昨日シャンプーを変えた
藤尾あや
第1話 有楽町
有楽町のごみごみした感じが、小さな頃は怖かった。東京はどこもごみごみしているけど、なかでも有楽町はなぜか怖かった。この感覚を言葉で形容することは難しい。
大学生になって東京にある大学に通うことになった。実家は千葉県で、通学には1時間かかる。1時間はだるい、と思いつつ独り暮らしをするほどでもない。とはいえこれまでのようにお小遣いを親からもらっているのでは足らないから、私はアルバイトを探した。
あれほど恐れていた有楽町をバイト先に選んだのはなぜなのか、自分でもわからない。相変わらずごみごみしていて、そのくせほんのりと高級感をにおわせてくる街。わたしは有楽町のカフェをバイト先に選んだ。
大学生活はまあまあだった。高校生の頃に夢見ていたようなことは何も起こらない。慣れないのにお酒を飲み、その量を競い、ただただ時間を浪費する。興味のある内容になら身が入るかと思いきや椅子に座ってただ時間が過ぎるのを待つ。なんとなく入学式に知り合った子と同じサークルに入って、私もみんなにあわせて味なんかわからないお酒を飲んだ。これが大学生だと言い聞かせていたのかもしれない。
なんとなく入ったサークルは6月にやめた。授業も、何度もサボった。お酒のおいしさがわからなくて、早々に飲むのもやめた。でも私はまだ有楽町でアルバイトをしていた。カフェのバイトなんてみんなやっている、面白みがないと思っていたが案外水があったのか真面目に仕事に入っていた。有楽町の街はやっぱり好きになれなかったが、週に4日は通っていた。
一本裏の道にはいるとようやく見つけられる位置に私の働くカフェはあった。いつでもちょっと薄暗くて、向かいのショーウィンドウに映る自分を見るのは怖いようなところだ。そんなところにあるくせにカフェはなかなか繁盛していた。本当に不思議だと思う。彼らはいつこのカフェを見つけて、どうしてこのカフェに通い続けているのだろう。もっとおしゃれで同じようにおいしいコーヒーを飲める場所は有楽町じゅうのどこにでもあるのだ。
アルバイトは順調だった。特に面白くもないけど大学生活も順調ではあった。一年生の春学期を無難な成績で乗り越えて、夏休みになった。
いつもと同じような日々に変化があったのはその夏休みのことだった。
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