【書籍ver】ルクトニア領繚乱記 猫かぶり殿下は護衛の少女を溺愛中
さくら青嵐/角川ビーンズ文庫
プロローグ 金の髪のアリーと、漆黒のオリバー
金の長い
その
「
金髪の少女はちらりと背後に視線を送り、栗茶の髪をした少女を
「ローラ!」
金髪の少女が足を止め、地面に
「私はもういいから。アリーだけ
呼吸の合間にローラは
「そんなこと、できるわけないでしょ」
そう言って彼女の
小さく舌打ちし、アリーがローラの
「ほうら、追いついたぞ」
男の声と、複数の足音がした。ローラが
「あんまり
「
真ん中の男が
「
「あんたが貸してんじゃないでしょうよ。バルコンのアホ親父が、でしょ?」
アリーは男達と間合いを取りながら、ローラをしっかりと左腕で
「証文を見たわ。字が読めないと思って
アリーの言葉を、男達は
「
男達は
「ちょっと遊んでも
どっと男達が笑う。ローラは肩を震わせて泣き出し、アリーが
男達は顎を上げ、にやけた顔で間合いを
途端に。
「相手を探しているんなら、丁度良い」
低い声が『上』からした。
夜空から、人が、降ってきた。
剣を逆手に持ち、
「僕が相手をしようじゃないか」
「『
男の一人が悲鳴を上げる。名前を聞いた途端、
そして、その少年が常に付き従っているのが、金髪の少女。
「あんたが、『金髪のアリー』か」
一人取り残された男は
傭兵くずれの自分達が
男はあっけなく悲鳴を上げると、その
「大丈夫か!?」
逃げた男達に代わり、大通りから近づいて来たのは自警団だ。
オリバーは剣をおさめながら、彼らに向かって「こっちだ」と手を振る。その後、ちらりとローラとアリーに目を向けた。
「いい? 明日の朝になったら、お父さんと
アリーがローラに言い
「証文を持って行けばいいわ。私がマッケイ弁護士に話を通しているから大丈夫。お父さんは違法な金利でお金を返済している。計算上では、もう元金は払い終わっているの」
ローラは意味がよくわからないという顔をしたが、とにかく頷いて、「行く」と答えた。アリーは
「捻挫しているの。お願いね」
柳眉を寄せてそう言うと、自警団の一人がローラを背負って父親の
「またな、アリーとオリバー」
自警団の男達は口々に二人に
「まさか、上から降ってくるとはな」
「二人を見失ったから……、上から。そこの宿屋のテラスから
ため息交じりにオリバーが言うが、こちらも先ほどまでの声ではない。随分と
「そしたら、丁度アル達が真下にいるんだもん。階段使うより、飛び降りちゃえ、と思って」
その言葉にアリーが「お前らしい」と腹を抱えて笑う。
「笑い事じゃないわよ。もう、いい加減、危ないことは
オリバーは
「理解しているよ。おれは次期ルクトニア領領主であり、前王ユリウスの
そう返すアリーに、オリバーはわざとらしくため息をついてみせる。
───理解しているんなら、ちゃんとしてよ。
投げつけたい言葉を飲み込み、オリバーはじろりと
本人が言うとおり、彼はこの海港都市ルクトニア領主のたった一人の息子だ。
『
本来は次期国王となるはずだったが、ユリウスが二十代前半で
「
腕を組み、佩刀の柄に
「ない」
ぶっきらぼうに答える。
そしてオリバーことオリビアは、彼の護衛騎士だ。今は女装したアルフレッドを守るため、男装しているが、彼よりひとつ年下の少女だった。ユリウスの腹心であり、忠臣と名高いウィリアム・スターライン
二人は並んで大通りを、中心街に向かって進む。アルフレッドはご
不意に、ぴゅい、と口笛が聞こえた。
そろって顔を向けると、赤ら顔の男達がこちらを見ている。足元がおぼつかない。大分
「美人さん。あんた、一晩いくらだ」
男の一人が大声でアルフレッドにそう言う。
「悪いわね。あたしは、彼の物だから」
アルフレッドは口角を上げて応じ、オリビアの
「またね」
背を向けて歩き出そうとする
───これが『
オリビアは屋台や居酒屋が上げる
頭脳
だが、その
ところが、この男。
大人の前になると、『ルクトニア領の次期領主』をそつなく演じる。
そんな、二面性を持つアルフレッドが。
『外に出てみないか』
そうオリビアに提案したのは、一年前だ。
領主館に出仕したオリビアは、この日もいつもどおりアルフレッドの剣術の相手をしていた。
『外って?』
オリビアは額に浮かぶ
『お前、「
オリビアは首を横に
『行ってみよう』
アルフレッドの提案にオリビアは
『なんか危険な大人がいっぱいいるところだよ!? そんなところに行ってどうすんのよ!』
『ルクトニアは父上が治めている立派な領だ』
むっとしたように口をとがらせ、アルフレッドはオリビアを睨んだ。
『そんな領に、貧民街なんてない。きっと何かの間違いだ。おれはそれを確認しに行く』
ユリウスは在位中、
退位後、ルクトニア領主に封じられてからも、その政策に
農地改革にも着手し、ユリウスは
また、当時としては
領内には交易品があふれ、それを
そんなルクトニア領に、『貧民街』があるわけがない。きっと
で、あるならば、そのことを
『はぁ!? じゃあ、ユリウス様に
『次期領主のアルフレッド様が視察に参りました、なんてのこのこ行けば、「本当の姿」なんて見せてくれるわけねぇだろ? こっそり行くんだよ、こっそり』
アルフレッドはにやりと笑う。この男が、実はこんな
『こっそり、ってどうやって?』
もう、『行く』と言いだしたら聞かないことをオリビアは知っている。彼が『行く』と言えば、自分に
『バレたらどうすんの? 私だってお父様に
オリビアの言葉にアルフレッドは
二人の剣術の
『……だ、
数秒
取り合わないどころか、結局、オリビアは女装したアルフレッドを連れて夜間、『
おまけに、アルフレッドが女装をしても
正直、提案された当初は、「女装なんてしても
連れて歩いても、誰もアルフレッドを男だとは思わない。それと同じぐらい、誰もオリビアが少女だと気づかないことにも激しく落ち込んだ。
そして、二人が見たのは、自分達が住んでいる地区の住民とは全く
路上で暮らす
初めてやってきた二人は肩を寄せ合い、
そんな『
最初は
その後、二人がその兄弟を『
あの兄弟はどうしているだろう、と三日後に『
アルフレッドが渡した金は、親達が
そして、アルフレッドもオリビアも気づく。自分達がしたことは、ただの
満足したのは、ただ、自分達だけだったことを。
以降、二人は時間と日にちを決めて、夜になるとそれぞれの親の目を
アルフレッドはいつも、そうやってこの『
アルフレッドが提供するのは「金」ではない。「自分の時間」であり、「自分の知識」だ。目に見えるものを与えれば、あっさりと「力ある者」に奪われることを痛感した。だからこそ、アルフレッドは、「見えない何か」を『
そして、『
「やぁ、店主。あの美人と、
屋台に顔を
「あの二人を知らないなんて、あんた、よそ者だね?」
店主は笑い、それから彼のためにワインを注いだ。
「ああ、興行のために、王都から来たんだ」
へぇ、と店主はゴブレットを受け取る男を
二十代半ば、といったところだろうか。
「彼らは有名なんだな」
男は店主の視線を真正面から受け、にこりと笑ってみせる。店主はもちろんだ、と
「
ふうん。男は息を
「
「今度の標的は、
男の片眼鏡が屋台の油灯を反射し、
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