不確かな本能

 恋は一時的な熱情なんだと、気が付いてました。

 でも、愛は確かに有ると信じてました。

 だって、それは素敵な事だから。それがなければ、世界は真っ暗闇だと思ったから。


 一途と言えば、聞こえはいいんです。

 確かに私は、たった一人を愛してました。

 そのつもりでした。でも、彼は違いました。


 病める時も健やかなる時も、そうやって誓ったのは、そんなに昔の事ではありません。

 その誓いは、一方的に破られました。


 彼の愛は複数で、私はその内の一人でしかなかったんです。

 彼のそれは、単なる欲望では無かったのかもしれません。

 だって、優しかったから。私はひと時でも、幸せだったから。


 ようやく私は知りました。

 彼と二人で誓ったあの日より前に、彼が言った言葉が真実だったんです。


 あの日、彼は困った顔をしながら、私に言いました。

 僕はまだ、養っていけるほど、財力が無いんだ。

 だから、おろしてくれないか。

 

 私は、泣きながら嫌だと訴えました。

 彼は更に困った顔をしながら、私に結婚しようと言いました。

 その時の彼は、同情でそんな事を言ったのかもしれません。

 でも、二人の生活は、とても甘く優し気なものでした。

 だから私は、信じてしまったんです。

 愛は本当に有るんだと。


 でも、やっぱり妄想だったようです。

 

 多分、愛は本能なんです。

 子孫を残すという目的が有るから、本能に基づく利益を求めるから、ひと時の安らぎを与えてくれるのです。


 無償の愛も、幻想なのかもしれません。

 親が子に抱く愛は、子孫を育てる為に有って、いずれ訪れる老いの時に、見返りを求めるのです。


 愛と呼ぶから、勘違いするんです。

 愛は、子孫を残す為の、本能なんでしょう。

 より良い子孫を残す為には、私のDNAは不要だったんでしょう。


 もう私の子は、泣きながら私を探す事は有りません。

 やはり、私のDNAが混じった子供は、彼にとって不要だったんでしょう。

 

 でも、寂しいです。

 あの子と会えないのは、とても寂しんです。

 だから行きます。

 あの子の所へ行きます。

 

 みなさん、さようなら。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る