第5話 狂い出す運命の歯車
季節が変わり私たちは二年生へと上がる事が出来た。
幸いな事に二年生になってもヴィスタとヴィルとは同じクラスとなり、寂しいボッチ生活もめでたく回避。例の噂はあいからず続いているが、ヴィスタとヴィルのおかげでわりと平和な時を過ごしていた。
そんなある日の事だった。
「リネア、大変な事になった!」
教室でヴィスタと一緒に世間話に花を咲かせていると、ヴィルが慌てた様子で私たちの元へとやってきた。
「どうしたの? そんなに慌てて」
「慌てたくもなるよ、とりあえずちょっと場所を移そう。ここじゃ話せない内容なんだ」
ヴィルの慌て様から相当大変な事が起こったんだろう。私とヴィスタはヴィルに連れられるまま学園の離れまで移動して、改めてヴィルが持ってきたは話に耳を傾ける。
「いいかい、二人とも落ち着いて聞いてね」
そう前置きをしつつ、ヴィルは一度大きく息を吸って……
「ウィリアム様がリーゼ様に婚約破棄を言い渡された」
「「えっ?」」
ウィリアム様がリーゼ様をフった? いやいやいや、無理でしょ。
前にも言った通りお二人の結婚が国が決めた政策なので、ご本人が嫌だと言っても簡単に別れられるものではない。もしそんな我儘が通れば、国中が大きく混乱するだろう。
「それってウィリアム様が勝手に言ってるだけじゃないの? ウィリアム様の性格も生徒たちに知れ渡っているんだし、誰も相手にしないんじゃないの?」
「もちろんそうなんだけど、話はそれだけじゃないんだ」
ヴィルは再び大きく息を吸い込んで……
「リーゼ様が学園を追放された」
「「…………えぇーーーーーっ!!!」」
ヴィルの話では昨日学園の西棟にある多目的ホールで、ある事件が起こったのだという。
多目的ホールとは学園の生徒なら誰でも自由に使える休憩室のようなもの。お弁当派の生徒が食事をしたり、授業の間に簡単なお茶会を開いたりと、使用用途も多種多様。
そんな人の行き来のある場所で、我が義理の姉であるエレオノーラ様が階段から落ちた事で事件が始まった。
当初は足を挫いただの、体が痛いだのと騒ぎ立て、学園の警備兵まで出動する始末。取り敢えずは容体をみるために学園の保健室へと運ばれたそうなのだが、駆け付けたウィリアム様の前で我が義姉はとんでもないことを言い出したのだという。
「ウィリアム様。私、リーゼ様に突き落とされたんです」
周りにいた者たちは恐らくポカンっとなったことだろう。
普段か誠実なるお姿を見せるリーゼ様。一方エレオノーラ様の方は陰口は叩くは、自分は伯爵令嬢だと好き放題するわで生徒たちからの評判も悪く、今回の件もどうせエレオノーラ様がデタラメを言っているのだろうと思ったらしい。
だが只今エレオノーラ様にぞっこん中のウィリアム様が真実を見極めることなど出来ず、周りが止める間もなくリーゼ様を問い詰めたのだという。
しかし詰め寄られたリーゼ様は、『証拠もなく他人を陥れることは王子としてあるまじき行為』と注意し、逆に軽く突き放されたそうだなのだが、頭に血が上っているウィリアム様は、『ならば証拠を集めてきてやる』と意気揚々と立ち去って行ったのだという。
そしてその翌日、つまり今日の午前中には宣言通り現場を見ていたという生徒を見つけ出し、リーゼ様を更に追い詰めた。
証人が現れた事で身の潔白を証明しなければならないリーゼ様は、事件当時に呼び出されたたという子爵家の方にアリバイ証明をお願いされたらしいのだが、その方は『そんな約束をしていない』と大勢の生徒たちの前で否定され、逆に自分を苦しめる状況に追い込まれてしまった。
その結果、再びウィリアム様に呼び出されたリーゼ様は身の潔白を示せず、婚約破棄と学園の追放を言い渡されてしまったのだという。
「それっていつ頃の話なの?」
「ついさっきさ。リーゼ様が徒歩で学園を後にされる姿を偶然見かけたから、気になって姉上に聞きに行ったんだ。そこで聞かされた話が今話した内容なんだけれど姉上も凄く慌てておられて、リーゼ様が学園を出て行く姿を見かけたと言ったら急いで追いかけて行かれたよ」
ヴィル達の姉であるシンシア様は、リーゼ様と大変仲が良いらしいので其のあたりの話には詳しいのだろう。
リーゼ様が一人で帰られたところまでは知らなかったらしいが、ご本人も力になれず相当落ち込まれているのだという。
「でもウィリアム様が出て行けと言っても、リーゼ様を学園から追放する事なんてできるの?」
「さぁ、どうかしらね。一応国が運営している学園だから発言力はあるでしょうね」
これが前世の平和な日本ならば大きくバッシングされる事件だが、この世界は身分が重視される階級社会。しかもリーゼ様が我が義理の姉を突き落としたという事件も起きている。
これで上手く潔白を証明出来ればいいのだろうが、出来なければ何らかの処分は言い渡されるだろう。
「とにかく明日には学園中に噂が広まるだろうから、リネアはより一層注意した方がいいよ。リーゼ様を慕う生徒は大勢いるんだからね」
確かにヴィルの言う通り、明日には学園中に噂が広まるだろう。
私を含めリーゼ様を慕う生徒は学園中に多くいる。我が義姉はウィリアム様という盾があるのでビクともしないだろうが、私には守ってくれる盾もなければ回避できる力もない。
ヴィスタとヴィルは今まで通り接してはくれるだろうが、今回の件に関しては二人にまで危険が及んでしまう可能性があるので、少し距離を置いた方がいいのかもしれない。
「わかったわ。ありがとうヴィル」
こうして私の運命の歯車は大きく悪い方へと進んでいくのだった。
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