最底辺の超能力者が異世界で魔王指定されてしまう話

sizu

第1話 プロローグ

「俺、超能力者なんだ」


カラスの鳴く夕暮れ。寂れた公園で俺こと才起 士熊は、自身が何者であるかという重大な事実を密かに打ち明けた。


「・・・・・・ふーん」


目の前にいるのは、鼻水を垂らしたマヌケ面のリアルキッズ。

鼻をホジりながら興味なさげの反応が返ってきた。


「疑うのも無理は無い。だがしかしキッズ、このスプーンをよく見ているといい。サイコパワーの素晴らしさを特別に披露してやろう」


懐から取り出したる少し錆の浮いた銀色のスプーンを、キッズの鼻先に突き出す。


「はあああああああ・・・・・・っ」


そうして俺は、体内のサイコパワーを循環させ一気に全身へ練り上げた。


「あああああああああああ↑」


湧き上がるサイコパワーを徐々にスプーンを摘まんでいる指先へと伝えていく。


「あああああああッ」


そうして、スプーンに変化が起きた。


「はぁっはぁっはぁ・・・っ。どうだっ!曲がっているだろう!」


スプーンは見事に曲がっていた。10度位は傾いている。新記録かもしれん。


「これがサイコパワー。念動力の力だ」


どやぁ。


「・・・・・・それ。おっさんが指の力で曲げたんでしょ?」


「ちがう。念動力、サイコキネシスを発動させたのだ。偉大なるサイコパワー万歳」


「うそだね。筋肉動かしてたじゃん」


「そーだよおっさんムキムキじゃん」


いつの間にかクソキッズが増えて俺を取り囲んでいた。


「ちっがーう!!この肉体は超能力の修業を模索している内に気が付いたら鍛えられていたに過ぎないのだ!」


思い返せば高校を卒業してからというもの、様々な試行錯誤をしてきたものだ。滝に打たれたり、腕立て伏せ、スクワット、山篭り。

日本各地を巡ったものである。


「それとキッズ達よ俺はおっさんではない。まだ20代・・・・・・って、もう誰もいないし」


人の話を最後まで聞けよ。これだからキッズは。


「ぐううううぅ・・・・・・」


腹の音が鳴っている、朝から何も食べてないからな。


「お疲れ様です先輩」


背後からの聞き慣れた声に振り向く。


「お、おお。黒咲か」


黒髪の美少女、黒咲 彩芽。

高校時代に俺と同じオカルト部に所属し、元副部長である。

非常に優秀な後輩であり、俺の数少ない理解者でもある。


「先輩、今日はカルビ弁当しか残っていませんでした」


黒咲は現在大学生で、コンビニのアルバイトをしている。

お陰で廃棄弁当を内緒で譲ってもらえるのだ。


「いやカルビ弁当は好きだぞ。いつもすまんな」


俺はたまに日雇いをする以外は、全て修行に専念しているので、当然のことながら常に貧乏なのだ。最近の食事はもっぱら黒咲から配給される、この廃棄弁当で食いつないでいるのが現状である。


「それと・・・・・・」


なにやら黒咲が肩に掛けたトートバックから透明なケースを取り出した。


「む?これは」


手の平程に収まるガラスのケースには、黒っぽい結晶のようなものが入っているのが見える。


「メンカリで買ったんです。隕石の欠片だそうですよ、先輩の力、もしかしたら上がる・・・・・・かも」


「ほー、ありがたく利用させてもらおう」


「はい」


普段あまり感情を表に出さない黒咲が笑顔を見せた。

なぜか俺の顔が熱を発し、サイコパワーが高まっていくのを感じる。


「なんだか調子が良くなってきた気がするな。黒咲よ、少し修行にいってくるぞ」


「はい頑張ってください」


俺は貰ったカルビ弁当と隕石の欠片を手にしながら街へと走り出した。


超能力を極めんと、高校を卒業してから修行し続けて早数年。

結果は散々なもので、なんの成果も上げられませんでした状態である。


「何が足りない。何が駄目なのだぶっ!?」


唐突な後頭部への衝撃。


「ぶつぶつキメーわ」


「このクソ陰キャホームレスがっ」


どうやら俺は角材で殴られたらしい。

ホームレス狩りとエンカウントしてしまったのだ。

空腹も忘れ、修行という名のランニングをして数分。

線路を潜るトンネルで、イキった4人組の青年達に囲まれていた。


「マジくっせーんだよおっさん!」


「おっさんて、俺はまだ20代・・・・・・ぬわっよ、よせっ」


背後から羽交い絞めにされてしまう。

余り道幅のないトンネルで、不良共に挟まれているため逃げ場はない。


「存在が邪魔なんだよっ死にぞこないがぼぉ!?」


拳を振りかぶるホームレス狩り、その頬に横合いからか飛んできたペットボトルが突き刺さった。


「っ!?ってーな!」


「警察を呼びました。さっさと失せなさい」


救いの女神が現れた。

印籠を翳す様に黒咲は、スマホの通報画面をホームレス狩りに見せ付けていた。


「・・・・・・ちっ、うぜえ女だなぁ」


「へっけど、よく見ると美人ジャン」


これで去るかと思ったのだが、続行する様子だ。

正気か?

青年達の顔をよく見ると目が血走り、口から涎を垂らしている奴までいる。

薬でもやってるのだろうか、黒咲も想定外だったのだろう、迫るホームレス狩りを前に後ずさる。

うむ。

ここは先輩として意地を見せねばな。


「超能力タックルッ!」


黒咲に注意が逸れて拘束が緩んだ隙に、近くにいたモヒカン野郎の背にショルダータックル。


「うぉっ!?」


モヒカン野郎は盛大にバランスを崩して通路の壁に身体をぶつける。


「な、なんだこいつっ!?」


「超能力チョップッ!!」


振り返って俺を拘束していた金髪野郎の首筋に手刀を入れる。


「ガッ」


「超能力キック!!!」


「グエェッ!」


映画や漫画のように気絶してくれなかったので、追加で前蹴りを鳩尾にぶち込んだ。

これが上手くいったようで金髪君はもんどり打って反吐をぶちまけながら地面に転がる。


「この野郎っ!」


「ぬぐっ」


横合いからタトゥーをいれた厳つい野郎に頭を殴られた。

それだけで身体がふらつく。

不味い。


「汚ねーなゴミがッ!」

「どこが超能力なんだよっ!!」

「イカレてるぜこのおっさん!!!」

「底辺が俺に触んじゃねーよッ!!!!」


残念ながら俺は武術の修行はやっていない。

となれば多勢に無勢、いくら身体的にこいつらよりも鍛えられているとはいえ、やはり無理があった。

たちまちリンチパーティーが始まる。


「せ、先輩っ!あっ」


「はははッ!さっきの威勢はどうしたクソアマがぁっ!」


俺に近寄ろうとした黒咲が、グラサンを掛けた野郎に捕まる。


「に、にげろ!黒咲・・・・・・!」


「何かっこつけてんだゴラァ!」


「グぅっ」


頭部を強く殴られて倒れる。その拍子に結晶が落ちてケースが割れた。

意識がぼやける。


くそ、力が欲しい。

この際、超能力でなくてもいい。今は、黒咲を守る力を――。


暴力の嵐の中、無意識の内に手を必死に伸ばしていた。

指先に何かが触れる感触がする。

地面に落ちて剥き出しになっていた、黒い結晶だ。

それが微かに振動したように感じた次の瞬間。

強烈な光が発生し、ドーム型の光が広がると、周囲のありとあらゆるモノが包まれていく。


――こうして


俺の苦難の旅が始まった。


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