AIによる業務

 あのさぁ。


 今度は何だよ。


 AIが、人間の仕事を奪うって言ってるけど、本当だと思うか?


 将来的にはって話しだろ? 

 現状で心配する所は、そこじゃないぞ。


 どういう事だ?


 いいか? 

 例えば、俺がやってた経理ってのは、基本的に誰でも出来るんだ。

 それこそ作業自体をAIに任せれば、ミスが減るんじゃないか?


 確かにな。

 人間がやるからミスが出るって事か?


 そうだよ。

 どう頑張っても、ケアレスミスを完全に無くすなんて、不可能だよ。

 そういう意味では、AIが代わりに計算をしてくれた方が、効率的だし確実だ。


 なら経理の仕事は、AIに奪われるって事か?


 そうとは言えない。

 さっき言ったのは、作業レベルの話しだ。

 経理の仕事ってのは、会計原則に則って行うんだ。

 それ以外にも法人税法や消費税法、それに会社法なんて法律も関わってくる。


 ならそれを、AIに覚えさせればいいんじゃないか?


 いいか?

 法律ってのは、曖昧に出来てるんだ。

 法律が全てを網羅していたら、係争なんて起こりはしない。

 曖昧な部分が有るから、判断をしなければならない。

 そこにトラブルが生じるんだ。

 例え法律が有ったとしても、高度な判断をしなければならない場合が有るんだよ。


 それがAIに出来るかどうかって話しか?


 そう。AIが進化すれば、将来的には可能になるかもしれない。

 でも、それは今すぐじゃない。


 わかったような、わからないような。


 仕事をしてると、経験に基づいた判断を求められる時がある。

 それを感じる事が有るだろ?


 そうだな。

 そういうのを、先輩や上司から教えてもらう時が有る。


 培われて来たノウハウ、それに基づく判断。

 これは、そう簡単に出来るもんじゃない。

 言い換えれば、それが仕事における価値ってもんだ。


 あ~、何となくわかってきたぞ。


 誰にでも出来る作業なら、AIに任せちまえばいい。

 だけど、仕事ってのは、そういうもんじゃない。

 例えば販売店の仕入れ担当は、何に基づいて仕入れの量を決めてると思う?

 農家の人は、漠然と作物を育ててる訳じゃないんだぞ。

 五感を頼りにする仕事だってそうだ。

 優れた料理人は音や香り、触感なんかで判断する事も有る。

 食品開発の仕事だって、同じだろ?

 そこには感覚だけじゃなく、経験や勘ってもんが、重要になってくる。


 でも、経験や勘だけに頼ると、ミスが起きるだろ?


 その通りだよ。

 その部分に関しては、AIが補助してくれると、よりミスが少ない判断が出来ると思うぞ。

 

 AIに成り代わる事を心配するより、より良い使い方を考えろって事か?


 そういう事だよ。

 それにな、お前も男ならわかると思うけどさ。

 何処でもいい。店に行った時、可愛い女の子が笑顔で対応してくれたら、ときめくだろ?


 ときめくな。すげぇときめくな。

 

 そんなもんだよ。

 よく、顧客満足なんて言葉を耳にするだろ?


 あぁ、よく聞く言葉だ。


 人ってのは単純なんだ。

 ぶっきらぼうな対応されれば腹が立つけど、愛想よく対応してくれれば嬉しくなる。

 特に男は単純だ。

 女性に優しくされれば、のぼせ上がる。そうじゃないか?


 あぁ、それはすげぇわかる。


 そうだろ?

 顧客を満足させる付加価値ってのは、商品で代用出来る事も有る。

 だけど、もっとシンプルなんだ。

 ちょっとした配慮で、人の心を満足させる事は出来る。

 言い換えれば、今の現代社会には、そこが欠けている。


 と言う事は、人と人の繋がりみたいなもんは、AIには出来ないって事か?


 将来的にどうかまでは、わからないぞ。

 でも、現状で成り代われないものが、沢山あるって事だ。

 今までは、仕事をしていた気になってただけ。これからは、仕事とは何か。

 そんな事を考える時代が来たって事だ。


 ほとんどの仕事が、AIに乗っ取られる。

 そんな事を心配するより、もっと自分に付加価値を付けろって事か?


 そういう事だ。

 自分に付加価値を付けるのは、自分にしか出来ない。

 それは、AIに出来はしない。

 考え続ける事、技術を磨き続ける事、それはAIに負ける事が無いんだ。

 だって、AIが国宝級の工芸品を作れる様になると、思えないだろ?


 国宝は大袈裟だけど、概ね理解は出来たよ。

 俺にしか出来ない、そんな仕事が出来る様に、頑張ってみるか。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る