都市伝説の日常

アリエッティ

第1話 怪しい噂

「なぁ知ってる?

二丁目公園のブランコの話!」

二十回漕ぐと女の霊が現れるという噂のブランコ、近所の子供達には専らの有名な話であった。

「な、放課後やってみようぜ!」

「やろうやろう!

何か出るかも知れないしね!」

好奇心は人を突き動かし、アクティブにさせる。暗い事でも例外では無く少年達は、授業が終わると二丁目の公園に向かい、ブランコに腰を掛けた。


「あぁバイトか、微妙なんだよなこの時間。朝勤でも夜勤でもなく夕勤ってそれにあそこ、よく見えるんだよ。」

二丁目付近に住む単なるバイトマン、だが彼は少しばかり人とは違う。見えないもの、本来出るべきでは無い者達が見えたりする。

「ん?」

「じゅーいち、じゅーに..!」

「あぁ、噂の公園のブランコか。

確か前の柱の傍に現れるんだったな」

軽快にブランコを漕ぐ子供達。

とても都市伝説の検証とは思えない感情の使い方をしている。

「じゅーさん、じゅーし!」

「..ん?」

例の噂と思しき出で立ちの女が、ブランコの上で青冷めた顔をしている。

「長い髪の女、分かりやすいなあの人

あそこでスタンバッてる感じなんだ」


「はぁ...」

あからさまなため息をついてる。

「じゅーご、じゅーろくっ!」

「あ、はぁっ..」

〝あと4回かよ〟の感じが凄く出てしまっている。

「ウンザリしてる、なんかすごいガッカリしてる。」

「じゅーしち!じゅーはち!」

「またかよ..」

「遂に言った、あの人遂に言った!」

「じゅーく!にゅーじゅっ!!」

カウントが達すると慣れた素振りで睨みをきかせて定位置に立つ。

「うわ、すごっ..」

「どうだ!?何か出たか!」

「...わかんないけど、何か居る感じがする。」

「ホントかよ〜!

お前どうせ見えてないだろ?」

「いやだからわかんないって!」

「..いるよ、ここに。」

呟くのはマストでは無く溢れ出た本音

「大変だな、なんか。..バイト行こ」

「まぁいいや!

ゲーセン行こうぜ!」

「うん、そうだね。行こう行こう!」

「……初めからそうしろよ。」


「新庄くん補充お願い!」

「あ、はーい。」

なんでも無いコンビニのバイト、頼まれて飲料の補充に回る。

「裏方かぁ、危ないんだよなぁ。」

見える、出ると言われるのは正にここ

意図しない形で知らない人がいる。

「コーラか、喉がハイになるやつね」

「それウーロン茶?」「え?」

「いやだから、それウーロン茶?」

「出たよ..」

今回のお相手はウーロン茶おじさん。

種類に関係なく、手に持った飲み物をウーロン茶と決めつけてくる厄介者。

「ウーロン茶だよね?

それウーロン茶だよね?」

「コーラですよ、コーラ。」

「ウーロン茶?」

「だからコーラですってば..」

「ウソ!コーラ?

...いやいや、ウーロン茶だって!

ウーロン茶だわー、ウーロン茶。

それ絶対ウーロン茶だわー!」


「..もうなんだっていいわ。」

「ほら!ほーら!やっぱだ!

ウーロン茶だったね、やっぱウーロン

なんでウーロン?なんでだろ!

..わかった、敢えてだ。

敢えてのウーロンだ!そうでしょう!

ねぇ、敢えてのウーロンでしょ!」

「うるせぇよっ!

そうだよウーロンだよ!

これで満足かコラ!なんだオイ!」

「......ごめん。」

悪気は無かったウーロンおじさん、しかし悪意以上に存在がウザい。

「新庄くん大丈夫?」

「..あぁ三月さん。」

「補充、変わろうか?」

「...それじゃあ、お願いします。」

レジに戻って精算作業に移る、人目には付くが此方の方が余程気が楽だ。

「客は多いけど仕方ないよな、あんなとこで作業は続けられない。」

止まる事なく来客が流れるレジは何より忙しい、早くAIに替わるべきだ。

「いらっしゃいませぇ..」

早速客が来た、軽い飲み物と弁当を持ってる。

「お弁当温めますか?」

「..お願いします。」 「...はい」

顔は、髪の毛で見えない。下を向いてしまっているから、長い黒髪で隠れている。

「少々お待ち下さい。」

「……」

終始無言の時間が流れる。

対面のまま、静かに過ぎる謎の間が。

「外、雨降ってました?」

「……」

気まずさに耐えられず話し掛けるも変わらず無言。地獄が広がる。

「今日は夜冷えるみたいですけど、暖かくして眠らないと..」


「あの。」 「..はい?」

突然返事を返す女は、少しばかり顔を上げ此方を見た。

「私のこと、見えてましたよね?」

「み、見えて...た..?」

「見えてますよね、私の事。」

「見えてるって..まさか...!」

『ピー、ピー、ピー..』

弁当が待ちきれず、声をあげる。

「..あ、560円になりま..え?」

全て言い切る前に払い上げ、店を出た

「えっと、有難うございました!」

咄嗟に店員に戻り接客を始める。

「あれ?

ここにあった唐揚げ弁当何処いった」

「先程、別のお客さんが買っていかれましたよ。」

「...アンタ何言ってんの?」

「……え?」


「じゅーく、にじゅっ!」

「どうだ、何か見えるか?」

「見えない。」

「..んだよ、何もいねぇじゃん!

つまんねぇな、帰ろうぜ!」

唐揚弁当は何処。

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