Secret Port~シークレットポート~

むつむら

第1話テスト明けの金曜日に

キーンコーンカーンコーン授業終わりのチャイムが学校中に鳴り響く。


この瞬間を待ちわびていたかのように生徒たちは帰り支度を整え、数人のグループに分かれて、帰る者、部活に行く者、それぞれの放課後に向かって一斉に教室を出ていく。


「湊、また明日な!」


サッカー部らしき格好をした少年は湊と呼んだ少年に別れを告げる。


「あした土曜だから、月曜な!部活がんばれよ!」


いたずらっ子のような満面の笑みであいさつに答える。


誰もが一度は経験したことがあるだろうこの返しに少年はあきれ顔で苦笑いを浮かべながら、


「はいはい、また月曜日ね。」


そう言い残すと、下駄箱の前でその少年を待つグループのもとへ走っていった。


「湊、帰るぞ」


教室の中から男の子の声がする。


湊が身体をのけぞるようにして、教室を覗き込んで言った。


「俺がお前らを待ってたの!」


廊下と教室、確かに帰り道に近いのは廊下だ。そこの場面だけを切り取れば湊が待っていたことになるのかもしれない。


しかし実際は湊が待たせていた。


初めは廊下で待っていたのだが、あまりにも話が長いので教室で座って待つかということで、教室で待っていた4人がいつものメンツ。


教室で待っていたのは男の子が2人、女の子が2人。


湊とはもう長い付き合いになるのでこんなノリにももう慣れている。


「んー。じゃあ帰ろうか」


湊をあしらうようにして4人の中の1人の亮が言った。


4人は椅子から立ち上がり、湊が待つ、というか正確には待たされた教室から出て湊のもとへと向かった。


下駄箱で上履きから靴を履き替え外へと出た。


湊  「うーん。今日はこんなにいい天気だったのかー」


身体を伸ばしながら湊が言った。


4人も同様に体を伸ばす。


湊がこんなにウザ、否こんなにテンションがおかしいのは、今日がテストを終えたばかりの金曜日だからだ。


誰もが経験したことのあるストレスからの解放に少しタガが外れてしまった。


4人もそれをわかっているので、特にリアクションは取らない。


男3人、女2人で構成されたそのグループは部活に行くわけでもなく、校門を出て帰路に就く。


「今日は何する?」


彩羽がみんなに問いかける。その問いかけに楓は、


「依頼が来ているか次第でしょ」


と返した。


何の依頼については後々わかるからおいておくことにして、5人は目的地に向かって歩いていく。


帰り道はごく普通の住宅街だ。


その閑静な住宅街には昔ながらの日本風の家から、最近できたばかりの洋風の家までたくさんある。


閑静な住宅街とはいってもつい最近1か月前くらいまでは何かの聖地巡礼をする人たちがたくさんいて賑わっていた。


そんな住宅街をしばらく歩いていくと、住宅街の中の一角にある古風な家に5人は入っていった。


湊  「おばあちゃん、ただいま!」


祖母 「今日もみんなと一緒かい?」


湊  「うん。」


いつも通りの会話が繰り広げられた。


4人が挨拶をしながら、階段を上って湊の部屋に入っていった。


ここは湊のおばあちゃんの家。5人はいつも学校が終わるとここに帰ってくる。


湊たちは部屋につくと荷物を置くわけでもなく湊が何かを終えるのを待っている。


湊が壁の一部分を横にスライドさせると、小さなパネルが出てきた。


そのパネルに湊が人差し指をあてると「ピッ」という音と同時にパネルの上に『認証」という文字が浮き出た。


するとどこからともなく、壁の一角が上に動き始め、新たに道ができた。道の先には上へつながっている階段があった。


湊を先頭に5人がその階段を上っていくとまたドアがある。そのドアも湊が指紋認証して、ドアを開くと、そこには白を基調とした広い空間が広がっていた。


部屋の中央には大きいダイニングテーブルがあり、壁にはたくさんのパネルとホワイトボード。


5人は個人の机にそれぞれ荷物を置き、中央のテーブルへ向かう。


テストから解放された開放感から注意力が散漫になっていたために誰も気づかなかったが中央のテーブルには誰かがいた。


湊  「あれ?姉ちゃんもういたの?」


姉  「今日は学校が早く終わったからね」


湊  「で、なんでここにいるの?」


姉  「なんか文句でもあるわけ?」


湊が姉ちゃんと呼ぶその人は湊の姉の日葵である。


湊  「いやぁ、文句はないけど・・・。ただ驚いただけで」


湊  (平日の昼間からここにいると思わないから思わず口に出ただけなのに)


今、湊たちがいるのは家の中でいうと屋根裏の部分に当たる。しかしこのことを知っている人は少ない。


いまこの家にいる湊のおばあちゃんも知らないはずだ。湊のおじいちゃんが数年前の改築の時にみんなに内緒でつくらせたらしい。


おじいちゃんは昔から機械をいじるのが好きで、少年のような心を持ったままの人だったから、秘密基地のようにしたいということでハイテクな隠し部屋を作ったらしい。


おじいちゃんが作った部屋の内装を湊たちがデザインし、今のこの部屋に至る。


そして、日葵もまたこの部屋の存在を知る人物だ。おじいちゃんの血を色濃く受け継いだ彼女は小さい時から誰に教わるわけでもなくプログラミングをしていた。


彼女のプログラミング技術はレベルが高く、この部屋のセキュリティも彼女が構築した。


そのおかげで先ほど部屋に入るときの指紋認証などが構築され、部屋の秘匿性の維持に一役買っている。


彩羽 「日葵さん。今日は依頼来てる?」


日葵 「んー?あぁ今日は何も来てないよ。」


ここでも出てきた依頼とは6人が行っているサービスに関係するものだ。


サービスとはいうがそんなにたいそうなものでもない。


6人でSecret PortというWebメディアを運営している。このSecret Portにお願いを書き込んで、送信すると湊たちのもとに届く。


その届いた依頼の中から湊たちが興味のある依頼だけを解決するというサービスだ。もちろん報酬も受け取る。


そもそもSecret Portという名は湊が名付けた。ちなみに湊たちが今いるこの部屋もSecret Portと名付けられている。


秘密基地の英訳のSecret Baseと湊(みなと)= 港の英訳 Portを合わせてつくられた造語がSecret Portだ。


ちなみにPortのほうには港のほうの人々が集まる場所という意味もあると湊が説明して半ば強引に名前を決めた。


湊  「せっかくテストが終わったのにやることないのかよー。姉ちゃん今日はなんか試すのないの?」


日葵 「んー・・・あぁそういえばこの前のやつ改良してあるからその辺で試してくる?」


湊  「えーマジで?どこまでできるようになったか楽しみだなー!どこにあるの?」


日葵 「そこの引き出しの中にあるよ!颯くんのメガネも一緒にあるから」


颯  「ありがとうございます」


引き出しの中から湊は5つのケースを出してみんなに配った。それぞれが中身を出して付けていく。


有紗  「よーし準備オッケー。どこ行く?」


颯  「じゃあスイッチオンにして土手まで別ルートで歩いて行こうぜ!日葵さん

映像送信しても平気?」


日葵 「おっけー!できるだけいろいろなところを見ながら進んでね」

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