第6話 おしくらまんじゅう

「ちくしょう、あいつら俺を囮にしやがっ――」


傷だらけの男が何かを言い終わる前に、肩から何かが突き出た。

鋭利な、何か槍のようなもので背後から貫かれたのだ。


「ギッぎゃああああっ!」


血だらけ男の絶叫が洞窟内に響き、更にその背後から複数の人影が現れて、強引に男を地面へと引き倒してしまった。


「なんだこいつらは・・・・・・!」


「に、人間じゃないぞっ!」


人の形をしてはいるが、明らかに人間ではない化け物。


「ギャアアアアアッ!!」


化け物の集団は、ナイフのような刃物で血だらけの男を滅多刺しにしている。


「ゴブアァッ・・・・・・」


やがて血だらけ男が動かなくなると、今度はこちらを伺うように近づき始めた。

化け物との距離が近づくことで、その様相がはっきりとする。

体格は小学生かと思わせるような小柄なものだ、白濁した瞳孔、肌は緑で体毛は一切見受けられない。口には犬のような鋭利な歯が生えており、ガチガチと耳障りな音を鳴らしている。


「なるほど、今度はゴブリンですか」


確かにゲームや映画で登場する容姿と共通項が多い気がするな。

数は3体。

いまだに俺達とは距離を保ち、ゴブゴブと喉を蠢かし、呻きながらこちらを観察するように見てくる。

どうやら直ぐに襲い掛かってくる気はないようだ。こちらは人数が多いからな。

しかし、それでもゴブリン共に退く気はないらしく、睨み合いの状況がしばらく続く事になった。


「ね、ねえ。武器持ってるんだから、何とかしてよっ!」


この状況に耐えかねたのか、カップルの彼女くんが強引に彼氏くんの背を押して、ゴブリン共の前に押し出してしまった。

たたらを踏みながら前に出た彼氏くんは、背後の彼女をひと睨みした後、へっぴり腰ながらも錆びた剣を構える。


「お、おしっ。やってやらぁ!」


大声でイきりながら、ヤケクソ気味にゴブリンへ斬りかかる彼氏くん。


「おらあああああああっ!!!」


必死な形相の元、錆びた剣がへっぴり腰で振り回される。

それでも彼氏くんの勢いと気迫に気圧されたのか、わずかながらにゴブリン共の足が下がる。


「どうしたぁっ!!かかってこいよ!オラあぁっっ!!!」


相手が引いた、という反応に気を良くしたのか、彼氏くんは息が荒くなっているのもお構いなしに、ただ闇雲に剣を振り回し続ける。すると、しばらく様子を伺っていたゴブリン共の一体が、おもむろに前へと踏み出した。既に息が上がっていた彼氏くんが放つ大振りをあっさりかわすと、その手首にナイフのようなもので斬りつける。


「あツッ!」


浅く切り傷が付いただけだったのだが、彼氏くんにとっては、それだけで十分過ぎる恐怖をもたらした。たちまち戦意が萎縮し、後退してしまう。

そして、その僅かな後退が引き金となった。


「ゴブァアアアアアアアアッッ!!」

「ブラアアアアアアアァッ!!」

「オオオオオオオオッ!!」


後ろにいたゴブリン達も含め、次々と彼氏くんへと踊りかかる。


「ひっ!?む無理っ!3対1で勝てるかよっ!!!」


あっさりと錆びた剣を放り出して、一目散に俺達のいる方へと逃げてきやがった。


「お、おいどこへいく!戻ってもどの道グッ――」


オールバックの背に誰かがぶつかる。

彼氏くんの恐怖が伝播したのだろう、それに釣られて後方へと逃げ出す者が続出する。狭い通路なため、瞬く間に押し合いへし合いの状態になった。



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