第2話 ワシリイの秘密

 数週間後。外装工事も終わり、いよいよ舞台は整った。

 

 以前、レオンたちが話していたことをご記憶だろうか? 鳳雛剣に太陽の火力を、臥竜剣に地球の水力を、と密談していたアレだ。

 

 太陽の火力を集めるのは比較的簡単だった。日差しの強い日を選び、太陽が南中したのを見計らって、南のヨウグ塔ハイサイドライト下にある、マントルピースに聖杯を置くのだ。すると、マナの聖杯が灼熱の光を放つ。メシヤはすかさずその光を集めた。

 

 「Say When !(いいところで止めて!)」

 「まだです。まだまだです」


  マナはメシヤの傍に近づいて、串焼きを調理した。

 「太陽光で直火焼きなんてなかなか味わえないぞ」

  メシヤが妹の要領の良さを見てグルメレポートをする。

 「あ~ッ、いいなア、マナ!」

 「まだまだありますよ、エリさん」

  エリも負けじと串を焼いた。


  そんなこんなで、エリたちの腹が満たされる頃には、レオンのOKが出た。

 

 別日、メシヤとレオンが北のシイベル塔の前に集まっていた。ここ数年、地球は未曾有の大洪水が世界各地で起きていた。地球温暖化と集中豪雨は複合的な要素が絡まって影響し合っているのだが、その講義をするにはあまりにも紙幅が足りない。

 

 太陽光を集めるのは、目的のブツが天上に見えているので問題は無かった。だが、水力となるとこうはいかない。ワシリイ宇宙センターは海辺でもないし、山のふもとだ。

 

 「海洋上昇分の水をマナの聖杯から湧出させればいいのですが、そんなことをしたらここが海の底に沈んでしまいますし、量が膨大すぎて現実的ではありません」

 レオンが諭すように説明する。


 「うんうん」

  メシヤはレオンの言うことを素直に聞いている。

 「そこで、マナの聖杯を巨大な蛇口に見立てて、各余剰水域をつなげるのです」


 それを横で聞いていたマナが不安そうにメシヤたちを見つめる。

「聖杯の向こうに水があるものとして、臥龍剣にチャージするんだね。でも、マナの体に異変は起きないかな?」

 メシヤが妹の身を案じて質問する。


「心配ありません。太陽の火力を集めたときもそうでしたが、これらはマナさんの身体と等価交換をするわけではありません。今回の聖杯の使い方は、SF漫画に出てくるように、空間と空間をつなげるドアの役割をさせるのです」

 

 「ほっ、なら良かった」

  メシヤがそうつぶやいた後ろで胸をなで下ろすマナ。

  

 「エメラルドタブレットを貸していただけますか?」

  レオンはメシアに促した。

 「うん、ちょっと待って」

 メシヤは背中の鞄から石版を取り出して渡した。レオンはそれを受け取ると、なにやら古めかしい遠い国の言語をつぶやいた。

 例のごとく、石版がエメラルド色に輝いた。ぼんやりと浮かんだ光の文字を、レオンは素早い手の動きでタイピングしている。

 「す、すごい・・・」

 居合わせた藤原兄妹は固唾をのんでいる。

 

 「ポンポロポン♪」

 レオンがキーを打ち終わると、デコード完了の合図であるハープの音が鳴った。

 

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