー王家の第一王女ファラン殿下だ」


「何ですって⁈」


 クラリスは驚愕した。

 ゼノビア嬢の正体もそうだが、それを父が事前に知っていたことに驚愕したのだ。

 何故なら、事前に知っているという事は、謀略に父も加担しているという事だ。

 父がダルハウジー王家と内通している可能性すらあるのだ。

 驚くなと言う方が無理な話だ。


「クラリスが心配しているような、内通とは違う。

 ウィリアム国王陛下も御承知の上で、ダルハウジー王家と話しをつけて、ファラン殿下に留学してもらい、戦争回避の方法を探っていたのだ」


「それは、陛下もボルガ卿の暴発を恐れておられたのですね」


「そうだ。

 ウェストミース公爵家は代々功績ある名家だ。

 かけがえのない王家の剣であり盾でもある。

 少々の事は黙認するのが当然なのだが、ダルハウジー王国との戦争だけは駄目だ!

 トリエステ王国の存亡がかかる一大事なのだ」


 コンラードの言う通りだった。

 虎獣人族と狼獣人族では、個々の戦闘力では虎獣人族の方が上だろう。

 だが戦争のような集団戦なら、元々群れを作る狼獣人族の方が強いだろう。

 しかもタイガとファラン殿下の戦闘を見れば、青虎獣人と金狼獣人の個人戦闘でも金狼獣人の方が強いのだろう。


 だが問題は、それがどうクレア伯爵家と繋がるかだ。

 それがクラリスには分からなかった。

 

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