<はじめに>

<感傷>

 これは恋愛話というよりは最低男の話と言うのが正しいかもしれない。


彼女との恋愛は中途半端の所で終わってしまった夢とか立て付けの悪い蝶番ちょうつがい彷彿ほうふつとさせる。


未練とか後悔という言葉では形容しがたい何かを内包している。


ただ確かな事は恋愛がした今でも彼女の存在が自分の中に残っているという事。


 木枯らしの吹く、川沿いの中学の通学路に面したベンチで、生田利世は上を向いた。


青いはずの空は灰色に濁って見える。雲が風で流され、渦を描いている。それが何とも不気味で、気持ちが悪い。のどに、胸に何かがつっかえている様な感覚にさせる。


彼女といる時だけは俺の視界に色が咲いた。それは桜が華やかに、それでいてみやびに咲く様に。


だが、彼女を失った。全ては自分のせいだ。

安っぽいプラスチックの背もたれが鈍くきしむ。ベンチは所々、欠けて、埋めてくれる存在を探している様だ。そのベンチは座りたてのせいか、ズボン越しに冷たさで俺の体の芯を刺す。まるで、自分を見ているようで、冷や汗をかいた。


 俺は空に向かって


「過去の選択は本当に合っていたのか? 」


 と嘆いた。返って来ることのない問いかけ。むなしい。


 俺は目の前の川に視線を落とすと秋の太陽が水面に反射していた。それは輝き、同時に実態の掴めない走馬灯そうまとうを見せた。

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