ロンリネス

木魂 歌哉

ロンリネス

 今日はお忙しいところ有難ありがとうございます。


 (男、深々とお辞儀)


 早速取材インタヴューから始めさせていただきます。



 神様はこれまで様々な種類タイプの人間をおつくりになられてこられたわけですが、作品を創る上で心がけていること、気をつけていることはございますでしょうか。


 (重々しきため息)


 ……在るわけないか。


 在ると云うなれば私のような者が生まれるはずもございませぬ。気をつけるべきことであれば「私のようなような者」を創らないように、といったものが適切でございましょう。

 まぁ私が神様に助言アドヴァイスなどできるはずもございませんが。


 (皮肉なる微笑)


 ただ、一つだけ私にも思いつく人間の共通点がございます。確か、その昔に聞いた誰かからの受け売りではありますが。


 ーーー「孤独ロンリネス」。


 人間は皆孤独でございます。各々孤独に産まれ、孤独に死んでゆきます。私の周りは皆そのような感じでございました。私もきっと、その例に漏れることはないでしょう。


 そう思うと、とてつもない痛みと虚しさが私に去来するのです。


 ……神様。もしかすると貴方も孤独なのですか?日々人間を創り続けるのはその孤独を紛らわす為なのですか?


 でしたら私とこの胸の痛みでも交換致しましょう。先程孤独について触れてから、かなり痛むのです。貴方もそうではありませんか?さぁ早く交換致しましょう。

 お互いの孤独は、交換でもしないと和らがないものです。貴方はもう解っている。そうでしょう?

 さぁ早く。

 さぁ、さぁ、さぁ

 

(大いなる沈黙)


 ……そうですか。不適合だから交換できませぬか。

 なら仕方ありません。

 神と感情を共有できると少しでも思った私が愚かでございました。

 

 (一つ、咳払い)


 では次の質問に。

 ぶちまけた話、最高傑作は何処どこのどいつですか?


 (再び、大いなる沈黙)


 ……いらえ難い質問でしたか。失礼致しました。

 居るのであれば一度お会いしたいと思っていたのですが。まぁ仕方ありませんね。


 気を取り直しまして、先日誕生リリースとなりました、坊の話に参りましょう。

 そちら側で云うなれば「新作」ですか?

 そうですか。

 では、”今作”にあたって一番の要点ポイントは何処ですか?

 あったら教えていただきたい。

 

 (黙)


 ……ならば、伝えたい伝言メッセエジは?


 (黙、又黙)


 ……ないのですか。そうですか。


 だから坊は産まれて直ぐ死んでしまったのですね。


 私は……私は本当に嬉しかった。こんな私でも玉のような子を授かってもいのだ、と。初めて、生きてて善かった、と思えたから。

 

 されど現実は直ぐに闇を取り戻してしまった。坊は死に、そのショックで妻も……。元々衰弱していたのもあって一瞬でございました。


 私は……私は何もできなかった。目の前で命がこぼれ落ちてゆくのをただ見ていることしかできなかった。ただ、自分を呪うことしか……!


 貴方の所為せいだ!!


 (すすり泣く音。時々、嗚咽おえつ


 失敬。取り乱しました。


 もしかすると坊の「伝言」は矢張り「孤独」なのでございますか?私のような人間は、結局のところ「孤独」なのだ、と。

 そういうことであったのですか?


 (重い沈黙)


 ……一つ、教えて下さい。

 世の中には、私よりはるかに幸せな人が居ます。神様、貴方がもし創っているのなら、全員同じようにはしてくれないのですか。どうせ同じ材料、お馴染みの作業でしょう。

 何故です。

 何故なのです。


 (沈黙)


 神よ、お願いです。いらえて下さい。貴方が孤独なら私がいくらでもそれを和らげて差し上げます。それこそ、神になってでも。

 どうすれば神になれるのですか。どんなに身を溶かしても人と神の境界線は未だ鮮やかなままです。こんがり身を焦がしても、繋ぎ目は浮き彫りになっています。それとも、裸で抱き合ってれば一つになれるとでも申すのですか?


 ……嗚呼ああ、自分でも何を云っているのか解らなくなってきた。

 自分でも解らぬことが相手に伝わることはないでしょう。

 たとい相手が神であったとしても。

 私が神に成るなど天地がひっくり返ってもあるはずがございません。本当に傲慢なことでございました。重ねてお詫び申し上げます。


 (しばらくの沈黙の後、はっと息を飲む音が聞こえる)


 解りました。

 ようやく解りました。

 思えば人間の社会も同じようなものではございますまいか。


 神様。貴方は物事を多数決や四捨五入で決めていらっしゃる。

 私のような邪魔な端数は切り捨ててお揃い、という具合に。


 神様、私達は偉いですか。

 嗚呼。

 褒めてくれますか。


 (辺りには、風のく声と川のせせらぎの音のみ)

 

 (ふいに、暗闇の中に男の声が木霊こだまする)


 ……そうか、神は死んでしまったのだ。


 かのツァラトゥストラも「神は死んだ」と云っていたではないか。


 だから、一つも質問にいらえてくれない。

 だから、私達を褒めてくれる人も居ない。


 だから、坊の「伝言メッセエジ」は……そういうことだったのだ。


 はは……ははははははは


 (乾いた笑い声)


 (何かが、水に落ちる音)


 (辺りに残るは、静けさのみ)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ロンリネス 木魂 歌哉 @kodama-utaya

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ